DISCLAIMER:The characters and situations ofthe television program "The x-files" arethecreation and property of Chris Carter, FOX Broadcasting and Ten-Thirteen productions ,No copyright infringement is intended. TITLE:残り香 AUTHOR:裏猫 警告:このficは実在の人物、事実とは一切関係ありません。全ては私の妄想の産物です。    それをご理解できた方のみお読み下さい。  「・・・帰るわ」 そっと、ベットから起き上がり、散らばった服を身につけると、隣に寝ている彼にそう告げた。 彼から返事はなく、代わりに、彼は寝返りを打った。 その表情は起きているのか、寝ているのかわからなかった。 じっと、彼の表情を見つめた後、私は部屋を出た。      ――― 残り香 ――― パタン。 ドアの閉まる音がした。 ゆっくりと目を開けると薄暗闇の部屋を照らす月明かりがカーテン越しに見えた。 寝返りをうち、彼女がいたスペースに身を重ねる。 微かに残る温もりと甘い香水の香りに胸を切なくする。 瞳を閉じ、今夜の彼女を思い出す。 熱い体に、真っ直ぐに僕を捕らえる瞳。 耳元で漏らす吐息、背中に強くたてられた爪の感触。 初めて見せる女の顔・・・。 仕事場で見せるのとは違う表情。 腕の中にいた彼女は不安定で、悲しげだった。 「はぁ〜」 ため息一つついてベットから起き上がり、シャワーを浴びた。 全身を覆う熱い湯が彼女の温もりを思い出させる。 髪に触れる彼女の指、深く重なりあった唇。 ためらうように胸に触れた白い指先。すがるように背中に回された腕。 そして一つになった躯。 シャワーを止め、タオルに身を包み、そのままリビングに行き、カウチに座った。 乾きを癒すようにペットボトルの水を一気に飲み干す。 しかし、心の中の乾きは癒されなかった。 今夜彼女と僕の間に起きた事は二人の秘密。 明日からはまた元の二人に戻ると互いの同意の上で起きたこと。 だから、僕は愛しているとは言わなかった。 言ってしまったら、元には戻れないから…。 認めてしまったら全ては崩れ去るから…。 胸が痛かった。 自分の気持ちに嘘をつく事がこんなにも辛い事だとは知らなかった。 しかし、もう引き返せない。 彼女を抱いてしまったのだから…。 彼女と一緒にいたいのなら、友人に戻るしかない。 彼女はそれ以上を望んでいないから。 窓の外を見つめると大きな月が見えた。 まるで、僕たちの過ちを嘲け笑うかのように。 「馬鹿だな…」 酷く感傷的になっている自分に呟いた。 ************************************************************************* 帰り道、車の窓ガラス越しに見える月が、笑っていた。 まるで、責めるように。 なぜ、デビットと・・・あんな事に・・・。 考えても考えても、答えがでなかった。 これはただの一夜の情事・・・。 明日から、また元に戻るのよ。 自分にそう言い聞かせていた。 部屋につくと、服を脱ぎ、バスル−ムに向かった。 ふと、目につく自分の体に示されたもの。 白い肌に彼が私を所有していた痕跡が浮かびあがっていた。 ここにも、あそこにも・・・。 彼が私を愛してくれた・・・いや、抱いた証がある。 あんなに、強く抱かれた事は今まで、なかった。 そして、あんなに強く求められた事も・・・。 私の知らない彼がいた。 熱い瞳で私を見つめる彼がいた。 共演者という線を越え、ただの男として、女を抱く彼がいた。 彼に抱かれることをあんなにも切望していたのに・・・胸の中にあるのは罪悪感だけだった。 涙が、涙が…あふれ出る。 その場に座り込み、膝を抱いて私は泣いていた。 ************************************************************************* 「デビット・・・どうしたの?」 彼女の声で現実に戻される。 「えっ」 ふり向くと妻がいた。 「なんだか・・・先週からぼんやりしているわよ?何か悩み事?」 「・・今度やる新しい役の事を考えていたんだ・・・大した事ないさ」 カウチから立ち上がり、後ろめたさを消すようにティアを抱きしめた。 「そう。あなたって・・・一つの事に集中しすぎて、周りが見えなくなる事があるからね。 あんまり深く入り込んじゃだめよ」 ティアの言葉になぜかジルの姿が脳裏に浮かんだ。 「・・・あぁ・・・程々にするさ・・・」 ************************************************************************* いつも通り、スタジオに行くと彼の姿が目についた。 何事もなかったように私とデビットは共演者に戻っていた。 あの夜の事についても、私たちは何も話さなかった。 全てが以前のように戻り、これでよかったのだと思った。 でも、日が経つにつれて私の中で彼の存在は大きくなっていた。 自分でも知らないうちに私は深く彼を…。 「ジル、おはよう」 私の姿を見つけ、彼がいつも通りの挨拶をする。 「おはよう。デビット」 そして、私もいつも通りに返す。 その瞬間がなぜか切ない。 彼にとって私はただの共演者。 その壁は崩れる事はない。 ************************************************************************* 「それじゃあ、モルダ−のオフィスシ−ンから行くぞ」 監督の合図で撮影は始まった。 僕はモルダ−として、彼女に向き合う。 彼女もスカリ−として僕に向き合う。 そして、いつも通りのモルダ−とスカリ−の会話が始まった。 「モルダ−、そんなことありえないわ」 モルダ−の推理に真っ向から否定をする。 「スカリ−、未知のものだからと言って、否定できないだろう?少しでも可能性があるなら・・・」 僕がセリフを言おうとしたら、突然スタジオ中が真っ暗になった。 「えっ」 彼女の戸惑った声が聞こえる。 「停電だ!!誰か調整室行ってこい!!」 スタジオ中に監督の声が響く。 僕とジリアンはセットに残されたまま、立っていた。 彼女との距離は近い。 手を伸ばせばすぐそこに彼女がいる。 突然、僕の中で強い衝動が生まれた。 ************************************************************************* 「えっ!」 暗闇の中、突然、誰かに抱きしめられる。 広い胸板。 逞しい腕。 僅かに香るコロン。 「デビット、一体・・・うんっ!」 彼の唇に塞がれる。 強く割り込んでくる彼の舌。 抵抗することもできずに、私は彼を受け入れていた。 彼に抱かれた日を思い出す。 あの時の思いが再び胸を締め付け、体を熱くさせた。 もう、何も考えられない…。 このまま溺れてしまいたいと…。 ************************************************************************* 「よし、そろそろ明かりがつくぞ!みんな持ち場に戻れ!!」 監督の声に僕は我に返った。 自分のしてしまった事に突然、罪悪感が生まれた。 ジリアンの唇を離し、唇についた彼女の口紅を拭った。 全てを元に戻すように。 何もなかった事にするように。 「電気戻ります」 スタッフのその声と同時にスタジオは再び明るさを取り戻した。 彼女の責めるような表情がその瞬間僕の目の前に現れた。 胸がズシリと痛む。 僕は触れてはならないものに触れてしまったのだ。 一度きりと同意の上で抱き合ったあの夜。 あれから数ヶ月が経ち、やっと何とか元に戻れそうだったのに、僕は一時の欲望で全てを台無しにした。 「休憩下さい」 そう一言口にし、彼女は背を向けセットから出て行った。 ************************************************************************* 「ジルどうしたの?」 突然の私の行動に、心配するようにエ−ジェントのティナ・モ−ガンが追いかけてきた。 「・・・何でもない・・・ただ、今の停電でスカリ−の気持ちが崩れて・・・それだけよ」 「そう。本当にそれだけなの?」 心配そうに彼女が私の顔を覗き込む。 「えぇ、本当にそれだけよ。悪いけど10分くらい一人にしてくれる?気持ちを立て直したいの」 笑顔を作り、そう言うと彼女は私を残し、スタジオに戻っていった。 誰もいなくなると、私は泣きそうな自分を必死に抑え、口紅を塗り直した。 体中に彼を感じる…。 目を閉じると彼はそこにいる。 私をじっと見つめ、優しく髪に触れる。 そして、見つめ合う。 鼓動が大きく体中を打つ。これから起こることへの不安が私の胸を締め付ける。 でも、抱かれずにはいられなかった。もう自分を止めることなど…できなかった。 切望し続けた彼が今、目の前にいる。 互いの体に触れ合い、唇を貪り、体をつなぎ合う。 長年の飢えを癒すように全てを忘れ、私たちはベットに身を沈めた。 逞しい彼の腕に抱かれ、私は何度も何度もベットを彷徨った。 体が一つになる喜びに涙を湛え、歓喜の悲鳴をあげた。 「ジル…」 突然の声に現実に引き戻される。 「デビット」 目を開けるとそこには彼がいた。 拳を強く握り、理性を保つ。 「すぐに行くわ」 彼に背を向け鏡を見つめる。 「…すまなかった。あんな事をして…」 彼の声は微かに震えていた。 「…忘れるから、いいわ」 私の言葉に鏡越しの彼は辛そうに瞳を細めた。 「…そうか」 彼の低い声が響く。 「それじゃあ。スタジオで待ってるよ」 何事もなかったようにそう言い捨て、彼は背を向けた。 待って…。 心の中の声は彼を呼び止めていた。 必死で弱い自分を抑える。 彼が去るまで涙を流さぬよう唇を強く噛んだ。 ************************************************************************* 彼女の背中が震えていた。 鏡に写る彼女は唇を強く噛み、涙を堪えているように見えた。 必死で平気なふりをする彼女が痛々しかった。 ここで、彼女を抱きしめられたら…。 そんな思いに強く胸をえぐられる。 だが、そんな事をしては益々彼女を苦しませるだけ。 左の薬指に光るリングが僕に現実を見せ付けていた。 悲しそうな妻と娘の顔が心に浮かぶ。 今の僕にとってかけがえのないもの…。 娘を授かった日から最愛の人の事は諦めようと心に誓った。 そして、僕の心の中に残る甘えが彼女との一度きりの夜に溺れさせた。 「あなたの家庭を壊したくはない。だから、これは最初で最後の夜」 僕の指輪に触れながらジルが言う。 「あぁ。わかった」 僕は指輪を外し、彼女を抱いた。 長年の思いに身を任せ、幾度も幾度も彼女を貫いた。 何度も絶頂の波を越え、この腕に彼女を抱いた。 強く、強く、忘れないように。 思いを刻むように。 そして、自分の全てを彼女の中に解き放った…。 ************************************************************************* 「愛してる…」 目の前の彼女を見つめる。 心からの言葉。 でも、それは…。 「…モルダ−」 モルダ−からスカリ−への言葉。 皮肉な事にも今日は長年の思いをモルダ−がスカリ−に告白するシ−ンがあった。 今の彼女にも僕にもそれは残酷な言葉だった。 スカリ−は僕を見つめ、愛しそうにモルダ−の頬に触れた。 彼女の指先の感触に役を忘れそうになる。 今はこんなにも触れ合う事が辛いなんて…。 彼女の温もりを知った日から辛さは増していた。 こんなに辛いのなら…なぜ、抱いた? 心の声が僕を責め立てる。 「…君をずっと…思ってきた」 そう。これはセリフではない。僕の本心だ。 オ−ディションで彼女を見てからずっと惹かれ続けていた。 でも、そんな思いに気づかなかった。ただの後輩への愛情だと思っていた。 気づいた時には僕の隣にはティアがいて、娘がいた。 モルダ−を見つめ、スカリ−が涙を流す。 「スカリ−…ごめん。戸惑わせる事を言って」 優しくモルダ−がスカリ−の涙を拭う。 「君の胸だけに締まって置いてくれ…返事はいらないから」 モルダ−にとっては捨て身の告白。 僕も彼ぐらい捨て身になれたら…。 「それじゃあ。僕は行くよ」 諦めたようにモルダ−が背を向ける。 ************************************************************************* 「待って」 モルダ−を必死で引きとめ、その広い背中に抱きつく。 その時、彼の鼓動が聞こえた。 このまま本当に彼を抱きとめられたらどんなにいいのだろう。 でも、私には役の上でしか許されない事。 「スカリ−」 驚いたようにモルダ−が立ち止まる。 「…私の心はずっとあなたに」 そう。ずっとあなたに預けてあるわ。 オ−ディション会場であなたを見た時から…でも、言えなかった。 言ってはいけなかった。 だから、私は逃げた。 そして、娘を授かった。 愛する娘。かけがえのない私の分身。 彼女がいたから、今まで頑張れた。 でも、あの夜…。 私はついに壁を越えてしまった。 「モルダ−…私もあなたを…」 スカリ−の言葉にモルダ−が私を見つめる。 深い、ヘ−ゼルの瞳で。 そして、重なる唇。 全ての思いを重ねて…。 「カット!!」 監督の声でこれが芝居だったという事を思い出す。 唇を離し、すぐに彼に背を向けた。 ************************************************************************* その日の撮影の帰り、僕は一人ビ−チへと車を走らせた。 陽は落ち始め、空は昼と夜の狭間にあった。 白い砂浜の上を裸足で歩き、海を見つめた。 彼女と出会った頃に来たビ−チ。 まだ番組も始まりだした頃で、僕と彼女はそんなに有名ではなかった。 あの時の僕はただ後輩の子と楽しく過ごすといった軽い気持ちだった。 役者としての将来を二人で語り合った。 なぜか彼女には素直に自分の心をさらけ出す事ができた。 そして、二度目に訪れた時、僕は結婚していて、彼女には娘がいた。 互いに重いものを背負いがらも、初めて溺れた夜。 初めて自分がどれほど彼女に惹かれていたかを知った夜だった。 こんなに彼女が恋しいなんて…。 毎日、顔を合わせる度に心の中で彼女を抱いていた。 一層の事、全てを捨てて、彼女をこの胸に…。 『あなたにそんな事はできないわよ…私がよく知ってる。あなたは優しい人だって』 彼女の言葉が頭を掠める。 それは僕に抱かれた後、彼女が言った言葉だった。 全てを見透かしたような瞳で彼女は僕を見つめた。 あの時、愛してると言っていれば…僕たちの未来は変わっていたのだろうか。 あの時、僕に勇気があれば…彼女を放さなければ…。 全てはもう過ぎてしまった事…。 もう一度、チャンスがあれば…僕は…。 「デビット…」 突然、驚いたような彼女の声がした。 「ジル…」 信じられない事に彼女が目の前にいた。 彼女の瞳が戸惑いの色を浮かべていた。 そして、突然、彼女は砂浜を走り出した。 「待って!」 夢中になって僕も追いかける。 僕の声に反応する事なく、彼女は加速をあげた。 ************************************************************************* 私は砂浜の上を必死に走った。 彼から逃れるために。懸命に髪を振りかざし、夢中で走った。 でも、女の私の足では到底彼から逃れる事はできなかった。 あっという間に彼に腕を掴まれ、強く引っ張られ。私たちは波の中へ落ちた。 「なぜ、逃げる?」 彼はずぶ濡れの私を立たせた。 波の音を近くで感じる。 海水が胸元まで当たっていた。 「あなたから離れたいからよ」 できるだけ辛く当たる。 彼に嫌われるように。 「なぜ、離れたい?」 「あなたが嫌いだから」 そう言い、強く彼を睨んだ。 「じゃあ。なぜ…泣くんだ」 涙に触れ彼が優しく私を見つめる。 「…嫌いだから…泣くのよ…」 お願い。もうこれ以上私に構わないで・・・。 心の中で私は祈っていた。 「ジル。僕は君を愛している」 真剣な瞳で私を見つめ、彼はついにその言葉を口にした。 「・・・デビット・・・駄目よ・・・」 必死で彼から顔を背けた。 これ以上彼を見つめていると本心をさらけ出してしまうから。 「僕を本当に嫌いだと言うなら、僕の目を見て言ってくれ」 強く両手を私の肩の上に置き、詰め寄った。 「ジル。僕を見て、嫌いと言ってくれ。君を諦められるように」 彼の言葉に、私は思い切って彼を見つめた。 「・・・嫌い・・・嫌い・・・嫌い・・・あなたなんて・・・大嫌いよ・・・」 後半は涙に震え言葉にならなかった。 ************************************************************************* 彼女の声は震え、瞳からは涙が溢れていた。 「ジル。わかったから、もう、わかったから」 彼女の気持ちが痛い程伝わってくる。 僕は堪らず、彼女を抱きしめた。 彼女は堰を切ったように腕の中で泣き崩れた。 「…ジル…」 彼女の頬に触れ、そっと唇を重ねた。 「…デビット…」 唇を離すと涙に濡れた彼女の蒼い瞳が僕を捕らえる。 「もう、構わない。全てを失っても…こんな風に君を、愛する人を泣かせるぐらいなら…僕は…」 そう言い、再び彼女の唇を塞いだ。 このまま、どこまでも海の底へと、彼女の中へと溺れていこう。 もう、何があっても僕は…。 僕たちの耳に互いの鼓動と波の音が流れていた。                                   THE END ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 後書き(言い訳) すみません。重いです。ドロドロしてます。しかも中途半端です。 ここから先は私には書けませんでした。 どう書いたらいいのかわからず・・・中途半端で重いものになってしまいしました。 このficYUKIさんから「想像で愛し合う二人は?」みたいな事を言われて、書き始めてみました。 でも、書けば書く程・・・ズレてきて・・・何だか違うものになってしまいました。 本当、ごめんなさい←ひたすら謝る(笑) こんなつまらない物を読んでくれた方・・・その心の広さに感涙です(T−T) 以上裏猫でした。