X-FILESの著作権は、FOX、1013に帰属します
THE TURNING
POINT
by may
彼女は光の消えたセットの中で天井を仰いで立ちつくしていた。
薄暗い中に浮かび上がる、綺麗な顎の白い曲線が軽く引き結んだ
ふっくらとした唇への輪郭へとつながり、鼻梁をたどってブルーグレイの
瞳を囲む長いまつげに行き着く。
柔らかい視線が、どこからか洩れてくる淡いオレンジ色の光を辿るように
凛と中空へ向けられている。
どこか、彼女の、長く演じていた女性を連想させる、その横顔。
「終わったね」
「David」
天井を仰いでいた瞳が驚いたようにこちらを向いた。
緊張を削いだにも関わらず、すぐにこぼれるような笑顔になった。
君はいつもそうだな。
「先に行ったかと思ったわ」
「僕もそう思ったよ」
くすりと笑い合うと、彼女は再び視線をセットへ向けた。
と言っても、もう機材はすべて運び出されて、味も素っ気もない
単なる殺風景な空間だが。
「ここへ来るのも、もう終わりだと思うと何だか変な気分だわ」
7年間。 確かに短い時間ではない。
ここのセットを使い始めてからは、2年だが…だが、そういう意味ではない
ことは分かっていた。
ここは…「THE X FILES」のセットだった。
7年。
人間としての人生の中でも、俳優生命の中でも、最も貴重な7年間を、
彼等二人はここで費やした。
ここから全てが始まったのだ。
「これから、また再出発だ」
「そうね」
天井を見上げたまま、彼女が微笑む。
その笑い声も、仕草も、もうこれからここで見ることはない。
苦いものが彼の胸をよぎった。
…いいじゃないか。
ずっと、それを望んできたんだろう?
それまでの緊張を断ち切るように弾ける彼女の笑い声。
戯れるように触れる指。服越しに感じたかすかなぬくもり。
彼女と演じる時に生じる、共鳴するような、それでいて弾き合うような、
独特の空間。
それを疎んじたのは、自分の方だったのではないか。
だからこそ、契約更新を切り捨てた。
なのに、なぜ今になって?
「おーい、誰かまだいるのか?」
突然、セットの入り口の方から怒鳴る声が聞こえた。
「あ、いるよ!」
思わず反射的に言葉を返す。
「もう締めるから、早く出てくれ〜!」
「分かった。今出るよ!」
怒鳴り返して、後ろを振り向く。彼女は微笑を浮かべて頷いた。
「出ようか」
「ええ。…でも、ねえDavid。お願いが有るんだけど」
「何が?」
少し驚いて彼女に向き直ると、彼女はふわりと笑んで、その手を彼の方へ 差し出した。
「握手してくれる?」
「? …ああ」
指が触れる。
握りしめる。その小さい手に、力がこもる。
はっとその瞳を見返すと、青い瞳はまっすぐにこちらの瞳をとらえていた。
よく知っているその…
「これまでありがとう、モルダー捜査官」
「…こちらこそ。スカリー捜査官」
彼女は嬉しそうに、心底嬉しそうに微笑んだ。
「おーい、まだかい? 電気を消すよ?」
「今、出るわ!」
急かす声に応じて、彼女が歩き出す。
さりげなくつないだ手が離れるのと、電気が消えるのと、
どちらが先だったのか 分からない。
そして、そのどちらが、僕に彼女の手を取らせたのかも。
その瞬間、彼の手は離れかけた彼女の手をつかみ、渾身の力で引き寄せていた。
「Dav…?!」
「何も言うな!」
自分と比べれば、あまりにも小さく華奢なその体を包むように抱きしめる。
「今だけ…だ。何も言わないでくれ……Gill…」
彼女は黙って、そしてゆっくりとその手を彼の背中に回した。
何も…言えなかった。
暗闇の中で、彼のぬくもりが声もなく離れた。
長年の相棒。そりゃ、関係を持ったことがなかったとは言わない。
でも、結局は私達はそれぞれに相手を見つけ、仕事仲間として終わった。
終わる…はずだった。
背中で、ドアの閉まる音が聞こえる。
私は立ちつくしたまま、瞳を閉じたまま、それを聞いた。
ねえ、David。私達、今は離れなくちゃいけない。
でも、またいつか会えるわ。
今よりもっと、いい人間に、俳優になって。
そしてその時、また、同じ舞台に、あるいはスクリーンの前に立つことができる
かもしれない。 そうしたら、きっと今より、いい作品が作れるわ。
だって、私、思ったの。
あなたと初めて会った、7年前のあのオーディションの時。
あなたが、私の俳優として欠けている所を埋めてくれる人だって。
どんなに離れている時間が長くても、一緒に演じる度に独特の世界を生み出したという
フォンティーンとヌレエフのような、俳優としての伴侶になれるって。
…そうよね? きっと…だから…また、いつか、
いつか、きっと……。
暗闇の中。
綴じた瞳から、一筋の光るものが頬を伝い、静かに落ちた。
End
Eveお師匠様 いや〜ん触発されちゃいましたよっ(^0^)
って… …あれ?これって悲恋?…………ぐは。すみません。 それからー、バレエでベストパートナーだった二人って フォンティーンとヌレエフで名前あたってますよね?(←自分で確認しろ) 漫画の「スワン」で読んだっきりなので、記憶定かじゃなくて…(爆死覚悟)。
いやはや、二重三重のミスがあると思いますが、なにぶん触発された勢いでの一気書きficなのでお見のがしを〜。。。 ではこれから送信します!(笑)