・ルガール×バルログ(カプエスのおかげで曹牙的に抵抗ナッシング)金髪の変態ダンディと金髪の超絶美形ナルシストいーじゃん
・プチ猟奇。流血沙汰じゃないけどややアブノな世界?
・ここのルガ様は、ご趣味の欄に強い格闘者の彫像作りとお書きあそばしていた頃のルガ様です。
・ケンバル前提
・スカイプ中の落書き文章です。何かいろいろしゅーまさんとの会話に影響受けまくり




私の人形は佳い人形

ルガールはその日すこぶる上機嫌であった。それは常に気難しい皺を眉間に刻んでいる彼にしてはたいそう珍しいことであり、彼の側近たちは主の様子に安堵と共に一抹の不安を感じてもいた。何せ彼らの主は恐ろしく気まぐれで、その上比類もなく残忍なのだから無理もない。

「私だ。そちらの準備は整っているだろうな?」
内線をかける声すらもが弾んでいた。

『はっ!もちろんでございますともルガール様』
ルガールに答える男の声には滑稽なほどの緊張が滲んでいる。主の求めに対し失敗は許されない。殺人をなんとも思わず、また全てを容易くもみ消せる男。彼の仕える主はそうした人物なのである。ことに今回の『素材』は主が入手時より執着してやまなかった逸材なのだ。どうあっても成功、それもただの成功ではなく最高傑作に仕上げなくてはならないのだ。



衣服を全て剥ぎ取られ身体を隅々まで拭き清められながら、バルログは身動き一つ出来ぬない己が身を呪った。

ルガールに破れ去り殺されるとばかり思っていた。そしてそれをこそ望んでいた。

強く美しいこと。

それこそがバルログの求める在り様であり、存在意義の全てであった。故にそれを失くしたその時には、己よりも強く美しい者による速やかなる死刑執行をと願っていた。
だが、彼の願いは無残にも踏みにじられ蹂躙された。


「お待ちしておりましたルガール様」
白衣の男が深々と主に向かって頭を下げた。

「素材の状態はどうだ?」
「最高の状態を保たせていると自負しております」
「ふん・・・それは大した自信だな。どれ、最後の検品をするとするか」
ルガールはバルログが横たえられたストレッチャーに歩み寄ると、おもむろに黒皮の手袋を外しバルログのすべらかな頬に指を這わせた。

「相も変わらず美しいな、バルログ・ファビオ・ラ・セルダ」
「殺せ」
「ふふ・・・そう焦らずとも、美しい君に最も美しい最後を献じよう」
「殺せ」
「君は存外語彙の乏しい男だな。だが、私に感謝するといい。君の美しさをその盛りのままに未来永劫残してやるのだから」
そこまで口にして、ルガールは感極まったように小さく震えた。実際彼はこれから始める行為にすっかり興奮していた。
ルガールは美しい者が好きだ。最高の美しさ。最高の強さ。それらを完全に手中におくことの悦び。
まさにこの世に君臨する帝王に相応しい贅沢ではないか!

「君は素敵だよ」
深く接吻け、バルログの全身を  -そのしなやかな手足を、引き締まった腹部を- あますところなく、まるで別離を惜しむかのように 愛撫した。

「この感触が失われてしまうのは少々惜しい気もするが・・・・・一時の感傷で永劫の美を損なうのは愚の骨頂。さて、名残惜しいがそろそろ始めようか」ルガールは白衣の男に目をやり、厳かに『作業』の開始を告げた。



「投薬を開始します」
白衣の男は機械的とも言える声音で作業内容をルガールに報告し、バルログの静脈に点滴針を差し込んだ。

「私をどうするつもりだ?」
バルログは静かな声でルガールに問うた。今更足掻く気はない。だが、自分が何をされているのかわからないというのは不愉快だった。

「ん?先ほどから言っているではないか。君の美しさを永遠にするのだよセルダ君」
「戯言を・・・・はぐらかすな」
「ふむ・・・・君は抽象的な表現は嫌いかね?では直截に言おう。私の趣味はね、セルダ君。強く美しい者を彫像にしてコレクションすることなのだよ。君は私のコレクションの中でも最高のものになるだろう。私は今とても嬉しいのだよ。まるで初めて女と床を共にする子供のような気分だ」
ルガールはいつになく饒舌だった。あるいは目の前に横たわる青年の魔性の美が彼の中の何かを狂わせているのかもしれない。

「偏執狂が・・・・・だが、審美眼だけは確かなようだな」
バルログは一言吐き捨て、己の運命を受け入れた。



「うぁぁ・・・・・っくっ・・・はぁっ・・・・・・・・・あぐぅぅっぅ・・・・・・・・・・・」
ルガールと最後の会話を交わした数十分後、バルログは動けぬ身体を震わせながら、ストレッチャーの上で悶絶していた。

「すまないね、セルダ君。美しさのためには苦痛がつきものでね。何、私も常ならばかように面倒なことはしないのだが・・・・君ほどの逸材をありきたりの方法でコレクションに加えるのは気がひけてね」
「あぁぁっ・・・・・・・・っっ」
「ふむ、もう口を利くこともできんかね?苦しいだろうな、可愛そうに」
平然と嘯きながら、ルガールはバルログの汗の浮いた額を酷く優しい、慈愛すら感じられる仕草でそっと拭った。

「・・ッ・・・・・・アァ・・・・」
バルログは一際大きく身体を痙攣させ、口から大量の胃液とそれにより薄まった血を吐いた。

「おっと、吐瀉物で窒息死などというつまらん死にかたはしてくれるなよ?君には美しい死が待っているのだからな」
ルガールは嘔吐し続けるバルログの顔を横に向けて気道を確保し、引き締まった筋肉によって作られたしなやかな背を擦ってやった。数時間後にはこの暖かな背中が冷たい彫像の中で固まっていると思うと、狂おしいほどに愛しかった。

「通常ならば殺して内臓を取り出し縫い合わせて彫像にするのだが、私は最後の瞬間まで生きている美しい君を見ていたいのだよセルダ君。それに、君の白い肌に無粋な傷を残すのも気に喰わない。そこで私は考えたのだ。特殊な薬剤で君の内臓に防腐処置を施し、さらに別の薬剤で肉体を硬直させ、生きながらにして彫像の中に塗りこめていこうとね。どうだ、素晴らしいだろう?」
ほとんど恍惚としながら語るルガールは、周囲の異様な光景さえなければ情熱的に愛を語っているようにも見えたことだろう。
否、彼は愛しているのだ。彼なりの表現で、バルログという美しい青年を心の底から愛しているのだ。

「っ・・・・き・・・さ・・・・ま・・は・・・・・・ぁ・・・っ・・・・・」
狂っている、とバルログは思った。しかし同時に、彼の思いをごく自然に理解もできた。

美しいものに対する拘りと敬意。

己以外の美と向かい合った時、バルログはそれを認めた上で破壊してきた。ルガールはそれをコレクションという形で所有することを望む。手段の違いこそあれ、根底にある価値観は同じだ。

(この男には何を言っても無駄だ。この男を止めるには殺すしかない)
ルガールが己と同じ類の人間であるならば、そこに下らない社会倫理の入る余地などないだろう。



ルガールの宣告どおり、全身を硬直状態にされたバルログは足元から手際よく彫像の中に塗り込められてゆき、今や顔を残すのみであった。
「お別れの時が来たようだなセルダ君」

「ようやく、な」
最期の時を迎えたルガールとバルログの表情は実に対照的であった。
前者の顔には悲痛と哀惜と恋慕が、後者の顔にはただどこまでも穏やかな静謐があった。

「愛していたよセルダ君」
「そうか」
バルログは拒まなかった。

「愛しているよバルログ・ファビオ・ラ・セルダ」
「私は・・・・」
ふと、バルログの脳裏に一人の男の面影が過ぎった。


黒髪を金に染めた陽気な男。人懐っこく騒がしく、彼の美的センスにはまるでそぐわなかった男。
彼がどれほど拒絶しても、ことあるごとに付き纏ってきた男。
それでいて、誰もが誉めそやす彼の美しさに対し、何ら執着らしい執着を持たなかった男。


「私は・・・・・・・」

あの男を愛していたとでもいうのだろうか?
違う。愛してなどいない。
ただ、何となく思い出しただけだ。
それなのに何故、こんなにも懐かしい?
こんなにも会いたい?
張り裂けそうに胸が痛い?


「愛しているとは言ってくれないのかね?」

ルガールの哀しげともとれる呟きにバルログの意識は現実へと立ち帰った。

「誰が・・・・貴様など」
それが誰に向けての言葉なのか、もはやバルログにはわからなかった。わからなくて良いと思った。

「君の愛が欲しかったが、ない物ねだりは子供のすること。私は手に入るものを手に入れるとしよう。覚えているがいい。君と最期の接吻けを交わしたのが私、ルガール・バーンシュタインだということを」


ルガールの隻眼から、一筋の涙が伝い落ちるのをバルログは見た。