X-FILESの著作権は、FOX、1013に帰属します  *********   もう一つの出会い    *******************      By 櫻子  カーット カット カットっ なにやってんだよ  学芸会やってんじゃねえぞ 勉強して出直してこいっ  監督の罵声が飛ぶ  舞台の上で血が滲むほど唇を噛み 溢れ出そうとする涙を必死で堪えた   情け容赦の無い言葉が更に浴びせられる 出番の無い奴は 帰った 帰った 気が散って集中できないってよぉ 他の女優さん達がぁ  そんな こといわれても これ以上どうすればいいのよ。。。。     こんな事 誰に聞けばいいの?  誰にも聞けやしないわ  スタジオを出ると外はもう夜だった  あてもなくふらふらと 歩くうちに額に冷たいものがあたった  にわか雨だった 濡れるのも気にしないで歩き続けた  雨とも涙ともわからないものが 頬を濡らす  若い女が 濡れながら歩いているのをからかいながら 車が横をすり抜けてゆく  小さくクラクションを鳴らし 一台の車が止まった  無視して歩くと ゆっくりついてきた  嫌な奴。。。。  窓を開け話しかけてきた  「濡れてるよ。。。」  「見れば わかるでしょ。。。」  「風邪ひくよ。。。」  「別に 貴方のせいじゃないんだから ほっといてよ。。」  「ほっとけないよ こんな時間に 若い女の子が。。。」  「送るよ 家は 何処?」    「バカじゃないの?」  「バカは君の方だよ。。。」  男は車を降りて走り寄り腕を掴んだ  「離して。。痛いわ。。。」  「行き先を言ったら 離してやるよ。。。」  本当に 心配そうな眼だった 優しい眼に引き込まれ すがりついてしまいそうになった  肩に手をかけてそっと押す「さあ 乗って。。。」そう言ってドアを開けた  「シートが濡れるわ。。」  「いいから 早く」  無理矢理 押し込まれるように 車に 乗り込んだ  「ほらっ」 男は タオルを手渡してくれた 「髪を拭いて。。。」  「あ。。ありがとう。。。」  「さっ。。行き先を言ってもらおうか?」    本当に本気らしい   車に連れ込まれて襲われても仕方がないと覚悟していたのに なんか拍子抜けしてしまった  もしかして 自分に 魅力がないから? そんな風に思いを巡らしていると 「心配しなくても 襲ったりしないよ」笑いながらエンジンをスタートさせた  「ほら どっち?」  この人なら。。。 この優しい眼をした人なら 私の悩みを叶えてくれるかもしれない。。  「貴方の おうちに行きたい 。。。」  「はぁ?」「もう一度言う? 貴方のおうちって言ったの。。。」  「ふざけるンなら 降りてくれ」男はエンジンを切って車から降り反対側にまわりドアを開けた  「降りろっ」 女の腕を掴んで車から引きずり出そうとする  「いや いやっ やめて。。。」 「降りろ そんな男だと思われるなんて 心外だ 降りろっ」  「ごめんなさい ごめんなさい お願いだから話を聞いて。。私は女優なの    でもうまくいかなくて」 腕をつかまれながら女が泣き出した   女優と言う言葉に 男の力が抜けていき 掴んだ腕が解放された  「女優? 君が?」「そうなの。。まだ全然売れてないけど。。。さっきまでスタジオにいたの   何回もNGをだしちゃって もうどうしていいのかわからなくなって 」 「それで 雨に濡れながら歩いていたってわけ? こんな時間に?」 監督に 現場から出て行けと言われた惨めさが 悲しみとなって胸に  こみ上げてきた 「何も考えることが出来なくなってたの 雨だとか夜だとか そんなことどうでも良かったの   演じきることが出来ない自分に腹が立って。。。情けなくなって。。。   でも 経験のないことを 演じるには限界があるのよ   想像を逞しくって みんなは言うけど。。。」  「。。。。。。」    「どうしても ベッドシーンの演技がうまく出来ないの   今時の高校生だって経験済みなのに。。。   でも 誰も教えてくれないわ 。。。   この年で経験が無いなんて誰も信じやしないわ」   自分は処女だと言ってるようなものだった  「。。。 相手が必要なの。。。。  」俯いて唇をかみしめた 「それが 僕って訳?。。」 「あなた 優しい眼をしてるもの。。。 見知らぬ私を本気で心配してくれたわ」 「僕にだって 選ぶ権利があると思うけど。。。」 ハンドルに両手をかけ 顎を乗せ横目で女を見た  「私って そんなに 魅力がない?」 髪の毛から雨の滴がしたたり落ちて誘うような瞳が男にそそがれた 「一時の感情で抱かれるなんてばかげてるよ よく考えた方がいい   ビデオを見るとか いろいろあるだろ?」 「そんなの 嫌と言うほど見たわ ビデオショップの若い店員に白い眼で見られるくらい   アダルトを借りまくったわ でも 自分の躰の中に感情が湧いて来ないの 上辺だけの   映像だからよ 躰で感じないと演技が出来ないの 頭で考えた演技しかできないって。。。。    結局へたくそなのね。。 だから 監督から心は何処に行ったんだ? なんて言われるのよ」    「ほんとに後悔しないのか? 僕がどんな男かも知らないのに?」   深い沈黙の後 後悔しない事を約束して 男は車をUターンさせた   夜の街を駆け抜けながら 雨が叩きつける窓ガラスを見ると泣き出しそうな顔が   歪んで写っていた 流れる雨が涙のように見えた   これから起こることを想像しただけで 泣きたくなっている自分がここにいる   誰に強制された訳でもない 自分から言いだしたことなのだ 今さら後戻りは出来ない   一人暮らしの男であると一目でわかる殺風景な部屋だった    まったく女の匂いのしない冷たい感じがする部屋。。。   だまって バスタオルが手渡された。。。  「ゆっくり 暖まっておいで。。。気が変わったらやめにしよう    実行するかしないかは君が決めることだから 」   頭から思いっきり熱いシャワーを浴びる   涙なのか お湯なのか 止めどなく頬を伝っていくもの    ロストバージン。。。。愛する人となら。。。同じ涙でも嬉しい涙になるはずだったのに   一度限り もう二度と会うこともない 行きずりの見知らぬ男に身をまかせる   もう決めた事よ  女優になると決めたんだもの こんなの試練でも何でもないわ   涙もかれた頃 唇を真一文字に噛んで 大きく深呼吸して バスルームを出た     大きなバスタオルをしっかり躰に巻き付けて   おまたせ。。。   そう言って かっこよく 彼の目の前に立つ筈だったのに   震えた 脚がもつれて 緩くなったバスタオルの裾を踏んでしまった    タオルが鮮やかに舞うように躰から滑り落ちていき   まぶしいまでの裸体が男の目の前にさらされた   凍り付いたように立ちすくみ足が震えてきた     息をするのも苦しいくらいに神経が張りつめていた   男は黙ってそれを拾い上げ 優しく躰に巻き付けてそのまま抱き締めた  「強気でいても躰は正直だよ 震えているじゃないか。。。こういうことは   本当に愛してる人とするべきだよ」   むき出しになった肩にそっと手を置かれたが   ちっとも嫌じゃ無いのは どうしてだろう?     初めて会った人なのに    この期に及んでもまだ説教をする分別のある男性なのだ   今時 めずらしいと言ってもいいくらい 優しい。。。      男は静かな寝息を立てている   眠ったふりをしているのかもしれない   頬にそっとキスをして   静かに 身繕いをして 部屋を出る   お互いに名前も知らない    聞かない 言わない。。。   二度と会わない約束だった   将来 誰かと恋をすることがあるのなら。。。   もう一度どこかで出会える偶然があれば   迷わず この胸に 飛び込むだろう。。。   思わず目を閉じて 祈らずにいられなかった   そんな偶然を夢見て   ドアを押した     **********   新作オーディション   *******************     君たちは 二次選考に残った男女30名だ 今回初の顔合わせだが   それぞれカップルになって 熱いラブシーンを演じてもらいたい    誰と組もうと勝手だ 自分が演じたいと思う奴と組んでくれ   嫌だと 思ったら 拒絶してもよい    但し 組む相手がいなかった場合 その時点で失格となるので相手は慎重に選ぶように。。。  「女同士でもいいの?」「ああ 女同士 男同士 まったく関係ないね」   言い忘れたが  条件がある   どんな条件なんだろう? 会場が ざわめいた  「話してはいけない 抱き合ってもいけない キスも もちろんダメ わかったかっ」  「スタートッ」監督の G O が掛かった   私を選んでくれる人はいるだろうか?   私が選びたい人はいるだろうか?   不安だった  俯いていた顔をくっと上げると不意に 視線を感じた   目を逸らさずに じっと自分だけを見つめて進んでくる まっすぐな瞳があった   思わず涙が溢れてきた  その瞳に吸い寄せられるように女は足を運ぶ    男が腰に手を回すのと 女が男の首に背伸びをして細い腕を絡めるのが同時だった   何のためらいもなく 自然に唇が重なった    演技だと言うことも忘れてカットの声が掛かるまで お互いを貪りあった      「ずっと 会いたかった。。。」同じ言葉が同時に 二人の唇からこぼれた     *************************************************************************************         ぼんやりして どうしたの?      君と出会ったときのことを思い出してた      恥ずかしいこと思い出させないでよ もう忘れて。。。      運命って信じるかい?      雨の夜に出会って それっきり。。。       ただ 抱き合って眠り 目覚めたら 君はいなかった。。。 「あれから もう7年かぁ?。。。」   不思議よねぇ しゃべってもダメ 抱き合ってもダメ キスもダメ その3つを      いきなりやっちゃった私たちが最終選考に残って 今もなおここにいる。。。  「かなり 目立っちゃったからね。。そんなつもりは無かったんだけど。。」  「何でだろうね。。未だに謎だ。。。」  「あの時 貴方の車に乗って無かったら 私は今頃どうしてたと思う?」  「女優はあきらめて誰かと結婚して可愛い奥さんになってるかな?」  「今頃 テレビに向かってヤジ飛ばしてるかもね 思うことがいっぱいあるのよ     どうして 夜のシーンがあんなに多いのよ 暗いのは嫌いなのよ〜〜っ とか     スカリーのベッドシーンは全くないのに モルダーはいろんな女と寝過ぎるわっ     ネクタイの趣味 絶対 ダサすぎ。。。これは許せない     7年も一緒にいてあんなに魅力的なスカリーをほっとくなんてモルダーってバカよっ     なんてね。。。  「まったく ミーハーな意見だね。。。」    「だって。。。そう思わない? あれじゃ あまりにスカリーが可愛そうよ 」  「仕方がないだろ? C.C が書いてるんだから。。。」  「女優がだめなら 歌手になってたかも?」   「それは旦那と子供が可哀想だな。。」    「どう言うことよっ」  「いや特に深い意味はないけど。。。 自分の歌 聞いたことある?」  「失礼な人ね 今だに根に持つなんて 」  「だって 君のあの 調子外れの歌のおかげで 何回NG出したと思ってるんだ?」  「迂回 の 撮影の時ね」「そうそう 大変だった」  「何よ 貴方の笑いすぎが原因なんじゃないの   私だって 喉がかれるくらい歌わされたのよ 覚えてるでしょ」  「でも その割に上達しないのは ふしぎだなあ?」  「何とでも言ってちょうだい どうせ私は天然の音痴よっ」  「そこがまた可愛くて しょうがない」「よく 言うわ 思っても無いくせに」     「どうして X-File のオーディションを受けようと思ったんだ?」  「ベッドシーンがきっと無いと思ったから。。。FSものだし 事件がらみだし」  「嫌いなの?」  「好きじゃないわね。。。あなただってあの時言ったじゃない   愛する人とするべきだって。。。。」     「未だに子供もいないと言うことは?」  「そうよ。。。もてないの。。。相手がいないと子供はできないでしょ」  「そうだな。。。。。。」  「あなたのほうこそ どうなのよ 彼女はいないの?」  「まあね。。いないこともないけど 」  「じゃ さっさと結婚しなさいよ」  「相手がうんって 言ってくれないとね。。。」  「へぇ〜〜 あなたのプロポーズを断る女がいたらお目にかかりたいわ」  「ほんとに そう思う?」  「私が保証するわ」  「君に保証されてもねぇ。。。」 「なにを  弱気になってるの 迷うことないわよ 。。。」      そこまで言ったら思わず目頭が熱くなってきた  「どうしたんだ?」  「私は  わたしは。。。 最低よ あきらめてしまったんだもの。。。」  「僕は もっと 悪いかもな 。。。7年経ってもあきらめきれない。。。」       喉の奥がゴクリと音を立てた 7年の想いが大きな涙の粒になって頬を転げ落ちる  「なんで 泣くんだ 誰の為の涙なんだ?」  「泣いてなんかいないわっ 涙が勝手に。。。 」  「君が誰をあきらめて泣いているのか 聞いても?」  「あなたが 7年もあきらめきれないでいる人の名前を聞かせてくれたらね」   7年前のあの時 本当に君を抱いてしまいたかった   でも 悩んで傷ついている君の弱みにつけ込むような気がして。。。   たとえ君が 望んでもきっと抱かなかったと思う   今さらながら 後悔している。。。   あれから 誰も。。。私に触れてはいないわ。。。   あの時の続きをしたいって。。。言っても?      。。。。。返事の代わりに再び涙が溢れた           限りある人生の進むべき道を決めるとき            そのときの選択で人生なんて無限に変わっていく        選ぶべき道はただ一つ        その道はいまこの瞬間に繋がっている         すこしでも違ったら ここにこうして二人でいることはない        私が選んだ道は あなたと生きること 只 それだけ。。。        運命。。        運命と言うものがあるのなら          私は 信じるわ。。        あの 雨の夜 出会った事が運命なら        今 こうして あなたの腕に抱かれることも        あの時から 決まっていたこと。。        幾度 迷い        どれだけ遠回りをしても        必ず 巡り会えるようになっていたのね        運命に 逆らわず 流れるままに愛しあい        静かに朽ち果てて逝こう        私たちが愛し合ったことを誰もが忘れても        次の時代へ私たちの新しい命が        きっと紡いでいってくれる        それも また  運命。。。。                                                     おわり              倒錯の世界に迷い込み二度と抜け出せないくらい落ち込みました    これくらい書いてもいいでしょ。。。自分を励ましながら 激しい妄想の果てに出来た作品です     こうあって欲しい あの二人はこうあるべきなんだっ  強い信念のもと書き上げました     違うと思われようが 私の中ではこうなんです       ご意見お待ちします                 dskms42@p2332.nsk.ne.jp