『クリスマス瀬戸内』
クリスマスフリー絵です。珍しくアニキが優勢です。たまにはいい目を見させてやる気になりました。
曹牙の描くアニキはどこまでいっても姫顔だなぁとつくづく思いました。
クリスマス小話『滅入り栗酢鱒』
長曾我部元親の日記より一部抜粋
12月24日くそ寒い
鏡に映した自分の姿に、俺は大いに満足した。
白い淵飾りのついた赤の上着と西洋袴に、磨き抜かれた革の長靴。普通の奴が着たら悪趣味なほど派手な衣装だが、俺が着るとてめぇでも怖ぇくらい良く似合う。流石俺。西海の鬼・元親様だ。そんじょそこらの田舎モノとは着こなしが違うってもんだ。
これならあのクソ生意気な瀬戸狐も俺に靡くに違いねぇ。
大体あいつは素直じゃねぇんだ。ホントは俺のコトが三度の飯より好きなくせに(そりゃぁよ、饅頭や日輪にはちぃっと叶わねぇかもしんねーけど)、寄ると触るとツンケンしやがる。
けど俺はそれが不器用なあいつの精一杯の愛情表現だってちゃぁんと知ってるぜ?その証拠に采配で殴りかかったり燃やして来るだけで、あのとんでもなく物騒な輪刀で切りかかって来ねぇんだよな、あいつ。俺のこさえてやったカラクリも、なんのかのと言いながら使ってくれてるし。
だから俺は折にふれあいつの元に足を運ぶ。素直じゃねぇあいつは、寂しくて寂しくて饅頭しか喉を通らないような時でも、てめぇから俺のトコに来るなんてできねぇんだから仕方がねぇ。難儀な奴だが、惚れた弱味だしゃぁねぇよ。
今日の俺のいかした装いは、滅入り栗酢鱒なる異国の神を祀る祭礼衣装だ。政宗は何かにつけちゃぁ俺が楽しくなるようなことを教えてくれる。我儘で、偉そうで、滅茶苦茶で、ガラの悪い奥州の片目野郎。何かと敵の多そうな奴だけど、俺は嫌いじゃねぇ。強くて綺麗で面白ぇ奴は皆好きだ。
その点政宗は文句なしに強ぇし半端なく面白ぇ。古いものにしがみつかねぇ姿勢が好きだ。そういうトコあのオクラもちったぁ見習って欲しいぜ、マジに。あいつときたら、やれ仕来りだ慣わしだとかび臭いことにうるさくてかなわねぇ。
んなわけで、心優しい俺は政宗から仕入れた面白行事『滅入り栗酢鱒』をすべくナリのとこに行く。この年末に落ち着きがないだの、先方にご迷惑だのと知ったこっちゃねぇ。俺はいつだって行きてぇとこに行ってやりてぇことをする。いつだっててめぇの一番だきゃぁ見失わねぇ。
なぁ、待ってろよナリ。夜にはそっちに着くからよ。贈り物袋の中にゃ、もうちゃんと栗と鱒の酢漬け和えも入れたんだ。
予定通りの時刻、俺はナリんちに着いた。んで、予想通りけんもほろろに門前払いを喰らった。
うんうん、素直じゃねぇかんな。ホントは嬉しくて小便ちびりそうなくせしてよぉ・・・ま、すぐに他のモン垂れ流させてやっけどな!
「よ、ナリ!」
勝手知ったる他人の城だ。俺はあっという間にナリの居室に辿り着いた。強行突破でも俺としちゃかまわねぇけどよ、やっぱ戦でもねぇのに人傷つけんのはな?
「・・・・またそなたか」
おーおー。そんな嫌そうな顔してくれちゃってよぉ。そそるじゃねぇか、誘ってんのかぁ?
「ここは我の領地、我の城、我の室じゃ。そなた誰の許しを得てここにおる?」
「バーカ。俺ぁ海賊だぜ?好きにトコに行くのに他人の許しなんか貰うかよ」
「そうであったな。では改めて命じる。とく立ち去れ下賎なる海賊よ」
くぅぅっっ!!いいねぇいいねぇ!俺のナリはそうでなくっちゃよぉ。
「それもお断りだ。海賊に命令なんざきかねぇよ」
「・・・愚劣な」
お?そろそろ手詰まりか?
こいつって智将様のくせして言葉に詰まると短い悪口言ってくんだよ。そこがまた可愛いんだ。
「ま、そう言うなって。俺がせっかくおまえと『滅入り栗酢鱒』祝いに来てやったんだからよぉ」
「・・・・・・その馬鹿げた姿は、その『滅入り栗酢鱒』とやらの慣わしによるものか?」
「なかなかイカすだろ?」
「そなたの愚かさが良く出て折るという点では秀逸と言えなくもない」
カー!捻くれた物言い!!たまんねぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!
「どうせまた奥州の西洋かぶれから仕入れた妖しげな情報に踊らされておるのだろう?愚劣を通り越して哀れじゃの、そなた」
「妬いてるのかぁ?」
「死んでしまえ」
照れちまってまぁ!生娘みてぇだぜ。それでこそグチャグチャにしがいがあるってもんだ。
「素直にイカした俺に抱かれてぇって強請れよ?今日は栗酢鱒だぜ?たっぷり喜ばせてやっからよぉ」
思い切り卑猥な口調で耳元に囁いてやる。
知ってるぜ?おまえがこうされると弱いってことくれぇ。
ほら、もう身体が強張ってやがる。
「この・・・・色狂いめがっ」
「好きだろ?」
もう少し、だ。
「嫌だ・・・嫌いだ・・・大嫌いだ」
そうだそれでいい。もっとだ。もっと必死で意地張って見せろよ。むきになればなるほど崩れる瞬間のお前はキレイなんだ。
そうやって張り詰めて砕けて俺を愉しませろ。
「来いよ。おまえに俺をくれてやる」
「そなた・・・など・・・・いら・・ぬ」
目が潤んでるぜぇ?欲しいくせに意固地になって。賢くてキレイで愚かで醜いナリ。
あぁ、本当に愛してるぜ。
「おまえはおまえを俺に寄越せ。交換だ」
「我はそなたなど・・・・」
「おまえにピッタリの衣装も用意してきたんだ。着てくれよ?な」
「あ・・・・」
言葉とは裏腹に抗う力を既になくした細い身体から単衣を剥ぎ取り、代わりに持参した幅広の緑の絹帯で飾り立ててやる。
「似合うぜ、ナリ」
「言うな」
「キレイだ」
「見るな」
「愛してる」
「聞こえぬ」
何が聞こえねぇだ。返事してんじゃねぇか。
可愛いな。どこでも捻くれて、どこまでも突っ張って。
どうしようもなく愛しい瀬戸の姫君。
※
「誰が瀬戸の姫君か?」
「・・・・てめ、人の日記黙って読んでんじゃねぇ!」
ガス。
「誰が、瀬戸の、姫君、か?」
「・・・・・あなた様です」
「焼け焦げよ!」
「アヂッ」
場所は元親の居室。珍しく四国を訪れていた元就をこれ幸いとばかり部屋に連れ込んだ元親は、いつものように焼け焦がされていた。
「そもそもこの日記は何ぞ?我はそなたとかようなことをした覚えは一切ない」
「それは・・・・あーーーえっとだなぁ・・・・多少日記つけるとき脚色したんだよ。誰でもすることだろ?!」
「多少・・・・とな」
「お。おお」
「脚色、とな?」
「あぁ・・・・」
「ふむ・・・田舎では言葉の定義が我らとは大いに異なるとは知らなんだ」
「田舎じゃねぇっ!」
「黙れ!」
「はいっ」
一括されて大きな身体を小さく丸める元親。見栄えのする男だけに情けない。
「あの日そなたが許しも得ず我居室に侵入したこと、その際に馬鹿げた衣装を身に着けていたことは認めてやる。が、その後のことは全てでたらめではないか」
「だってよぉ・・・おまえ、何にもさせてくんねぇから」
「当然だ」
「せっかくお前のために用意した衣装だって・・・・」
「着るかたわけ。そもあれは衣装などではないわ。ただの帯ではないか」
「いや、だからアレをこう色っぽくだな」
「・・・・よほど死にたいらしいの」
「え?ちょっ元就さん??輪刀はやめましょうよ輪刀は!!マジそれアブナイ・・・・っ!」
「堕ちよ!外道」
今日も今日とて、瀬戸内仲良し同盟が、愉快に阿鼻叫喚しながら追いかけっこをする様を、四国の民は微笑ましく遠巻きに見守っていた。
蛇足だが、元親の妄想日記が元就の厳しい閲覧をうけ、三分の二以上墨で塗りつぶされたことを付け加えておこう。