杉花粉症について

きっかけ

昨年、コンビニで杉花粉飴という飴を見かけた。
正直言って、凄い製品だと思った。
もしかして、花粉症でない人が舐めると花粉症になるかも?
花粉症でない人は舐めるなという注意書きなど一切ない。
普通なら警戒してそんなものは買わないのだが、アマチュア科学者の性で
試してみたいという強い欲求が・・・
1. 花粉症になっても春だけである。
2. 苦しんでいる人は多いので、その人達の仲間入りするだけ。
3. 抗ヒスタミン剤で症状がある程度押さえられることは分かっている。
4. 花粉症には興味はあるが、なってみないと客観的に見てもなかなか分からない。
  また、野山で何度も杉花粉を浴びていることから、本当に自分が感作して
  いないのか、既に免疫を持つのか確かめたかったことも大きい。
  他人を実験台にすることは出来ないし・・・
5. 自分で治せれば、すべて解決。
  皮膚病を治すのに勉強した知識や経験が生かせるかも。
ということから買って舐めてみることにした。
この杉花粉飴には、杉花粉が入っている。袋にはその理屈については書かれていないが
これにより症状が軽くなるということだ。
花粉に対して作られる主要な抗体として、アレルギーを起こさせるIgE抗体と
貧食細胞を活性化させるIgG抗体があるが、おそらく杉花粉飴は、抗体の生産
バランスをIgE抗体よりIgG抗体が多く生産される様にしてアレルギーを
押さえるのだと思う。
さて、杉花粉飴を食べた結果だが、この飴を食べた後に血便が出ている。
その翌日から、目の周囲が若干ピリピリするような感覚が出てきた。
しかし、一般の花粉症とは何か違うような・・・
これが昨年のことで、今年は、昨年より顕著に症状が出ている。
まあ、杉花粉飴を食べなくても、いつ花粉症になるか分からないのだから
この飴のせいでそうなったかどうかは分からないし、まあどうでも良い。
自分が花粉に感作したことは間違いない。

杉花粉について

実体顕微鏡とデジタルカメラでコリメーション撮影した画像を示す。
プラスチックの物差しの上に撒いて撮影したものである。

 花粉の大きさは、こんなもの。

花粉を30分程度水に浸すと、ふやけてカエルの卵のようにゼリー状の膜に包まれる。
そして、中のカプセルが破れる。



私の考察では、このふやけて体積が膨張することが、免疫機構を刺激しているように思う。
抗原として認識されるのは、次のうちどれだろう。
ふやけた周囲のゼリー状の部分、カプセルの殻、カプセルの中身。

私の研究課題

20年前であれば、花粉症と言えば、ブタクサやセイタカアワダチソウの
喘息アレルギーくらいしか聞かなかったし、アレルギーになる人も少なかった。
ではなぜ、杉花粉症が現れ、多くの人が悩まされる様になったのか?
杉の植林が進んだ、地面が鋪装され乾燥し易くなった(水循環が異様な都市型砂漠気候)、
地球温暖化、清潔すぎる生活なども影響しているかも・・・
花粉症になるのが正常か、ならないのが正常か、単に体質というべきか。
かなり確率的なものだと思う。花粉と接してもそれだけでは発症しないからだ。
そもそも花粉は、雌しべに到達して発芽して花粉管を伸ばし背嚢に精細胞を送るので
これと同じような発芽が鼻などの粘膜で起きて若干でも体内に侵入しようとしたなら
免疫機構が作用して、抗原感作してしまうだろう。
しかし、鼻などの粘膜は、花の雌しべの柱頭とは違うので通常はそうならないかもしれない。
今回、花粉飴を食べて感作したとたら、花粉を飲み込んで胃で消化されず腸まで
到達した人が花粉症になるなどという、もっともらしい仮説まで立てられるが、
そもそも、IgG感作とIgE感作とどちらが先に起るものなのか?
または、ある抗原に感作することは、抗体の種類による区別はないのか?
アレルギーは、寄生虫など貧食細胞が取り込めない大型の抗原に対する防衛手段
だとされるか、そうだとすると先にIgG感作があり、この機構がうまく働いて
いないことを察知してIgEが作られる様にも思う。ただし、粘膜は外界と接する
その性格からして、まずIgE感作を起こすとも考えられるし、見かけ上はIgEの
反応が先に起きている様に見える。この点は、正確なところを把握しておいた方が良い。
まだ勉強不足の部分だ。
花粉症になっていない人はそれで健康を害さないわけだから花粉は無害だと考えられる。
感作するのは、何らかの害作用が免疫機構で認知されたために起きているはずだ。
侵入してはいけない部分に進入したり、体細胞を傷つけたり、実際には傷つけていないが
そう誤解される様な作用があったり。また、アレルギー感作が寄生虫防衛による
機構だとするなら、皮膚、粘膜の局所的な圧迫や摩擦によって抗体を作る指令が出るの
かもしれない。花粉の発芽に関してこういったものに反応しそうな作用があると思う。
また、発芽しないカプセルが割れた後の死んだ花粉を使って感作を解消出来ないか
なども漠然とアイディアとしてはある。

ここで、解明したいことを整理しておこう
1. 花粉症になっていない人が、感作を完璧に予防するために、杉花粉感作の
  原理を正確に解明すること。
2. 一度感作した人が、それを完全に解消する方法があるならそれを調べる。
  いや、これがありそうだから調べてみたいのだ。症状軽減では意味がない。
3. 症状を軽減する方法。これはついでに。

アレルギーの仕組みと症状の軽減

花粉アレルギーは、花粉に感作していない人には起きない。
花粉症の人は、既に感作しているということだがその場合のプロセスは、
1. 抗原である花粉が鼻などの粘膜に触れ、免疫機構に認知される。
2. 抗体生産を受け持つ免疫細胞が、抗花粉IgE抗体を生産する。
3. このIgE抗体が、皮膚や粘膜にある肥満(マスト)細胞に取り付いてスタンバイ。
4. 肥満細胞に取り付いたIgE抗体に花粉が接触すると肥満細胞が
  ヒスタミンなどのアレルギー物質を放出。
5. アレルギー物質が直接血管などの細胞膜に作用してアレルギー症状を起こす。
このプロセスのどこかを対策すれば症状が軽減する。
各段階での軽減方法としては、
1. 外出時にマスクをしたり、室内の花粉を除去して花粉との接触を断つ。
2. 花粉に触れてもIgE抗体を作りにくくする方法として、わざとIgG感作させる。
3. この段階での防止方法は知らない。
4. 最近の花粉症用目薬は、クロモグリク酸ナトリウムで肥満細胞がアレルギー物質を
  放出するのを阻害するものが主流のようだ。各社から発売されている。
5. 1つは、抗ヒスタミン剤でアレルギー物質が作用しない様にブロック。
  この方法が治療方法として一般的。
  ただし、作用を受ける細胞膜にヒスタミンが取り付く前に抗ヒスタミン剤を
  摂取しないとだめ。
  一度出た症状は解消されないので、症状が出てからでは、効果が薄い。
  花粉が飛びはじめる前から飲み始めると良い。
  抗ヒスタミン剤は、飲むと眠くなるのが難点。
  もう1つ、血行を良くしたり、アレルギー物質の代謝を促進することで
  症状を軽減することも出来るだろう。

多量の花粉により減感作治療は出来ないか

この試みのために、今年は花粉を集めてみることにした。
2月22日近所を探してみると意外にも身近に杉の木があった。
そのうち花粉を沢山出している株があったのでそこで雄花を採取した。
ところが、この花粉には全く感作していないようなのだ。
今年(2003年)は、2月10日に初めて花粉症の症状を感じた。
この時期なのでヒノキではないはずで、恐らく杉花粉症なのでおかしいと思う。
多量に杉花粉を浴びたので吸い込んだし目にも入ったはずだが、ハウスダストで
起きるような過渡的なくしゃみくらいで鼻炎や目のかゆみは起きなかった。
ということは、杉の品種によって感作しているものしていないものがある
ということらしい。この花粉を花粉Aとする。
翌週3月1日、別の場所の杉が花粉を散らす様になった。
先週は、その場所の杉の木からは花粉は一切出ていなかった。
こちらの花粉を花粉Bとすると、花粉Aに比べて明らかに反応がある。
ただし、反応としては、どこからともなく飛んで来る微量の花粉の方が強い。
それでも花粉Bでは、目が真っ赤になり、鼻も詰まって結構な鼻炎の症状が出た。
翌週3月8日にこの花粉を筆で顔に軽くかけるなどして一晩様子をみたら
翌朝9日は、涙が乾燥して出来た結晶やら目ヤニなどで目が開きづらくなる
状態だったが、目の炎症は消えて鼻づまりもなくなっていた。
まぶたのピリピリというかシバシバというかそういう感覚が完全に消えてた。
この時期に普通の皮膚の感覚が戻って何か頬ずりしたくなるような快適さ。
治ったかと思ったが、とにかく免疫の学習はそう短期には決定されないだろうし
過渡的で不安定な時期だと思うのでもう少し様子見しなければならない。
ところが、この日花粉Aをもう少し集めておきたいと思って取りに行ったところ
今度は花粉Aに感作したようで、花粉Bより強いアレルギー症状が出た。
3月15日もう一度、花粉Aを扱ったところ、感作しなかった頃の反応に戻った。
今後、集めた花粉を使用して、花粉症の季節が終わった後に、色々と試す予定。
普通の花粉症の人が浴びる花粉の100倍以上の密度で花粉に触れているわけで
その時に起きるアレルギー症状はつらいものがあるが、自分の場合は
鼻水はあまり出ないし思っていた程辛くない。
ステロイドのリバウンドによるホテるような腫れて痒いアレルギー症状に
比べればかわいいものだ。
ともかく、減感作、免疫寛容(トレランス)を獲得するには、一時的にアレルゲンを
遠ざけたり、量を少しずつ増やしたり、調整が必要だとは思う。

参考になりそうな事例

・食物アレルギー
 小学校の低学年では同級生に卵アレルギーの人が結構見られた。
 食物アレルギーは、卵、牛肉、サバ、大豆、小麦などでよく見られる。
 これらは、ほとんど年齢とともに自然に解消する。
 花粉症もこのように解消しないものだろうか。

・漆かぶれ
 漆(ハゼの木)でかぶれを起こすのもアレルギーだと言われる。
 これも漆職人などは次第に慣れるというからアレルギー感作がなくなる例だ。
 私は、子供の頃ハゼの木の下に居ただけでかぶれていた。
 フェノール類を多く含むコールタールが皮膚についてかぶれるのに似ているが、
 フェノール類は皮膚を直接壊すのではないか?
 アレルギーによるものなのか?という疑問が残る。

・記憶される免疫
 多くは、一度感作したら、免疫機構はこれを記憶して一生免疫作用が続く。
 インフルエンザなどは、毎年少しずつ変化して違ったものになるから
 毎年予防接種を受けなければならないということらしい。

・ストロイドとアレルギー
 副腎皮質ホルモン(ステロイド)は、免疫作用を押さえる。
 アレルギーも押さえるが、ステロイドで押さえた場合
 ステロイドが切れた時に、リバウンドによって強烈なアレルギー症状を起こす。

・ディーゼルの排気ガスも花粉症の原因?
 diesel exhaust particle (DEP) が、IgE抗体生産の強力なアジュバント
 として働き、IgE抗体の生産を加速するということだ。
 ただ、花粉症でない人が感作する際に、これが作用して感作し易くなるかは
 わからない。

・IgE抗体生産の謎
 実験動物を免疫して抗体を生産させる場合、IgG抗体は、抗原の量を
 増やせば単純に抗体生産も増えるが、IgE抗体は、特殊な方法を用いないと
 得られないということらしい。アジュバントに水酸化アルミニウムのゲルを
 用いて抗原を吸着させて免疫させる方法があるらしいが、水でふやけた
 花粉に似ていないか?花粉のゲルを溶かしてしまう安全な薬剤でもあれば
 花粉症軽減に役立つのではないか・・・とか。

・寄生虫が花粉症を防ぐ?
 実験動物に抗体を生産させる際に、寄生虫を感染させる方法で、
 寄生虫の抗体ではなく所望の抗原に対するIgE抗体の生産を増加させる
 方法があるというから、逆効果に働くことも考えられる。
 元々別のIgE抗体が作られている場合、肥満細胞に既にその抗体が
 結びついていて抗花粉抗体が取り付きにくくなっているのかもしれない。

免疫に関係したとこ

花粉症には直接関係ないが、免疫に関係した興味深い事例を上げる。

・スズメバチの2度目に刺されると危険
 スズメバチの毒は、アレルギーを起こさせるヒスタミンのような物質が主成分。
 しかし問題となるのは、酵素毒で最初に刺された時、これがIgE感作すると、
 2度目に刺された時に、急激にIgE抗体が作られてアナフィラキシー・
 ショックを起こして刺された人が死んでしまうことがある。
 本来、抗体は、酵素毒やウイルスに結びついてそれらを無力化したり除去する
 働きをするものなので、抗体が作られることは、望ましいはずなのだが・・・
 スズメバチの毒は、アレルギー物質を過剰に注入することで痛みや痒みを
 起こすのが毒の目的の様に思えるが、本来は異物を体外に迅速に代謝するのが
 目的のアレルギー機構を、アレルギーによって放出される物質を先に
 送り込むことで免疫作用も撹乱している様に思う。

・毒蛇に噛まれた時
 噛まれた人が、毒に感作して抗体を作るには時間がかかりすぎるので、
 ヘビ毒に対する抗体を含む血清を注射して解毒する。
 組織を壊死させる酵素毒の場合、抗体を含む血清を注射すれば、
 ヘビ毒抗体は、ヘビ毒に特異的に結びついて無力化する。
 血清の有効性分は抗体そのものなので毒の量に応じてある程度の量必要になる。
 恐らく同じ蛇に2度目に噛まれた場合は、免疫があるので血清を打たなくても
 迅速に抗体が作られて毒を除去出来るだろう。
 ただ毒の量が多いとそれでも間に合わないかもしれない。
 血清は、馬などに薄めたヘビ毒を注射して抗体を作らせ、その血液の
 血漿を取り出したものである。
 蛇毒ではなく、血清に対するアレルギーにも注意する必要がある。

・予防接種
 弱めた細菌、細菌の死骸を抗原として注射して感作させ、免疫をつける。
 予防接種のために注射するものをワクチンと呼ぶ。

・抗生物質
 これは、免疫とは関係ない。
 青カビから得られるペニシリンや、副作用で有名なストレプトマイシンが有名。
 細菌の細胞膜を選択的に破壊する特殊な物質。
 耐性を持つ細菌が現れてきたことも問題だ。

抗ヒスタミン剤について

 抗ヒスタミン剤は、鼻炎の症状緩和に使われる。よってカゼ(感冒)薬にも大抵含まれる。
 薬局で売られているのは、ほとんどマレイン酸クロルフェニラミンだ。
 乗り物酔いの薬も抗ヒスタミン剤の一つである。
 虫刺されの薬にも、痒み止めに抗ヒスタミン剤が入っているものが多い。
 H2ブロッカーといわれる胃酸コントロール型の胃腸薬のH2とは、ヒスタミンのH
 ということだ。粘膜アレルギーを起こすのがH1で、胃酸分泌を促進するのがH2。
 H2だから、水素だと思ったら大間違い。その胃腸薬は抗ヒスタミン剤なのだ。

2003.5.9

一週間前から、軽い花粉症の症状が出ている。
何かの花粉か、何だろう?
目に異物感があり、目ヤニが出る。
痒みはほとんどないが、昨夜は目を擦ってしまい少し痒い思いをした。
今朝、周囲を見回すと、庭木の松が花をつけていた。
杉程ではないが、流石にこれだけ花が咲いていると花粉も飛ぶだろう、
というくらい、通勤路には沢山見られた。




参考文献

東京化学同人 免疫学の基礎 第2版
 小山次郎・大沢利昭著
 ISBN4-8079-0378-0 C3047 P2640E
南江堂 免疫学イラストレイティッド (原書第3版)
 Ivan Roitt, Jonathan Brostoff, David Male 著
 多田富雄 監訳
 ISBN4-524-20825-9 C3047 P6800E

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