スカイプ中に執筆したものを再編集。
ルガバルです。
悪いオヂサマと美青年を目指しました。
普通にセックスしてます。
ケンバル大前提です。
ほのぼの猟奇エロコメディ、基本前向きなケンバルシリーズ番外編とでも位置づけましょうか・・・?


火遊びのススメ
〜良い子は真似をしてはいけません〜


美しい青年だと思った。
そして、次の瞬間には欲しいと思い、思うと同時に接吻、彼の耳元で囁いていた。

「今宵、私とベッドを分かちあわぬか?」

唐突な私の申し込みに、彼は驚き目を見開いた。
完璧なる碧と呼ぶに相応しい、アクアマリンとエメラルドを溶き合せたような瞳が大きく見開かれた。

美しい。
彼は真実美しい。
手入れが行き届いているのも確かだが、彼の美貌を彩るのは金と時間さえあればどうにでもなるような金メッキではない。宝石は生まれながらにして宝石であり、細心の注意を払って磨き上げることで至高の光を帯びるようになる。

「君はとても美しいよ、セルダ君」
私は久しく女にも口にしなかったような台詞を吐いた。それもいささか気恥ずかしいことに、かなり真剣にだ。

「死にたいのか貴様」
私の真剣に対し、彼の放った言葉は酷く艶のないものだった。
だがそれでいい。真に価値あるものは安っぽくあってはいけない。私の地位や財力目当てに喜んで足を開く者など、男女問わず掃いて捨てるほいるのだ。
この私が久方ぶりに欲したも者が、そのような下衆であって良かろうはずがない。もしこれが眼鏡違いであったならば、私は怒りと失望に任せて彼を蹴り殺していただろう。

「君は素敵だ、セルダ君」
私は完全に己に火がついたのを自覚した。


素晴らしく豪奢な寝室の中央に置かれた、これまた素晴らしく豪奢な天蓋つきの寝台に、それらの調度に少しも引けをとらぬ青年が物憂げに優美な長身を横たえていた。
彼の名はバルログ・ファビオ・ラ・セルダ。スペイン屈指の名門貴族であり資産家であり、国民的英雄の若き天才マタドールであり、元シャドルーのお抱えファイターにしてベガの愛人であり、現役の地下闘技場メーンエベンターにして米国の大富豪マスターズ家嫡男ケン・マスターズの妻(本人不認可)である。

「待たせたね、セルダ君」
「・・・・あぁ」

ゆったりとしたガウンを羽織った隻眼の男に、バルログはうつぶせの姿勢のまま答えた。

「どうした?私の麗しの姫君はご機嫌斜めかな?」
「私は男だ」
隻眼の男、ルガールの揶揄にそう返しながら、バルログは薄い自嘲を秀麗な唇の端に浮かべた

私は 男 だ。

 そう、自分は正真正銘”男”、しかも戦いの場に身を置くファイターなのだ。
その己が何故このような・・・・娼婦のような真似をしているのか?どこで何を間違えてそんな気を起こしたのか?
     
ことここに至っても、バルログは今ひとつ現実を現実として捕らえることができずにいた。

もちろん君はれっきとした男性だよ、セルダ君」
「貴様も物好きだな。いくらも美しい女を用立てできる男が、何を好んで男を抱こうとする?」
ルガールのペースに呑まれまいと、バルログは殊更辛辣な口調で問うた。

「ふむ・・・美を至上の価値とする君らしからぬ質問だなセルダ君。君はもう少し賢い子だと思ったいたのだが?」
「子ども扱いはよせ」
そう口にしながら、バルログは己の台詞がすでに酷く子供じみていることに苛立った。

「真に美しいものに、男女の別などとるにたらぬ瑣末時にすぎぬのだよ。私は常に至上のものをこそ求めている。そしてセルダ君、君は全てを超えて美しい」「・・・・・・・・その賛辞、とりあえずは受け取っておこう」
ルガールという男は、まったくもって油断のならぬ男だ。卓越した格闘家であるだけでなく、実業家ととしてのセンスも超一流。ベガ、ギース・ハワード、ヴォルフガング・クラウザーらと並ぶ闇の世界の帝王だなの。そんな男の言葉を真に受けるのは余程の世間知らずか愚か者だけであろう。
しかし、バルログは己に向けられる美しさへの賛辞だけは真実であると直感していた。
そしてそれは・・・認めたくはないがバルログの耳に甘美に響いた。


(・・・・・・私は・・・・・・・・・・・この男に好意を持っているのか?)
寝台の上で抱かれるのを待ちながら今更考えることでもなかろうに、バルログは改めてルガールの姿を見やる。
均整の取れた長身は逞しい筋肉に覆われ、既に齢五十に近いと言うのにそこには些かの弛みも見受けられない。豊かな金髪は常に整然と撫で付けられ艶やかであり、白人としてはやや浅黒い肌にも年齢不相応なほどの張りがある。彫りの深い顔立ちは隻眼でありながら極めて男性的な魅力と精力に満ち溢れている。バルログの容姿が美しいと評される類のものであるならば、ルガールのそれはハンサムという形容がしっくりと来るのだ。

(醜くは、ないな)

バルログはその点に関しては否定しなかった。彼もまた”美”に関しては嘘をつけないのだ。

(しかし、この男は何をして片目を失ったのだ?)
これほどの格闘家が片目を失うほどの相手など、そうそういるはずもない。
バルログは無意識のうちにルガールの義眼を見詰めていた。無機質な機械仕掛けの眼球で埋められた眼窩は、普通に考えれば相当に奇異であり、ある種グロテスクとすら言える。だが、バルログは不思議とそこに醜さを感じることはなかった。
馴染んでいるのだ。まるで、もともとルガールの身体の一部はそうであったかのような錯覚を見る者に与えるほどに。

「私の義眼に興味があるかね?」
「・・・・・・っ」
不意に声を掛けられ、バルログは小さく肩を震わせた。

「すまん・・・・」
己の視線が不躾であったことを、バルログは自分でも意外に思うほど素直に謝罪した。

「何、かまわんさ。そんな君には、これからもっと興味深いものを見せてやろう」
ルガールはニヤリと唇の端を吊り上げ、 バルログが見詰める視線の先で些か芝居がかった仕草で裸体に纏っていたバスローブを脱ぎ捨てた。

「・・・!」
「ふふ、驚いたかね」
予想通り息を飲んだバルログの反応に、ルガールは満足げな含み笑いを漏らす。

彼の右腕は生身のそれではなかった。義眼同様、無機質な機械の複合体により成る人工の腕。

「まぁ・・・ちょっとしたノリというか勢いで数年前に自爆した際うっかり吹っ飛ばしてしまったというところだ」
「勢いで・・・自爆しようとしたのか?」
少し照れくさそう告白するルガールに、バルログは素でつっこんだ。
普通その場のノリで自爆などしない。というか、自爆したら死ぬ。

「若気の至りと言うヤツだ」
「数年前ならばもう若くはないだろう」
「・・・・・・・・・・手厳しいな、セルダ君」
ルガールは苦笑いをしながら右腕を外し無造作にベッドサイドに置いた。

「よく格闘に復帰できたな」
肘のすぐ上から断ち切られた、爆ぜたような傷跡の残る腕から目を反らせぬまま、バルログは半ば独り言のように呟いた。

「優秀な秘書が性能の良い腕を作ってくれたおかげで、戦うことに不自由はしておらん」
「そうか・・・それは、良かったな」

何故かバルログはルガールの言葉に奇妙な安堵を覚えていた。
これまでに不可逆的に身体欠損した人間を見たことがなかった故の衝撃もあったが、それ以上にルガールという卓越した格闘家を惜しんでのことだった。

「もちろん、君を抱くにも何の支障もないから安心したまえセルダ君」
「変態が」
悪態をつきながら、バルログはその場の勢いで自爆し、なおかつ復活するしぶとい男に親しみを覚え始めている自分に焦り始めていた。

私はこれからこの男に抱かれるのだ。

今更な、どうしようもなく今更な認識にバルログは微かに震えた。
後悔している訳ではない。だが、何かが胸に引っかかっている。

「私が恐ろしいかね?」
「誰が貴様など恐れるものか」
穏やかな慈愛にすら満ちた声で問われバルログは反射的に言い返す。

怖いわけではない。嫌悪しているわけでもない。
ただ・・・・ただ・・・・・・・・・・・・・・

「君の美しい肉体の全てを私の前に曝け出すがいい」
低く甘い声で囁き、ルガールは恋人から届いた初めての贈り物を紐解く少女のように繊細な指使いでバルログの纏うローブを剥ぎとっていった。

「美しい。想像していた以上に美しい。まったく素晴らしいよ、君は」
ルガールは眼前に横たえられた、しなやかさとたおやかさを矛盾することなく兼ね備えた若々しい肉体に隻眼を完全に奪われていた。

「私はこの年になるまで女も男も星の数ほども抱いてきたが・・・セルダ君、君は彼らの中の誰よりも美しい」
「歯の浮くような台詞をよくも次々と吐けるものだな。その星の数ほどの者たちにも同じコトを言って来たのだろう?だが、私をそうした愚か者どもと同列にはせぬことだ」きつい瞳を真っ直ぐに向けられ、しかしルガールは嬉しそうに、実に嬉しそうに笑った。

「早速の嫉妬とは、可愛い真似をしてくれるものだ」
「な・・・!」
予想の斜め上をいくルガールの反応に、バルログは言葉を失くした。
この苛立ちを誘う無駄な前向きさには不愉快なほど覚えがある。もしもルガールが彼と同じタイプの人間であるとするならば、老獪な分非常に厄介だ。むしろ危険だ。

「自惚れるのも・・・・・大概にしろ。私はただ、そこいらの卑しい娼婦と私が同じに見られることが不快だと言っているだけだ」
ようやく言葉を搾り出した。

「君のその気位の高さもまた愛しいよ、セルダ君」
やはり、この男も会話がどこかズレている。
裸体を晒したまま、バルログはそう判断を下した。
どうしたわけか、彼の周りにはこういったタイプが多い。オープン・ストーカーから半同棲にまでこぎつけたケン・マスターズを筆頭に、ワケのわからない理屈でただ飯を喰らい寝泊りしていくリュウにジャック。部下を引き連れて毎度一騒動起こすギース・ハワード。
彼ら同様、ルガールもまた人の話はあまり・・・・というかほとんど聞かず、自分のペースで物事を進めていく人間に違いあるまい

(私の男運はケン・マスターズいらい最低だ)
バルログは少し切ない気持ちになった。




『君を抱くにも不自由はない』
ああ、この嘘の多いであろう男のその言葉は何と真実であったことか。
バルログは今身をもってそれを味合わされていた。
ルガールの格闘で鍛えた武骨なはずの指が時に柔らかく時に責め苛むように動くたび、バルログの白い身体は陸にあがった魚のように跳ねた。
ルガールの唇に舌に歯に吸われ嘗められ甘噛みされるたびに、バルログの口からはあられもない嬌声が漏れた。

「ふむ・・・・君は随分と敏感な身体をしているようだ。いや、褒めているのだよセルダ君」
「言う・・・・な・・・・・」
バルログの滑らかな頬を、羞恥の涙が幾筋も濡らしていった。
ルガールの言葉が、所謂言葉責めと呼ばれる類の作為的なものであれば、バルログは鼻で笑って済ませていたであろうが、ルガールの意図はそこにはない。純粋にバルログの肉体に酔い、その美とそこに付随する全てを褒め称えているのだ。それだけに救いがなかった。

「ところでセルダ君、私もそろそろきつくなてきたのだが、君の好みの体位を教えてはくれないか?」
「・・・・・・・・・・・・恥を知れ」
「そうか・・・私としては記念すべき君との初夜を、君のお好みの形で演出したかったのだが・・・・・では、些か面白みにはかけるが君の美しい顔を見ながらといこうか」
優しげな言葉をかけながら、ルガールは遠慮のない大胆さでバルログの長い足を抱え不必要なほど大きく広げた。

「ここまできて聞くのも何だが、君は男性との経験はあるのかね?」
「死ね」
「これは失敬。今の質問は忘れてくれたまえ」
「・・・・っ」
バルログはルガールに抗議しようとしてできなかった。彼の中に穿たれたルガール自身の質量がバルログから声を奪っていたのだ。

あれから幾度ルガールに貫かれ、最奥に精を放たれたのか、バルログには明確な記憶がなかった。
最後に覚えている光景は、涙で歪む視界で捕らえていたシーツの白だ。

「お目覚めかなお姫様?」
「誰かが度を越えた行為をしてくれたおかげで、寝入ってしまったようだ」
ルガールの気障な呼びかけに、バルログは皮肉で応じた。情事の後一番に交わす会話としてはなんとも色気がない。

「しかし、君もまんざらではないようだったぞ、セルダ君?」
「黙れ」
身体の後始末までされていることに気づき、バルログは舌打ちしたい気持ちを懸命に抑えた。ここであからさまな苛立ちを見せるのはルガールの思う壷であるような気がした。

「もっとも、君の若い恋人には叶わなかったようだが」
「貴様!」
瞬時にバルログの血が沸いた。

何が『男性との経験はあるのかね?』だ。全て知っていたのだ、この男は。

「私は、貴様が嫌いだルガール・バーンシュタイン」
「これは光栄な言葉だな」
「自爆で鼓膜までやられたか?」
「君は、嫌よ嫌よも好きの内という日本の素晴らしい格言を知っててるかね?私もギース・ハワードに教わったのだが」
「ギース・ハワードぉぉぉぉぉ」

あの日本被れのヤクザオヤジはどこまで私に迷惑をかければ気が済むのか。とにかく一度しめよう。
バルログは堅く心に誓った。

「それから良い事を教えてやろう。君の恋人のケン・マスターズだがね、私の若い頃に良く似ているのだよ」
「勘弁してくれっ!」
数十年後にルガールのようになっているケン・マスターズを一瞬リアルに想像し、バルログは奇声を発して窓から飛び出したい衝動に駆られた。

「ところで空腹ではないかね?ブランチに良い店を知っているのだが?」
「結構だ」
「足に来てしまったかね?」
「・・・・うるさい!」
「では、ルームサービスで・・・」
「よせっ」
バルログは内線をコールしようとしたルガールの手を物凄い勢いで叩いた。

「どうしたのだセルダ君?」
「こ・・・こんな状態の部屋に他人を入れる気か貴様は?!」
「はて・・・君は生粋の貴族だと思っていたのだが?」
バルログの反応はルガールの旺盛な好奇心を煽ったようだった。

「何の話をしている?」
「貴族というものは、使用人の類の目など気にせぬ生き物だとばかり思っていたのだが・・・・存外庶民的なのだな君は」
「私は貴様と違って恥というものを知っているだけだ!」
随分な言われようにバルログ思わずルガールの胸倉を掴んでいた。全裸のままで。

「朝から積極的ではないかセルダ君。私は嬉しいぞ。しかし、年のせいかあと一、二度が限度・・・ごあっ」
ルガールの顔面にバルログの肘が入った。

「昨夜あれだけしておいて、まだ言うかこの色狂い!絶倫!変態!寄るな!!」
「絶倫は男にとっての褒め言葉だ」
「褒めてない!」
「君のそういう素直になれないところも愛しい」
「私は貴様のそういう無駄なプラス思考が疎ましい!」
とことん性格が不一致なのだろう。彼らの会話は端で聞いている者がいたら噴出さずにはおられぬほど噛み合わない。どこまでもどこまでも平行線だ。むしろ話せば話すほど末広がりに隔たっていく。

「わかったわかった。朝からそういきりたつものではない。とりあえずコーヒーか紅茶でも飲もう」
「いらん」
「少し声が枯れている。紅茶にしよう」
「誰のせいだ?!」
「私が上手すぎたせい、か。それでは謝罪の意を込めて、できる限り美味な紅茶を淹れよう」

ルガール・バーンシュタイン。彼は人の話をどこまでも聞かない男だった。


                                                                                   END