『彼ら』の系統・特色
前回で好き放題ほざいた設定をもとに、ここでは『彼ら』人類の亜種を大きく三分割してその系統・特色・辿った歴史的変遷を述べてみる。多少のご都合主義は亜種である『彼ら』の科学では説明しきれない突発性ということでスルーされたし。
始まりの『彼ら』
彼らがいつどのようにして生まれたのか、正確なことは誰にもわからない。そう『彼ら』自身にすらもわからない。
普通の人より少し力が強い者。勘の鋭いもの。長寿の者。少々風変わりな容姿をした者。変わったものの考え方をする者。
もしかしたら始まりの『彼ら』はその程度の存在に過ぎなかったのかもしれない。
しかし、日本という狭い島国の村社会は異質なものを時に明確に、時に遠まわしに排除する傾向が強かった。故に『彼ら』は必然的に『彼ら』同士の婚姻関係を結ぶ機会が増えていった。
そうした風習が続いて幾百年。
『彼ら』の血は示し合わせたかのように目覚めの時を迎えた。
覚醒した『彼ら』のうち肉弾戦に特化した戦闘民族は後の武将となり、そこからさらに忍が派生。道術・神術に特化した(つまり魔法使い系サイキッカー)は公家となる。
覚醒した『彼ら』
超常の力に覚醒することにより、常人との間に明確な線引きが成された彼らは自然の成り行きで人々の上に立った。
人々は『彼ら』の力を恐れながら敬い、憧れつつも自分たちとは違うモノであると割り切り共生し始めた。
確かに『彼ら』は恐ろしい。時に横暴でもある。だが、彼らと契約することで外敵から守られるという利益もあるのだ。
『彼ら』の多くは地域ごとにまとまり、もっとも強い者が血族を束ね『武家』『公家』といった派閥を作った。これがいわゆる群雄割拠の始まりであり、いつ果てるともない戦国時代は幕を開けた。
一族の結束を強めより強い個体の産出を望む彼らは、更なる血族婚を繰り返した。結果その血は濃度を増し、産まれた子らはもはや人とはいえぬ力を持っていた。
『彼ら』の葛藤
強い個体の産出に必要不可欠であったとはいえ、あまりにも繰り返された狭い世界での血族婚は後に様々な問題を引き起こしはじめた。
凄まじいまでの力を持つ者が産まれる一方で、※心身に著しい障害を持つ者の誕生。
普通の人間同士でさえ閉鎖的な村社会における狭い範囲での結婚は問題が起きやすいのだ。いわんや人の亜種である『彼ら』のこと。煮詰まった血は『彼ら』の想定の範囲を超えた事態を招きはじめていた。
事態を憂慮した『彼ら』は解決策として『常人』を側室において力を損なわぬ程度に血を薄めることを考えもしたが、あまりにも濃く強い『彼ら』の血はもはや『常人』と交わることかなわなかった。
『常人』の女では『彼ら』の精を宿すことが難しく、宿したとしてもすぐに流産・死産・果ては母親の発狂といった痛ましい事態にて希望は潰えた。逆もまたしかりで、『常人』の精では『彼ら』の女たちのもつ卵細胞に喰われてしまう。
こうした『武家』『公家』の別なく起きた問題と、それに対する彼らの対処法がその後の道を大きく違えることとなる。
※心身の障害
武家に生じたこれらの障害は、一般に思われるような虚弱をさすものではない。
むしろ人外の力を持つが故の異形であったり、人並み外れた知能をもちながら倫理が備わらないといった行き過ぎた特化から来る社会不適合をいう。
また公家に生じた症例としては、神通力の増大と引き換えのようにして起きた五感いずれかの喪失が数多く見られた。
『彼ら』の系統
『武家』
後に戦国武将と呼ばれある種の英雄として祭り上げられる一族。
身体能力に秀で、天賦の戦闘能力を持つ。同系統の血族婚により大分薄れたものの、『公家』のもつ道術的能力の名残としてある程度の力をもつ武将は各々の『属性』を持つ。自然界の力に帰属する『属性』は主に彼らの武器に宿り戦闘時に用いられる。というよりも、戦闘時にしか使えない。戦いによって高ぶった彼らの気が本能の奥底を刺激することによってのみ属性はその力を発揮するのである。
人々から年貢を取り立てるかわりに外の勢力から自らの領土の民を守る守護者でもある『武家』は、人々から畏怖の念で仰ぎ見られる存在となる。その取り扱われ方は正しく祀れば利を成すが粗末に扱えば祟りを成す世俗的な神に対するそれにも似ていた。
勢力を伸ばし隆盛を誇っていた彼らに陰りが指したのが、上記した血族婚の弊害であった。
少々弱体化して『常人』に近づいてしまう者。知能・感性に若干問題のある者。その程度のことならば基本的に豪快で大らかな『武家』の者は気にも留めなかったのだろうが、さすがに誰の目にも明らかな外的内的奇形(多くの場合は度を越えた残虐性・殺人嗜好症)となっては放置もできず本格的な取り組みが検討された。
第一の試みとして、『武将』としての力が弱く『常人』に近い者と『常人』の女を娶わせ何とか混血児を産ませる。やがてその子を強い『武将』と添わせる。つまりワンクッションおいて強い『武将』の血統に『常人』の血を幾ばくなりと混入するというわけだ。
これはそれなりの効果を挙げはしたが、やはり弱いといえど『武将』と『常人』では妊娠・出産が困難であることに変わりはなく、これだけで全てを解決するにはいたらなかった。
もともと『彼ら』はその強すぎる遺伝子故にか個体の寿命の長さ・妊娠出産可能な期間の長さに対し産出庶子数が極端に少ないのだから当然である。
そして第二の試みとしてなされたのが政略結婚である。
これまで自分の一族、配下の一族とのみで婚姻関係を結んでいた彼らであるが、さすがに血の行き詰まりを感じ他家から嫁をとることを考えた。互いに強い血を持つ者同士故にこの試みは予想以上に上手くいき、婚姻による同盟という新しい政治的手段の一つとしてすぐに定着した。
ただし、他家の血を入れることに成功したといっても所詮は煮詰まった血同士の婚姻。問題の改善はなされても根絶はできなかった。
彼らの子らにはやはり常人と異なる姿の者(必ずしも醜いわけではない。魔物のように美しい者も多い)が多く、戦闘民族の性であるのか極度に血を好み殺生を欲する者はチラホラと出た。
こうして少しづつでも新しい血を交えんとする彼らの努力は報われ、数百年後には能力的に『常人』に近づく(それでも充分化け物)・個体寿命が縮む(それでも平均150〜200以上が100〜150年以上になった程度)というデメリットはあったものの、戦国時代の主役として華々しい生を謳歌する。
武骨な戦闘種族でありながら、割り切った損得勘定のもとに新しい血を受け入れたことが彼らの勝因と言えよう。
『公家』
肉体を駆使した戦闘を得意とする『武家』とは対照的に、道術・神術・幻術などを操る一族。
化け物じみてはいるがわかりやすい武家とことなり、公家の力は神秘的な謎に満ちていたため、人々から神の権現もしくは預言者であるかのように敬われる。
他国の侵略からの守護と言った世俗的なことを期待される武家に対し、公家に求められることは五穀豊穣の祈りや雨乞い地鎮といった後世においては自社仏閣に求められるようなものが多かった。
武将の力が天賦のものといえども血の滲むような鍛錬によって磨かれるのと異なり、公家の持つ力はほぼ完全に生まれ付いてのものをそのまま使うだけで良かった。故に公家の者は努力だの修行だのと言った泥臭いことはせず、またそうした行いは下々のすることと馬鹿にする向きが強かった。
この時代から既に公家にとって努力・勤勉・切磋琢磨は美徳ではなく、雅・風流・上品こそが真に価値あるものとして認識されていたのだ。
人々の尊敬と感謝を集め安泰にすごしてきた彼らは、血の問題に行き当たるも自分たちの高貴な血に欠点を認めようとせず、あくまで『常人』交わることを拒み、家柄の見合うもの同士の政略結婚にとどまる。
そうして濃くなりすぎた『公家』の血は、もともと持っている好戦的な気質が助長され、凶暴性を孕む精神異常を引き起こす『武家』とは対照的に、彼らの肉体を『常人』以下の脆弱なものとし、その気力を奪っていった。
こうして『公家』は衰退の一途を辿り、戦国の覇を武家に譲ることとなる。
『忍び』
武家から派生、正しくは武家の目論見により作り出された一族。
武家において内的外的奇形化が問題となったことは先に述べたが、『忍』とはそれら奇形を正すことなくむしろ推し進めて作られた種である。
内的外的奇形などというと人は弱者を連想しがちだが、『武家』から出た奇形は必ずしも弱者を意味するものではなかったのだ。
その異形ゆえに会得できる固有の業の数々。その心の作りゆえに成しうる術の数々。それらは非人間的ではあっても戦場や暗殺に際し素晴らしい戦果を期待できる代物であった。(このあたり『バジリスク』のパクリ)
『武家』全体の奇形化はなんとしても止めねばならぬが、この極めて有効な使いようによっては一万の大軍にも匹敵する異能を完全に消してしまうのはあまりに惜しい。
そう考えた『武家』の君主はある恐るべき計画を実行に移した。
不始末を犯し、本来ならば当主の切腹・お家お取り潰しなどの厳しい措置を受けるはずだった家の者をあえて助け、その代償として隠れ里にひっそりと住まい血族婚を繰り返すよう命じたのである。
当然の結果として里は異形異能に満ち溢れ、先に産まれていた異形者も終の棲家として里に身を寄せるようになり、いつしか世を忍び影として生き汚れ仕事を請け負う彼らは『忍』と呼ばれるようになる。
『彼ら』の今
それぞれの経歴を経てこの戦国を生きる彼らの現状を簡単にまとめてみる。
『武家』
戦国乱世の主役。
始まりの『彼ら』ほど人間離れした力はないものの、それでも『常人』を遥かに凌駕する力で戦場を駆る。
しかし複雑化した政治社会においては、『武将』一人の力で全てを解決することはできぬため(いくら強い武将であっても、身体は一つ。一度に戦える戦場も一つ)個人戦の能力だけでなく、管理統率能力や政治力、戦略・戦術の才をも求められるようになる。とはいっても、最終的に大将同士の一騎打ちで戦の勝敗が決まることは圧倒的に多いのもまた現実であり、そんな『武将』の下で身体を張り命を削る一般兵卒にしてみれば、強い大将は頼もしき守護神・憧れの対象であると同時に、自分たちの命の意味を根底から揺るがす存在でもある。
早くにとられた外の血を取り入れる試みが功を奏し、今ではそうした問題はほとんど表面化することはなくなっているが、時折先祖返りとしか思えぬ武将が誕生することもある。
天才でありながら残虐嗜好のある信長、快楽殺人症なだけでなく、被虐・加虐癖著しい光秀、聡明でありながら生来倫理観が欠落し善悪の別を理解できない蘭丸、感情が欠如した元就(彼の場合は後天的に辛い事が多くてそうなったため、完全に生まれつきとはいえないが、その素質はやはり血に潜んでいるといえよう)、銀の髪に左右色の違う瞳、異様に白い肌、制御しきれぬ力の発動、それを封じるための別人格を形成して長き時を姫として生きた元親、二重人格の市など、程度の差こそあれ力の強い者ほど先祖返り傾向は強いと言えよう。
戦国のよにおいては目立たないが、政宗や幸村の命のやり取りに異常な興奮を覚える気質も、『常人』からすれば結構な異常といえるかもしれない。
『公家』
見る影もなく衰退し、今ではかつて彼らの祖先が神とあがめられる所以であった神通力すらそのほとんどを失っている。
今川義元はその最後の仇花といえよう。神通力よりも『武将』的戦闘能力に秀でた、いわば異端の『公家』が最後を飾るというのも皮肉な話ではある。
『忍び』
かつてのような極端な近親相姦こそなくなったものの、依然隠れ里に住み、里の住民のほとんどがどこかしらで血縁関係があるといった環境で暮らす。彼らが『穢れた血』と呼ばれるのは、仕事内容だけではなくそのルーツによるところが大きい。
中には異形や飢饉を理由に捨てられた子供を仕込んだ者もおり、彼らは『下忍』と呼ばれ穢れた血の忍の中のさらに最下層として生涯こき使われ最後には野垂れ死ぬ。
捨て子組にはかすが、佐助などがいるが、彼らはその卓越した才能を見抜かれ例外的にエリートとして育てられる。
凝縮された風魔の血を引く小太郎が喋らないのは、彼が先天的失語症・難読症である故。耳は聞こえているため、相手の言葉を音として聞いてはいものの、それを言葉としては理解していない。彼独自のテレパシーのようなもので、相手の真意を電気信号状態で読み取ることができるため、命令遂行に支障はない。相当の手練でないかぎり、彼に嘘をつくことは不可能である。