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If I
had you
by Marine
彼女は光の消えたセットの中で天井を仰いで立ちつくしていた。
密やかなノックの音。
私はPCの画面から目を離し立ち上がった。
カチャ
「Hi Gill....」
「大丈夫?」これが何を意味するのか彼は知っている。
「あぁ。ずっと睡眠不足だったから今からホテルで寝るって言ってある」
ノブにDon't Disturbのプレートをかけ、ドアの施錠を確かめる。
些細な作業のいちいちが私の心を重くする。
そんな気持ちを知っている彼は、私をそっと抱き寄せてくれた。
「会いたかった・・・・・・」
「私も・・・・」
降りてくるあなたの唇にそっと応える。そして、またいつもの感情が胸に渦巻く。『あなたの全てが私だけのものならば・・・・・』と。
でも、7年も演じてきた女性さながらに内心を押し隠し、努めて明るく 振る舞う。そうよ、、、私は女優なのよ、、、演じきれるはずだわ、、、
「喉は乾いてない? 何か飲む?」
「あぁ、、、スコッチでも貰おうかな」
「準備してくるわ。待ってて。。」
部屋の中に用意されているバーカウンターからスコッチのボトルを取りグラスを2つと氷の入ったペールを銀のトレーに乗せて戻って来ると、ソファに座っているとばかり思っていた彼がいない。
「David? どこ?」
「ここだよ」
隣の部屋から返事が返ってきた。
ライティングデスクの上に置かれた私のラップトップを見ていたようだ。
「XFのサイトを見てたのかい?」
「えぇ。 ものすごい量よ。世界中でこんなに愛されていることを改めて思い知らされたわ。英語圏以外のサイトでも書いてあることは分からないけど、愛情と情熱はものすごく伝わってくるの。」
「そうだね。僕にも分かるよ。で、君はここで何をしてたの?チャットルームで一般人になりすまして会話してたのかい?」
「ふふ。。。それは今日はしてないわ。今日はね、画像をダウンロードしてたの。もう自分でさえすっかり忘れていた雑誌の写真とか、自分でも 初めて見る画像とかが結構あってびっくりしちゃった。」
「あぁ。ホントに、どこで見つけてくるんだろうっていうのがあるよね。落としたやつを僕にも見せてくれる?」
「いいわよ。このフォルダにまとめてあるの、、、」 私はそう言うとひとつのフォルダをクリックした。
「ああ 覚えてるよ、、これはS1の頃の映像だね。君がまだふっくらしてて捜査官っていうよりまだ訓練生って感じの頃。」
「それって私がまだあか抜けて無いって言いたいんでしょ」
「違うよ。白鳥になるまえのアヒルかな?」
「ヒドイ〜! あなただってこの頃はスマートな学者って感じよ?」
「確かに今より10ポンドは痩せてたしな。」
二人で声を上げて笑った。そして次々と画像をクリックしては、その度に その画像にまつわる思い出を言い合った。
自分でもそう思うけれど、ホントにまだあか抜けてなくて、それに周りの環境が激変して一番とまどい困惑し、それに押しつぶされそうになってた頃だけど彼と一緒の撮影というだけで緊張がほぐれて自然に笑えた・・・予算が少なく衣装も野暮ったくて、でも明日が持つパワーを素直に信じて くったくなく笑えた頃・・・今の私達には出来ない笑顔・・・
「君がどんどん綺麗になってくのがよく分かる・・・」
彼がポツリと呟いた。
「女優としての自信と、君を見る数えきれない視聴者の目が君をこんなに美しくしたんだね・・・」
「違うわ。David.... 私が変わったのはあなたが愛してくれたから....」
「Gill...............」
彼の瞳が悲しげな色をたたえた。
彼が何かを言う前に私は話を変えようと試みた。
「でもホントに沢山のショットでしょ?持つべきものは熱心なファンね。彼等のおかげでこんなに沢山の思い出をとっておけるもの。」
「あぁ.... XFの、というよりモルダーとスカリーの2ショットは多分世界中で一番たくさんダウンロードされてるはずだよ。だいたいこんなに ファンをやきもきさせといて、そのくせ本編ではひっつかない主人公って 今までのTVにはなかったもんな。だからその分雑誌なんかでは思いきり熱い二人を要求されたっけ、、、」
「嫌だった?」
「いや。嬉しかったよ。君と堂々といちゃいちゃできて。」
彼はおどけてそう言った。私を笑わせようと思って。でもごめんなさい。
「・・・・私は悲しかったわ」
「Gillian.................」
「スカリーも自分の本心を殺してパートナーという立場を貫こうとする。Gillian Andersonとしてもあなたをただの仕事仲間だと公言してた、、、 『あの二人は現実ではデキてるんじゃないか』っていう憶測がますますXFへの興味をそそるようにね。 でも、でも、、、私はいつも演じて いなければならない事が辛いの、、、、こんなに私達二人で写ってる 写真は沢山あるのに! 今までのどんな番組の、映画のカップルよりもあまつさえお互いが付き合ってきた相手や家族よりも多いのに!!」
「・・・・・・・・・・」
「私達が自分を偽らないのは二人だけでいる時だけ・・・ それ以外はいつもいつもウソをついてる・・・・・」私は耐えきれなくなって声を上げて泣いてしまった。
「Gill........」
彼が私を引き寄せ強く抱き締めた。壊れてしまうほどに。。。
「ごめん。。。 君を愛することで君を不幸にしてしまう・・・ 君にいつも笑っていて欲しいのに僕がすることはいつだって君を悲しませる。 でももう君を愛する事をやめるなんて出来やしないんだ。分かってる。これは道徳に反する事だ・・・ 神に対しても・・・ でもどうしても 君をあきらめるなんて出来ない!君しか愛せないんだ! くそっ どうしてこんな風になった・・・ こんなに君を愛してるのに どうして、、、、、、、、、」
彼の言葉が震えた。
私にも分かっていた。私が苦しんでいるように、彼もまた同じくらい、いや、結婚している現実を持つ彼の方が私以上に苦しんでいることを。彼も私も自分の娘がいる。世界で一番愛しいかけがえのない無垢な魂。彼女たちを失うことなど考えられない。彼女たちを悲しませたくない。
それでも、私達はお互いでなければだめなのだ。娘を失うことを考えられないように、彼を失うことも考えられない。それはエゴだと非難されるだろう。あまりにも自分勝手な考えだと。分かり過ぎるほど分かっていた。。。
これでも私達は何度も何度も別れを決意した。お互いをののしった事も ある。好きでもない人とも付き合った。シーズンオフの数カ月電話すらしなかったこともある。ただ忘れるために・・・・ でも全ては無駄だった。心が、魂が互いを求めてやまなかった。地獄の業火に焼かれるのも覚悟で私達はこの愛を貫く決意をしていた。
「このまま、、、このまま君をさらっていけたら、、、、」
「もう何も言わないで、、、 Davi....」
彼の名前を呼ぶ私の唇が塞がれた。
朝が来れば私達はまた完璧な演技をする二人に戻るだろう。 視線から、指先から、毛穴からも吹き出そうとする情熱を押し殺して。 だから・・・ 今だけ。今だけこの情熱の持って行き場所をお互いの 身体に求めることを許して、、、、、、、、
引きちぎられた魂の半身を取り戻すように私は彼を強く抱き締めた。
END
あ〜 二人に辛い思いをさせてしまった。。。 DD,GAごめんよ〜 昨日は二人の画像をダウンロードしまくった後で、この秘密基地を発見 したので、このような話になってしまいました。 こんな暗い話に最後までおつき合い下さいまして有難うございました。
いつもとは全然作風が違うので恥ずかしさのあまりHNを変えた某より。