攘夷時代のモジャと杉。
今ほど壊れてはなかっただろうけれど、既にその心に闇を巣くわせていた反抗期と思春期まっさかりのチビスギ。
この頃から皆とはちょっと違った目線で遠くを見ることに長けていたモジャ。(でも近くのことで壮絶馬鹿)
突っ張って何でも一人でできるもん!なチビスギ(実際強くて賢いからかなりのことは大丈夫)が心配で仕方のないモジャ。
どんなに強くても、鬼兵隊の隊長さんでもモジャから見ると杉はまだ子供だったらいいなぁと。
オフィシャル170だけど、脳内の彼は165くらいです。だって。銀さんと並んだ時(祭りで)すっごいチッサク見えたし。万と並ぶと小さい小さい。
アニメ見るまでは、杉は黒髪・金目で妄想してたんだけど。ダークパープル髪に黒に近い緑の目ってきれいです。彼に似合ってると思う。
『花華』
戦いはワシが想像しとったより遥かに厳しかった。
甘く見ちょったワケじゃなかが、こがぁに勝ち目のなか戦とは正直思っちょらんかった。
一人ひとりが頑張ればまだなんとかできろー?
そんくらいに思っちょった。
じゃが現実はしょうまっこと厳しいもんじゃった。
毎日毎日、仲間の誰かしらが傷ついて・・・死んでいくんじゃ。
戦なんじゃから人死にが出るんは当たり前なんじゃろうが、ワシぁどうにも慣れそうになかね。
・・・・慣れとぉないぜよ。
人間そがぁなことに慣れちょったら終いじゃ。
人が、仲間が死んだら悲しい。
当たり前のコトを見失ったらいけんのじゃ。狂った場所で狂ったことばしちょるからこそ、当たり前のコトばシッカリ捕まえてにゃぁならんのじゃ。
不意にワシの周りが騒がしゅうなった。
『高杉さんだ』
『高杉さんが帰ってきた』
口々に叫ばれるその名に、ワシぁ弾かれたように顔ばあげとった。
高杉 晋助。
知り合って一年ほどになる坊が、ワシぁ可愛ゆうてたまらんようになっちょった。
坊はまだ14じゃ。強く賢く気の強い坊は、いっぱし大人のような口を利き振舞いばしゆうくせに、その身体は同年代の子供より一回り半ほどこんまい。どこもかしこも細っこくて、ちぃと力ばこめゆうたら折れてしまいそうじゃ。
オマケに坊は必死で隠しちょるが生来の性質として身体ば強ぉない。熱ば出しちゃぁ酷く咳き込んで、食べモンも口にできんとやつれゆう。
それでも坊は平気だ何ともないと懸命に強がる。
それがワシにはどうにも痛々しくてならんのじゃ。
14と言えばまだ子供じゃ。多少の分別はつく年頃かもしれんが、こがぁな場所で毎日毎日刀ば振り回して血塗れになるような年じゃないろぅ?
坊は13のころからそんな毎日を過ごしちょる。坊の大好きな人が殺された怒りと悲しみを目の前の天人どもに叩きつけ、涙のかわりに真っ赤な血ぃば毎日流し続けちょる。
ワシは坊がどうにも不憫でならんのじゃ。
坊が自分で選んだ坊の道じゃ。他人のワシが憐れむのはお門違いじゃろろうし、坊への侮辱でしかないんじゃろうが、それでもそれでも坊の華奢な身体ば身ゆうとワシは胸の奥が痛うなるんじゃ。
「坊!晋坊!!よぅ戻ったのぉっ!あははははは」
ワシは目一杯明るい笑顔で坊を迎える。
有無を言わさず抱きしめた身体は、覚えているよりまた少し細ぅなった気がした。
「ガキ扱いすんじゃねーよ」
すぐさまかえってきた小生意気な声に、ワシは心底安堵する。今日も坊は無事じゃった。まだ坊の心は壊れちょらん。
「ほぉかほぉか。坊はもぅ子供じゃなかか」
「−っ!」
不意に硬くなった坊の身体にはワシはドキリとした。
「怪我・・・しちょるがか?」
ワシが聞けば、坊はプイと顔を反らせ黙り込む。
坊のこういうところは酷く子供じゃ。大人ならば後いう時もっと上手くごまかすもんじゃ。
「坊・・・隠したらいかんぜよ?ここじゃぁちぃとの傷が命取りになりゆうことは、おんしもよぅ知っちょるなが?」
坊と視線ば合わせて、ワシは噛んで含めるように言い聞かせる。意地っ張りなこの坊は、これまでにも幾度か傷を隠して化膿させておるからワシゃ心配でならんのじゃ。
「腕か?腕が痛いがか?」
「平気だっつってんだろ?」
「坊、上着ば脱いとぉせ」
「あ?てめぇに関係ねーだろ?」
坊は女子のように可愛い顔ばしちょるくせに、どうにも口が悪い。二つ年上の幼馴染にいつも口の利き方やら態度やらを口喧しく正されては噛み付いて取っ組み合いの喧嘩ばしちょる。・・・・あぁ、こんなところもやはりまだまだ子供じゃ。
「何でもないんじゃろ?だったら脱げろぅ?」
ワシの少し意地悪な言葉に坊は一つ舌打ちして、自棄のように脱いだ上着ばワシに突きつけた。
「あぁ・・・こがぁに血ぃが出とる」
坊の細い二の腕には、坊の血で赤く染まった薄汚れた布が無造作に巻かれちょった。
「かぁいそうにのぉ。痛かったじゃろ?」
「別に・・・こんなもん痛くねぇーよ」
もう慣れた、かすり傷だと嘯く坊に、ワシの胸がまたキュウと痛んだ。
坊の言葉は半分は強がりじゃろうが半分は本当のコトなのじゃろう。大きく裂けた肉をかすり傷と呼び、その痛みに慣れっこになる日常。
坊のような子供がこんな毎日を送る世の中は絶対に間違っちょる。
早く、一日も早くこがぁな戦は終わらせにゃならん。坊がいつか『かすり傷だ』と強がれないような傷を負う前に。
「ほぉか。坊は強い子じゃのぉ・・・やき、見ちょるワシん方が痛いきに、先生とこいって診てもらうぜよ」
平気だ放っておけと喚く坊を、ワシは膂力に任せて小脇に抱えて軍医の下に連れて行く。
皆は坊には坊にしかない華があると言う。ワシもそれは認める。その華故に、まだ14の坊に大の大人が信頼を寄せ高杉さん高杉さんと慕うんじゃろう。
やき、ワシは坊を戦場の華なんぞにしたくなか。坊にはまだ・・・せめてこのこんまい身体がもうちっくとばかし大きゅうなるまでは、花のような子供であって欲しいんじゃ。