自動演奏と音楽性について

電子音楽と人間的な演奏

シンセサイザーによる自動演奏音楽がまだ物珍しい頃、自動演奏による音楽は、
機械的で暖かみのないもの、つまり電子オルゴール程度にしか思われていなかった。
新しくインパクトがあるだけにそれを警戒して保守的な態度で批判する意見も
多かったが、そのサウンドが機械的であことは否めなかった。
それは自動演奏だけの問題ではなく、シンセサイザーの音色が楽音として
厚みに欠け貧弱だったことも原因している。
そのために、シンセサイザー音楽の先駆者達は、多重録音により音を幾重にも
重ねて満足が行く厚みの音を作り出していた。
一方、シンセサイザーの機械的な音色は鮮烈で、ある意味で純粋だと言える。
その特徴を生かした新しい音楽分野も発展してきた。
当時、ミュージック・シーケンサーによる演奏は、正確過ぎるから人間味が
ないのだと言う人が多かったが、私はちょっと違った見解を持っていた。
正確というより、むしろぎこちなく感じることが多かった。それは自分が
ピアノで演奏したらさまになる音楽をオルガンで演奏すると途端にぎこちなく
なるのと似ており、カラオケの下手な歌にエコーをかけるとそれなりに聴ける
ようになるのにも似ていたからだ。
時は流れ、今は人間的、機械的な演奏という区別で自動演奏をとやかく言う
時代はなく、その音楽性が問われるようになってきたのではないかと思う。

自動演奏と音楽性

音楽性とは何かについて私見を述べるなら、それはまず上手下手の問題だ。
芸術には、好き嫌いが大きく左右するが、技術的な優劣は確かにある。
が、それはさておき最終的には、曲が持つイメージが音として聴き手の心に
どう響くかという問題だと考えるべきだろう。
もしもギクシャクしたり違和感があると途端に聴き手は拒絶してしまう
だろうし、気分を高揚させたり、うっとりと聴き入ることなどなくなるだろう。
楽器演奏ならば、間違えず、豊かで表現力がある音を出すことだろうが、
自動演奏の場合は、打ち込んだデータをチェックしておけば演奏中の都合で
間違えるようなことはないし、電子楽器は常に安定した音が出せるので
その安定性は保証される。だから、演奏上の基礎は保証されているのだ。
自動演奏が機械的に聞こえるのは、正確なのではなく、融通か利かない
ことによる表現力の欠落と言うべきだろう。
私の経験では、アタックタイム(音符の始まりの瞬間)が正確であることは、
自動演奏が機械的に聴こえる原因にはなっていないと思う。
ほとんどが、スタッカート、レガート、といったアーティキュレーションの
違いに左右されている様に思う。もしもアタックタイムを操作して、
より音楽性が高い演奏を目指すのであれば、テンポによってタイミングを
変化させるか、奏法などによる音符の変化を細分化してデータ化する必要がある思う。
特に、装飾音の奏法に関しては楽譜で規定されるものではないので、これに
関しては、音楽的な解釈が必要となる。
自動演奏におけるアーティキュレーションとは、実際の音符の長さに対して
音を出している時間の割合で決まる。これが大切なのだ。
これに関連して、エンベロープや音を出し始めてからの過渡的な
音色変化もアーティキュレーションとして作用し、更には重要な表現力として
音楽性を左右するものとなる。
最近の電子楽器は、サンプリング音源により音は厚くなったものの
アーティキュレーションや音色変化による表現力の点では、アナログ
シンセサイザーに劣っているのではないかと思う。

アーティキュレーションの実際

それでは、実際にアーティキュレーションがその音楽にどのように左右するか
聴いてみよう。「ポッ ポッ ポ はとポッポ」というお馴染みの旋律を3つの
異なるアーティキュレーションで演奏したものを以下に示す。
データは、サンプリングレート8KHz、μ−lawで16ビットを
8ビットに圧縮したAUフォーマットで作成した。
シーケンスデータは、パフォーマーで表示したものだが、音はMIDI演奏
ではなくプログラムにより合成した。

 レガート au36Kbytes

 ノーマル(一律75%) au38Kbytes

 適当に調整したもの au36Kbytes

クラッシックのピアノ曲を演奏する場合、私はまずおおまかに、
音符の長さに対して実際に持続音を出す時間を次の指針で調節する。
スタッカート   40〜50%
ノーマル     75%
レガート、スラー 100%
ただし、休符の前のノーマルは100%の方がいい場合が有る。
これだけの調整だけで、ヴェートーベンやモーツアルトのピアノ曲なら
かなりいい感じに演奏できる。
しかし、テンポがダイナミックに変化するショパンの華麗なピアノ曲は、
こういった調整をしてもまだまだ鑑賞に耐えるものにはならない。

音の強弱による表現

多分、自動演奏の表現力として最もよく知られているのは音の強弱だと思う。
これは言うまでもなく重要だ。
ただし、これについては間の取り方など、時間的要素との関連性が重要になる。

作品集

私は、その昔マーク・オブ・ユニコーン社のミュージッキシーケンサー「パフォーマー」
が使いたくて、アップル社のMachintosh Plusを買った。
現在では、Machintosh G3とパフォーマーV5.5、それから
ローランド社のJD−800というシンセサイザーを使っている。
中学生時代にアナログミュージックシンセサイザーを自作していたこともあって
アナログシンセサイザーの原理をそのままデジタル化した音作り重視の
このシンセサイサゼーには愛着がある。
作品は、MIDIデータではなく実際に演奏したもをサンプリングした形で
公開する。確かに、GM音源が一般的で、そこそこMIDIデータで公開しても
そこそこ再現出来るが、音楽性に大きく影響を与える「音作り」重視の考え方から
そうする事に決めた。ファイルが大きくなるのが難点だが仕方ない。
本来このページの主旨としては、MIDIデータを公開すべきところだが
チューニングさていない音色で演奏しても意味がないので公開しない。
音として聴いて、ここはどのような演奏をしいるのかという質問があれば
メールにて返答する事にする。
フォーマットは、22KHz8ビットリニアのAIFFフォーマット。
これでもダイナミックレンジが狭くて音がつぶれているのが気になるが、
データ量との兼ね合いでこれが限度だろう。
音はJD−800のライン出力をMac+とマックレコーダーでサンプリングした。

白鳥の湖(チャイコフスキー)

白鳥の湖(情景) AIFF850Kbytes
白鳥の湖(情景)インストルメンタル AIFF850Kbytes

第2幕 情景(モデラート)の冒頭部分。
この曲は、あまりに有名だが私は小学生の頃はクラッシックバレエを連想して
聴いて恥ずかしい思いがあった。主旋律の印象が強烈なのだ。
そういう人のために、インストルメンタル(カラオケ)ヴァージョンを用意した。
JD−800のウエーブメモリーのハープの音色を加工して満足な音色が
得られたのがきっかけで演奏したもの。
いい音色に出会うと、作曲演奏を問わず、いい曲想が浮かんでくるものだ。
情景一曲分すべて入力したいのだが、これについてはこの部分しか入力出来ていない。
主旋律のオーボーの音色は、パルス波が元になっている単純なもなので
音色の厚みとては不足を感じる。このパートはほとんどがレガート奏法
するしかないので、表現は音色の調整とベロシティーの調整だけで行なっている。
こういうソロ演奏のパートが自動演奏でも一番難しい。
インストルメンタルは、クラッシック音楽として普段聴く事ができないものだ。
完成されたもだけしか聴く機会がないのも寂しいと思う。
青少年のための管弦楽入門ではないが、音の組み立てを知る上で
特定パートを抜いた演奏として興味深い。

トルコ行進曲(モーツアルト)

トルコ行進曲(抜粋) AIFF332Kbytes

この曲は、そもそもピアノソナタの一部でありトルコ行進曲という曲はない。
データはトルコ行進曲の部分に関して一通り入力しているが、ここに
紹介するものは、その途中の一部となる。
ピアノ曲のシンセサイザーヴァージョンとして奏でたもので、
音色は、シンセサイザーらしい音にしてピアノを意識した倍音成分が豊富で、
ピアノより純粋な和音の響きを狙った独自のものだ。
データ化は、前に述べた基本的なアーティキュレーションの調整と
若干のベロシティー調整だけで行なっている。

2つのトルコ行進曲(ベートーヴェン・モーツアルト)

Youtubeで公開

2つの曲の共通点として、トルコ調の要素がどこなのか・・・

交響曲ジュピター第4楽章(モーツアルト)

交響曲ジュピター第4楽章 AIFF1Mbytes

ここに紹介するものは、フィナーレの部分。
この曲も、ほとんどこの部分しかデータ入力しいない。
JD−800で演奏できる管弦楽としては、これが限度だろう。
実際の演奏ではほとんど聴き取れないが、ピッチエンベロープを使った
ティンパニーの音色が気にいっている。
ヴァイオリンの音色は、シンセサイザーらしいストリングアンサンブルの音に
したいのだがほとんどアコーディオンになってしまった。
まだ調整は完全ではなく、単純なユニゾンになって響きが悪い部分
などあるが、そこそ聴ける水準になていると思う。

参照した楽譜
1. OGT65 チャイコフスキー 組曲「白鳥の湖」 音楽の友社
2. zen−ob score モーツアルト
    交響曲第四十一番ハ長調K.551[ジュピター] 全音楽譜出版社
3. 全音ピアノピース ベストセレクション(4)トルコ行進曲 全音楽譜出版社

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