EXシリーズで若気の至りで麻薬に手ぇ出してた頃のイメージで。
曹牙的妄想の1シリーズでは、バルログは麻薬からきっぱり足洗い、ケンとラブラブライフしつつ、ルガ様やギース様に迫られまがらオルガーくんのママンやって、気晴らしにジャックをしばき紅丸と不毛な言い争いをしたりと、楽しくファンキーに暮らしてるんだけど、タイプ3なダーク(オルガーに非ず)妄想でいくと見事に廃人。
これはそっちの方。つまり廃人ルートイメージ。

基本はケンバルだけど、ベガバル、バルベガ、ダークバル、バルダークあたりも大変よいと思う。
ノマならキャミィがいいな。金髪美形二人。どっちに転んでも美形しか生まれない鉄板美形家族。
顔に大きな傷のある筋肉質な女の子を好きになったことをきっかけに、美しいもの=完璧なものという価値観を見直すきっかけになったり。でも、彼女の場合基本が美人だから、
「もともとが美しくあれば、その生きた道筋の一つに過ぎぬ傷痕などとるにたらぬ」
とか、やっぱり『美』にはこだわるんだろうなぁ。バルログだし。仮面のナルシストだし。てか、『美』を愛さないバルログなんて嫌だ。

コワレモノたちの向かう先

二人の青年が束の間の邂逅を果たした場所は、理想の自然を描いた風景画から切り取ったかのように、それはそれは美しい場所であった。

どこまでもどこまでも、果てしなく高く青い空。目に染みるほどに白い雲。その下に佇む黄金なす髪の青年たち。
片や素肌の上半身を惜しげもなく晒し、腰まで届く長い髪を地面にばら撒くようにして清流の畔に座ったまま動かず。
片や全身を青の戦闘服とアーミーベストで包み込み、唯一露出した顔すらもその半分近くをガスマスクで覆ったまま立ち尽くし。
彼らは疑いようもなく美しかった。そして彼らの周りにあるものもまた、全て『美』という共通の価値を有していた。
空の色を映し込んだ小川は清らかに澄んでいた。小鳥の囀りと木々の葉が擦れ合う音は絶妙のハーモニーを奏でていた。青年たちの鼻腔は芽吹く緑と土の匂いに満たされ、彼らの若々しく引き締まった肉体は優しい日差しに抱かれ、誰もが羨望と賞賛の眼差しを注ぐであろう金髪は悪戯な風に甘く撫でられていた。
その楽園のような景色の中で、毒々しい赤だけが酷く浮いていた。美しい青年たちは共にその身を血潮の紅で染めていたのだ。


バルログは小川に映る己の顔を凝視していた。
ほっそりとした白い顔。エメラルドとアクアマリンを最も美しい配合で溶かし合わせたような瞳。
かつて彼を『美しい』と最初に称した女性と酷似した美貌が水の中から見詰め返してくる。否、見詰めると表現するにはその表情は余りに虚ろで生気に乏しかった。

(違う・・・・)
バルログの鉄爪が苛立たしげに地面を抉った。
水面に映る顔はかつてと同じく完璧に美しい。だが何かが違う。

(足りない)
自分の『美』には何か肝心要の仕上げが足りない。それが何かわからずに焦燥に駆られる。

「あ・・・・・あぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
何かに取り憑かれたかのうように、そして現実の全てを打ち壊そうとするかのようにバルログは狂おしく水面を叩く。


(これは・・・・・何だ?)
ダークは目の前に佇むどこか幽玄の者のように美しい青年にわけもなく動揺した。
青年は明らかに狂っていた。狂っていながら恐ろしく美しかった。
『凄艶』。
ダークの脳裏に日常滅多なことでは使わない単語が浮んだ。

「おい・・・」
かけるべき言葉もないままに、何故かそう声を掛けていた。
しかし、応えはない。

「おいっ!」
瞬間的に沸き起こった苛立ちにダークは声を荒げた。
会話がしたかったわけではない。むしろ何らかの言葉を返されても困惑しただろう。それでも、この美しい青年に無視されることは酷く気に喰わなかった。

「あー・・・・」
「っ・・・!」
美しい双眸が不意にダークを捉えた。

「何・・だ?」
不意に見据えられ、ダークの身体と舌は意思に反し強張った。
恐ろしいと思った。
害意もない。悪意もない。敵意もない。
威圧的でも暴力的でもなく、醜悪な容貌をしているわけでもない。
儚げな妖精のように清流の畔で長い髪を揺らしている青年。その秀麗な口元には艶やかな笑みすら浮んでいるというのに。

(呑まれる)
隙あらばダークを飲み込もうとする闇よりも深い闇。
それが青年の瞳の奥に見えた。


「あ・・あぁぁ・・・・・・・」
バルログは歓喜の声を漏らした。
漸く足りないものが揃ったのだ。美の最後の仕上げには、至上の美の語り部たるにふさわしい『形』を持つ鑑賞者が必要なのだ。
この青年ならば、充分に資格がある。
時間と空間の境目すらも曖昧になりながら、バルログの頭脳の一部は冴え渡っていた。正常とは言いがたかったが、彼が追い求めてきた美を追求するための回路だけは歪みながらも切れずに残っていた。

(綺麗・・・・な子だ)
見開いた少し紫がかった紺碧の瞳に己を映して立ちすくむ青年に、バルログは蕩けるような優しい微笑を投げかけた。

(最後の・・・大切な最後の仕上げ・・・・おまえに手伝ってもらおうか)
ゆらリ。
バルログは優美な長身を立ち上がらせ、やや小柄な青年の形の良い頭を見下ろし、彼の髪が極めて美しい白金であることに大いに満足した。

「私を、見ろ」
いかなる魔力が込められていたものか、青年はバルログの言葉のままに彼だけを見詰めた。

「ああ・・・美しい」
バルログは青年の瞳の中の己に酔った。
完全なる美。骨身を惜しまず愛し磨き上げてきた完璧な姿。
これが壊れるその瞬間は、どれほど儚く美しいことだろう?
白い肌を彩る深紅は、いかほど鮮烈な美を誇ることだろう?
もう、それらに思い焦がれることもない。それは今すぐ目の前に、少しだけ手を伸ばせば届く所にあるのだから。

「私は、この時を、待って、いた」
鉄の爪がバルログの顔右半分をゆっくり丁寧に、まるで愛撫を与えるかのように引き裂いていった。


あぁ・・・・これは、一体何なのだ?
唐突に、そして静かに行われていった一連の惨劇にダークは息苦しさを覚えてマスクを外した。新鮮な空気を求め大きく息を吸い込む。

「う・・・・っ」
吸い込んだ息を吐き出すよりも先に、青年の流した血の臭いにダークはえづいた。
苦い胃液に咽ながら、ダークはぼろぼろと涙を流す。だが、これは一体何のための涙なのか?
悲しくはない。当然だ。赤の他人が死のうが生きようがどうでも良い。極言すれば復讐を果たした後ならば、己の命すらどうでも良い。
同情?有り得ない。勝手に自傷した愚かな青年の何に同情するというのだ。そもそもそんな人間のような感情はとうに捨てた。

(あぁ・・・・ああっ・・・・っ)
思考が千路に乱れて纏まらない。瞼の裏で目まぐるしく点滅する眩い白と毒々しい赤。形容しがたい感情の昂ぶりがダークに瞳を閉じることを忘れさせ、止まらない涙を流させる。
漠然としていながらギリギリと締め付けてくる不安と焦り。
それを自覚してダークは既に吐く物もない胃を痙攣させた。

「私を、見ろ」
頬を挟む血塗れの手。いつ外したものか青年の手に既に物騒な鉄爪はなかった。
サラサラと落ちかかる、自分のものとは色味の異なる長い金髪。こうして鼻と鼻が触れ合うほどの距離で見て尚非の打ち所のない美貌。
そう、青年は美しいのだ。その顔の右半分を己が手で無惨に引き裂き潰し紅に染めていながら、醜さという概念が入り込む余地がないほどに美しいのだ。むしろ片目を潰したことにより、残った瞳の力が増したようにすら思えた。

「や・・・・・闇・・・闇がぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
青年の何も映さない、それでいて全てを塗り込めた瞳がダークの狂気を解放った。

「・・は・・・ぁ・・・・・っ・・・は・・・」
荒い息をつくダークの足元に、コロリと転がるは世にも美しい生首一つ。

「俺も・・・いずれ・・・負・・・・負負負・・・・・・くく・・・はははははっっっっ」」
狂気の青年の辿った末路に、ダークは彼自身の近い将来を見て哄笑した。
全てを終えた暁には、こんなふうにコロリと転がってあっけなく終わる。何と愉快なことではないか。

「ふふ・・・・ふふふふふ・・・・・」
仇のもとに向かうはずのダークの足取りは奇妙に軽く、どこか調子の外れた笑い声だけが螺旋を描いて蒼い空に吸い込まれていった。