個人自立活動

FIRE(Financial Independent Retirement Early)などのような、「個人で自立した活動」について考察します。

はじめに

現在の自由主義社会である日本社会における原則は「他人に迷惑をかけなければ何をやってもよい」です。
しかし私たちは小さいころから「働かざる者食うべからず」と教え込まれており、働くことが社会で生きていく上での必須条件と思っています。
実際、将来社会に出て働いてよい暮らしをすることを目指すからこそ、我々は小さいころから勉強などの努力をして、かつ様々な体験をして成長してきました。
しかし仕事でキャリアを積むなどして、実社会で生きていく上での知識や経験を十分備えた人であれば、「仕事をしない生き方」を選択することができます。あの堀江貴文氏もかねてより(薄給で無理に働かず)自立した生き方をする人が将来増大すると予想しています。
ところが、30年~40年にわたって勤め仕事を続けてきた「慣性」は想像以上に大きく、定年などで会社を放り出されても、居場所を求めてひたすら毎日図書館に通ったり、「シニア起業」にあこがれてあちこちのセミナーに参加する、といった人が多くいます。
ここでは、お金を稼ぐための仕事はせずに、自分の本当にやりたい事をみつけて自由に暮らす活動を「個人自立活動」(SOMOTF: Stand On My Own Two Feet)と呼ぶことにします。具体的には、定年退職・引退後や、FIRE (Finantial Independent Retire Early)などが該当します。

個人自立活動の内容

活動の実施

  • 家事全般
  • 自立した生活のためには、全ての家事を自分でこなすことが重要である。掃除・洗濯・自宅のメンテナンスのみならず料理も積極的に行う。家事をアウトソースすることは、十分な経済的余裕があってもお勧めしない。使わないスキルは次第に退化し、いざという時に何もできなくなってしまう。家事を「めんどくさい作業」ととらえずに、「掃除で奇麗になった室内や玄関」「片付けや断捨離ですっきりした居室」など、家事でやりがいを感じられるように工夫する。

  • 投資
  • 世の中に出回っている個人的自立やFIREに関する書籍の内容は、ほとんどが経済的自立、特に投資の指南書である。デフレ脱却後は、インフレで資産は確実に目減りする。株や投資信託などのリスク資産にある程度投資することは避けて通れない。

    サラリーマン時代のような毎月安定した収入がなくなると、その代替として、毎月分配型の投資信託に魅力を感じるようになる。しかし毎月分配型では複利による資産の増加のメリットがない。新NISAでも毎月分配型は対象から外された(隔月分配型は選べる)。個人的自立生活では見かけの毎月安定収入よりもトータルな金融資産の運用を心掛ける。

    2024年8月初頭に日本株が大きく下落した。過去にもバブル崩壊やリーマンショックなどがあったが、株式や投資信託はリスク資産であることを再認識し、冷静に判断して行動することが必要になる。

  • 学習・趣味・娯楽
  • 個人自立状態では、資格取得やツールとしてのプログラミングの勉強を除き、キャリアアップのための学習はもう必要ない。学習は趣味や娯楽と同じく、愉しみとして行う。一般に理系の学問は組織人としては重要だが、一個人の愉しみの学習は文学・地理・歴史などの文系学問である。特に、美術や仏教・神道について学習すると、博物館・美術館・神社仏閣巡りに役立ち、学習が立体的なものになる。理系学問の中では唯一数学が本と紙とペンがあればできるものであり、やり方次第では愉しみにもなり得る。数学書を読む上で大事なことは、「式展開の省略されている部分を補うようにノートに書き写していく」「定理などを抽象的に理解しようとせず、必ず具体例を作って確認してみる」である。

  • 地域・サークル・ボランティア活動
  • 仕事をしない者にとって、これらの活動が社会との接点である。自治体の地域センター主催の行事をこまめにチェックしたり、「タウンニュース」などの地域情報紙やケーブルテレビの地域情報番組で地域のイベントの情報を入手する。ボランティア活動も、自治体のホームページにさまざまな案件が載っている。しかし、スキルや資格を必要としない活動には枠に対して希望者が殺到して、やりたくてもできずにかえってストレスとなるケースも出てくる。報酬がなくても自身にとって十分なメリットやインセンティブがあるような活動は、時間をかけて探したり準備したりした方がよい。

  • 仕事(非推奨)
  • 昔でいう「内職」、今でいう「副業」的な仕事を行って家計の足しにする、という考え方もある。しかしこのような「ちょっとした稼ぎ」は以下の点で問題がある:(1)正式な雇用でない「ギグワーク」は最低時給がなく、拘束時間が長いわりに収入が少ないケースが多い、(2)「稼げる副業」といった甘い言葉に乗せられて始めて見たものの、実際は詐欺まがいの重労働で薄給というケースもある、(3)「クラウドソーシング」がもてはやされたこともあったが、クラウドソーシングは労働供給側のオークションであるため、働く側は買いたたかれ、労働単価は非常に安くなる。

活動の管理

  • 健康管理
  • 年を重ねるにしたがって様々な病気にかかるリスクが増大する。ラジオ体操などの軽い運動、ウォーキング、筋肉を維持するエクササイズなど。定期健康診断を受けることも重要。

  • 資金管理
  • 財産管理や日々の出入金管理は面倒であるが、「マネーフォワード」などのアプリでかなり自動化できる。資産や支出の状況がいつでも手軽に確認できることが極めて重要。

    今後の財産見通しは、年間の出入金実績をベースにエクセルシートを作っておく。

  • 個人活動指針(標語・道しるべ・教訓)
  • 「迷惑老人」にならないように:(1)セクハラ、カスハラ、ストーカーをしていないか。サービス業務として接している(特に若い)女性従業員と必要以上の無駄話をしたり、電車やバスの中で女子学生に「席空いてるのに座らないの?」といった余計なおせっかいをするのは慎むべき。(その接している)相手が男性であっても同じ事をするか考えよ。(2)難聴を予防する:難聴になると、女性の高い音声が聴きにくくなったり、大声で怒鳴るように話したりするようになる。マグネシウムを摂る(海藻・ココア・アーモンド等)[1]。

    身の安全の確保:難聴になると道路を走る車の音が聞こえにくくなる。道の右端を歩くことを意識する。

[1]新版老人の取扱説明書

個人自立活動の論点

検討すべきポイント

  • 居場所の問題
  • 「毎日行くところ」「家以外の居場所」がないと生活リズムがつかめないのは「個人的自立」していない証しか?

  • 「起業」の誘惑
  • 一部のサラリーマンは定年で仕事がなくなると「起業」を夢見るようになる。シニア起業の書籍も多く出ており、起業塾や起業セミナーには多くのシニアが参加している。なぜ「定年後起業」に惹かれてしまうのか?理由は、「老後資金」「社会との関わりの維持」「やりがい」「肩書き・見栄」であろう。冷静に考えれば、組織に仕えることしかしてこなかった元サラリーマンがいきなり起業してもうまくいかない可能性が高い。大きな初期投資をして失敗すると老後の安定的生活もおぼつかなくなる。「個人的自立」は、勤め仕事や起業をすることなく「安定した老後資金」「社会との関わりの維持」「やりがい・生きがい」を追及するものである。

  • 周囲から「浮いてしまう」おじさん達
  • 8月1日の「ラジオ深夜便」での元新聞記者・稲垣えみ子氏の話: (1)最近感じるのは、周囲から「浮いた」おじさんが多いこと。自分を大きく見せたがる。いかに自分が他人より優れているかを誇示しようとする。 (2)会社は競争社会で、そこに長年いると、他人より上であることを示すのが「クセ」になっている。 (3)逆に好感が持てる人はどういう人かというと、何かを言われたら、間髪なく「はい!」と返事をする人。すぐ動く人。それは「相手を肯定している」「他人を認める」という度量の深さから来ている。

  • 「早期退職は老化を早める」について
  • 「早期退職して社会との接点がなくなると、精神的・肉体的老化が加速する。だから健康で長生きのためにできるだけ仕事を続けた方がよい」ということはよく言われる。そもそも経済的理由から仕事を続けざるを得ない人もいるが、経済的に余裕があっても健康維持のために仕事を続ける人は多い。 しかしこれは仕事のポジティブ面だけを見ている。ネガティブ面の最大のものは、人間関係から来るストレスであろう。上記のような論をぶつ人は起業家に多いが、特に起業家は人間関係スキルが高くストレスを乗り越えられる人がほとんどである。しかし、自分を含めて仕事の人間関係ストレスに苦しみ、そこからなるべく早く解放されたいと思っている人も非常に多いと思われる。 「ボランティア活動も人間関係の面では仕事と同じではないか」という意見もあるだろう。基本的には同じだが、ボランティア活動は接する相手など自分で選べる要素が多く、嫌なら活動自体をいつでも辞められる。 「仕事をしていればフィジカルな運動になる」についても、それはバランスのとれた運動ではない。家に閉じこもっているよりもましたが、自分でプランニングをしてエクササイズをした方がはるかにバランスのとれた運動ができる。 そしてもう一つの大きな問題は、誰でもいつかはリタイアしなければならないことである。リタイアして自立的生活にスムーズに移行できる人は少ない。特に勤め仕事の慣性は非常に大きく、そこから脱却するにはかなりの年月を要する。年齢が高くなると、勤め仕事の慣性から脱却して「自立活動」に移行するのが次第に困難になる。