自分でも、さすがにこれは少し病んでる?!と思う。
一応先の触手の続きで、異世界故に普通に妊娠させてみた。
脳内でウォルターは責めだ。完全に。いわゆるヲルヘンってやつだ。でも、何故か絵で描く時は拷問スレスレの苛められウォルを描きたくなる。どSのくせにどSの嗜虐心をそそっちゃうんだよ、彼は。
小咄 〜HAPPY BIRTH〜
「はぁっ・・・・ふ・・っ・・・・」
触手から解放された口から、ウォルターは大きく息を吸い込み、そして思う様吐き出す。
普通に息ができること。それがこれほどまでにありがたく心地良いことだと、一体この世の人間の幾人が知っていることだろう。
何度も何度も、腐臭に澱んだ異世界の空気を甘露であるかのように吸っては吐くウォルターの姿は、今や見る影もなく変わり果てていた。
かつて美しい艶を帯びていた金髪は触手の吐き出す体液にいやらしく滑り、銃やチェーンソーを嬉々として操っていた逞しい腕は付け根から毟り取られ、引き締まっていた腹部は妊婦のように大きくせり出していた、
否、妊婦のように、ではない。実際彼の腹には子が宿っているのだ。
むろん、それは人間の子ではない。人間の男が人間の子を宿すなど、御伽噺でもあるまいに、現実には有り得ない。
だがここは異世界だ。現実世界の常識だのルールだの倫理だのは一切通用しない空間なのだ。
触手によって植えつけられた異形の種。それらは様々な形に育っち、やがて『母体』の腹を内から突き破って生れ出でるのだ。
ウォルターはすでに数え切れぬほどそのおぞましき『出産』を経験してきた。
最初の頃、彼は胎内で異形の種が膨らんでいく違和感と圧迫感、急激に位置を換えてゆく内臓の痛みに涙を流して苦悶していた。
それを幾度か繰り返すうち、彼は徐々に慣れを見せ初めた。苦しみも痛みもなくなりはしなかったが、それらと折り合いをつけることを身体は本能で覚えていった。
「はっ・・・・ぐぅ・・っ」
そろそろだな、とウォルターは覚悟を決める。
この膨らんだ腹から2〜3日のうちには、下手をすれば今日にでも新しき異形が這い出ることであろう。
ゴーストとはいえ男性である彼に与えられた肉体は、彼の生前の意識を反映してか完全なる『雄』型だ。故に命を生み出すための器官は存在しない。内側から幾度となく引き裂かれた彼の下腹部は、異世界における仮初の肉体をもってしても修復が間に合わず、無惨な裂傷を生々しく残している。
(あぁ・・・私はまた『母』になるのだ)
苦痛に喘ぎながら、そして確実に訪れる更なる激痛に慄きながら、ウォルターはどこかしら恍惚とした表情で宙を見る。
物心つくと同時に求め続けた『母』。
結局理想の『母』彼を得ることはできなかったが、今は彼自身が『母』なのだ。
(けれど、私は我が子をこの腕に抱くことすらかなわない。私にはもう抱きしめるための両腕がないのだから)
いかな異形であろうとも、我が子は我が子だ。いかに不自然であろうとも、『母』は『母』だ。
『母』である以上、我が子を愛さねばなぬ。それが『母』たるものの負うべき勤めだからだ。
ウォルターは幾度目かの『出産』のあと、血塗れの腹から臓器の幾つかを零したまま我が子を抱こうと試みた。
そして両腕を付け根から失った。
彼が血を吐きながら産み落とした『我が子』は、抱きしめようと差し伸べた『母』の腕を食いちぎり貪り喰うたのだ。
怒りは湧かなかった。ただ失望した。
子というものは無条件に『母』にすがり、『母』というものは、無条件に子を愛すものだと信じていたのに。
『母』に捨てられただけでは飽き足らず、我が子にまで拒絶される己の業の深さを呪った。
(ヘンリー・・・おまえに会いたい。おまえならば・・・おまえだけは私を捨てないでくれるだろう?)
無口で感情表現に乏しい青年の穏やかな面差しが甦る。
(おまえは、おまえだけは、私を、私だけを見てくれるのだろう?)
当然だ。あんなに必死で殺しあったのだから。
(ヘンリー、私はおまえの子を産みたい。おまえの血を引く子の『母』になりたい)
愛も憎しみも惜しみなく容赦なく注ぐから。決して繋いだ手を離したりしないから。
(おまえの子ならば、私をはねつけたりしないだろう?)
ずっと、ずっと、世界が終わるまで一緒だ。
(ヘンリーヘンリーヘン・・・・・)
「がぁぁぁぁぁぁぁっっっっ・・・・・・・・!!!!!!!!」
異世界の闇が、獣じみた絶叫に震えた。
そうして異形の魔物がまた一体、『母』の臓物を上手そうに喰らいながらいずこへともなく消えて行った。