Domaine du Future

すっかり、ワインに魅了されてしまった私だが、「機会があればワインを醸造してみたい」
などと出来もしないことに想像を膨らませてしまう。
しかし、その難しさたるや、素人には想像もできまい。
よって、消費者として他力本願で日本のワイン醸造メーカーに頑張ってもらう他はなかろう。
日本酒があれだけ繊細で高度な醸造技術を持つのだから、日本人に優れたワインが
作れないことはないと思う。
概して、老舗が持つノウハウというものは簡単には見抜けないが、それは案外単純なこと
に違いない。問題は、ちょっとした違いに気づけないことにあると思う。
作り手の繊細さと、創意工夫がなければ単なる物まねで終わってしまう。

理想のワイン

ワインの中でも、高値で取り引きされているのは、まぎれもなく赤ワインである。
なぜに、そこまでの値がつくかというと、ブランドものとして通用する芸術性が
あるからだと私は思う。とにかく赤ワインには奥深いものを感じるのだ。
では、どういうワインが優れているかというと好みの問題もあるが私は以下の様に定義する。
1. 単独で飲めるコクが備わっていること。
2. 唾液が迸るような味わいがあり、唾液の分泌が飲んだ後も持続すること。
3. 香り豊かであり、ブレンドしたような複雑さがあること。
4. 嫌な風味がなく、後味がスッキリしていること。
ボルドーで、グラン・クリュの格付けされたシャトーワインは、大抵これらを満たしている。
赤ワインの味わいは、ある意味で高級ウーロン茶とよく似ている。
唾液分泌の持続は、十分に熟成された雲南プーアル茶と同じだ。
また、砂糖やミルクを入れないブラックの良質なレギュラー珈琲を味わうのと同じだ。

造り手のビジョン

ワイン醸造が芸術だすると、最も大切なのは作り手のビジョンである。
どういうワインを作りたいのか、その目標なく盲目的にワインを造ってもある一線は
超えられないと思う。正に、ワインとは何か・・・なのだ。
ワインが酔っぱらうための酒だと思っている人は、アルコール度が高く
風味に乏しいワインを造って満足するかもしれない。
熟練した醸造家なら、材料となる葡萄を食べただけでどんなワインが出来るか
大体想像できるだろうと思う。
この葡萄では無理だとか、大体こういうものになる、こういう風に造ることも
可能だろうと推測できることだろう。
醸造家がどの様に賞賛されるべきかは、毎年安定して良質のワインを造ることが
まず第一であろうが、この品種からよくこの味が引き出せたものだとか、この品種を
こういう風に仕上げるとは大したものだとかいう点でも名声を得ているようだ。
葡萄に隠された潜在的な前駆物質を見抜き、芳香物質へと変えるのがワイン醸造なのだ。
それが「表現」という域に達するには、技術の裏づけが必要になる。
また、ワインにおける表現とは「配慮」であるというのが、優れたワインを飲んでの実感だ。
味とか風味とかを超えた、落ち着きを与える総合的な調和を感じさせることが大切。
こと、ボトルの形状やラベルのデザインが、中身のワインの印象と一致した時は、
作り手の配慮を感じずにはいられない。
科学的な成分調整とか、酸味が強いとか弱いとかいう観点も、ある意味小賢しい発想だ。
感受性をフルに発揮して総合的にワインを評価する態度がなければ、継ぎはぎだらけの
調和しない味わいのワインを造ることになるかもしれない。

葡萄と仕込み

日本酒は、仕込む時に使う水に神経を使うという。
そういう観点で見ると、後口のスッキリしたワインを作ろうとすると、葡萄が
嫌な風味を持っていたのでは話しにならない。
もやしやチンゲン菜など水分を多く含む野菜を食べる時、その野菜が育った土の匂いが
気になることがある。同様にそういったことにも気を配らなければなるまい。
ワインというものがどういうものか分からない人でも、葡萄や醸造に由来しない
不純物や添加物による望ましくない風味は理屈抜きで嫌だろうと思う。
これらがワインの風味に勝っている様では、落ち着いて味わえないものだ。
また、同様に選果などについても気を配らなければなるまい。
葉や果梗が混入すると、青臭さなどが入るだろうし、醗酵に有害な酵素などを
含んでいないとも限らない。当然、熟していない果実も風味に大きな影響を
与え、腐りかけた果実が少しでも入っていると全体の風味を台なしにする。
また、雑菌の混入にもなり望ましくないだろう。

気になる嫌な匂い

ワインに望ましくないと思われる幾つかの特徴的な風味
1. 樽香
 本当に樽に由来するのかは知らないが、湿って古くなった木を連想する。
 白ワインで気になる場合が多く、冷やすと比較的気にならなくなる。
 なんとなく硫黄っぽい気もしなくもない。
2. 枯れ葉、粉っぽさ
 必ずしも悪いとは言えず、薄ければいい風格を持つことがある。
 樽香と似た傾向で、沈澱物はないのに粉っぽい様な風味のものもある。
 しかし、これが出過ぎるのはまずい。
3. 葡萄の皮の生臭さ
 青臭さとは違う、ワイン独特のぶどうの皮を連想する味。

日本の風土はワイン葡萄の栽培に適しているか

これについては、専門家でないので分からないが、実際のところどうなのだろう。
概して、ヨーロッパでは、大きな川沿いの丘に葡萄園がある。
みかんなどは、内陸部で採れるものより、日当たりのいい海岸の段々畑などで
採れたものが、甘く風味豊かであったりする。夏に採れるハウスみかんは、
甘さも風味も格別だ。
果実は、熟すに従って酸味が甘味に変化し、青臭い匂いがフルーツ香に変化する。
気温や日照など木の生育と実の熟し方は、切り離せないものだと思う。
また、収穫直前の雨は、概して果実を水っぽく台無しにする。

糖度とワイン

適度なアルコール濃度は、防腐剤としての働きを持っていると思う。
日本のワイン醸造の歴史は知らないが、まずアルコール度を上げて
最低限の品質を保持することが第一の目標になったのではないかと思う。
日本産の葡萄は概して糖度が低いと言われる。
その葡萄をもってワイン醸造に取り組むのは、ある意味無謀とも思える。
仮に補糖したとしても、果実が持つ風味や糖分以外の要素は補えない。
醸造までは出来ても、十分な熟成までは出来ないのではないだろうか。
最近、ポリフェノール2倍というワインを見かける。
多分、濃縮果汁還元ジュースの技術を応用したものだろう。
ある種の半透膜を使って水だけを通過させ、加熱も減圧蒸留もしないで
果汁を濃縮できるらしい。こういった技術もいくらかは酒質の改善に
つながるだろう。ただし、植物が最高の環境で育って実らせた果実の
果汁と同様の果汁は、天候不良で育った果実の果汁を濃縮しても得られないだろう。
収穫時期に雨を避けるビニールハウス等を使うことは、コストはかかるが有効だろう。

魅力的な葡萄品種

赤ワインを飲み始めた当初は、カベルネ・ソーヴィニヨンが最高だと思っていた。
メルロ種はどちらかというとまろやかさを付加するために使われるといった
ものだと思ったいた。しかし、車で勝沼をドライブして道に迷ったとき、
ワイン用葡萄の栽培も多く見られ、意外にもメルロ種の栽培が盛んなことに気付いた。
そして、メルロ種を多く使うサン・テミリオンやバラエタル表示のメルロ種の
チリワインに見事なジャム香のものがあることに気付いた。
安いワインでは、メルロは丸く膨らみがあるだけだが、うまくすれば
素晴らしい果実香のあるワインに化けるのだ。
現在では、カベルネよりメルロの方を注目している。
しかし、元々甘口白ワインが好きな私としては、意外に渋くジューシーな
シラー種の葡萄が一番のお気に入りだ。また、この品種は醸造、熟成次第で
風味が多様に変化するらしく、ワインを造るという観点から見ても興味深い。

なぜボルドーなのか

渋さとコクとが重圧なボディーとして感じられ、複雑で芳醇な香りが魅力。
濃厚なボルドーワインは、ボトルを手で持っても重いと感じる。
芳香の強さでは、カリフォルニアワインやチリワインの方が勝っているとも
言えなくもないが、それらは白ワインの様な単純でスッキリした味わいであり
ブレンドした様な複雑さは持ち合わせてない。
ブルゴーニュは、ボディーはミディアムで、概してミネラル味が比較的強く
後味がスッキリして芳醇という印象。風味は適度に複雑だが軽い。

酒質の維持

一般的にワインの劣化は酸化によるものだ。
しかし、酒質が悪いと浸透圧が低くアルコールの殺菌力も期待できないので
雑菌の繁殖による劣化を起こすのではないかと思う。
一般に、食品を腐らせないためには、乾燥、塩漬け、砂糖漬け、無菌密封
アルコール漬けなどを行うが、浸透圧は重要な要因だ。

ショウジョウバエ

この昆虫は、アルコールとエステルに敏感だ。
珈琲豆を挽いたり、いい香りの焼き立てのパンを手で割いたり、赤ワインを
飲んでいるとどこからともなくやってくる。

天然酵母

果して、日本に優れた天然ワイン酵母が存在するか?
ある葡萄品種が伝来したときに一緒に入ってきた可能性もあるが、元々
葡萄が自生していないところには多分存在しないだろう。
条件さえ整えば、運よくいい酵母に巡り会って、それを酒母として大切に
保存すればいいワイン作りが出来るかもしれないが、日本でそれを期待するのは
無理というものだろう。
私は、本場シャトーの老舗のノウハウの1つが、シャトー固有の酒母に
あるのではないかと勝手な想像をしている。

酵母

日本酒の酵母で醸造したワインを飲んだことがあるが、日本酒の風味がした。
酵母は、明らかにアルコール醗酵だけでなく他の化学変化を起こしている。
また、日本酒の芳香が必ずしも「原料である米に由来しない」ことを意味する。
日本酒を作る際にでんぷんを糖に変える麹カビは、でんぷんを糖にするだけでなく
タンパク質にも作用してアミノ酸にする。
酵母についても同様にアルコール醗酵以外の点に着目する必要がある。
また、同種の酵母も単一品種ではなく微妙に違う酵母の混合体であり、
異なる性格の酵母があるから味に複雑さが出るのではないかと思う。
納豆を例に取ると、店であまり臭くない納豆を売っているのを見たことがある。
これは、納豆菌のうち、醗酵時に納豆らしい臭気をあまり発生しない
納豆菌を選んで純粋培養して作ったそうだ。
同様に芳香が良く出る酵母を純粋培養して作られているのが、
チリなど新興ワイン産地のワインだろう。

醗酵条件の規定(1)

ワイン醸造が難しい理由は、正に条件の特定である。
まぐれでいいものが作れても仕方ない。再現性が重要なのだ。
素人考えでは、潰した葡萄に酵母を加えて適温に保てばハイ出来上がり、
などと簡単に考えてしまうだろうが、ある許容範囲で適温を探すとなると
それはもう大変な作業になると私は推測する。
保温技術が確立した現在でもそれは難しいだろう。
最適とされる温度で一定に保つのが必ずしもいいとは限らない。
自然状態では昼夜があるので、変動させた方がいいかもしれない。
一定に保つ場合でも許容範囲がどれくらいだとか・・・
そういうことを考えていたらどうすればいいのかトンと見当がつかないのだ。
偶然に良い結果が得られた時のデータを取っておき、それと同じ条件で
醸造して再現できれば良しとし、そういう積み重ねと微妙な調整で
少しずつ最適な状態に持って行く必要があるだろう。
少し変化させて、結果をよく観察して考察し、傾向を把握しなければならない。
ざっと考えても、条件には色々な要因があると思う。
まず酵母の種類によって大きく異なるだろう。酵母が違うと温度など
条件がすべて変わってしまう様な気がする。
その他の要因としては、アルコールの前駆物質としての糖の濃度や
醗酵過程における濃度変化、糖の種類、液全体の浸透圧の問題、pH、
液中に溶けている酸素量と、それを調整する亜硫酸等の濃度。
これらの条件だけでも無限に考えられるから恐ろしい。
無難なところに落ち着いてから、更に最適な条件に近付けるのは冒険になるだろう。

醗酵条件の規定(2)

ワインを試験的に醸造して、その結果をフィードバックするとしたら
やり直すチャンスは、1年後になってしまう。
当然、無限にある組み合わせをすべて試すことはできない。
妥当と推測される条件を想定して、出来る限り少量で数多くの事例を試せば
何年もかかる条件決めが短期間で行なえるだろう。
フィードバックに時間がかかる作業は、とにかく条件管理をきちんとして
正確に作業をこなし、理論的な予測を立てながら計画的に試験を行わなければならない。
失敗した条件の推測が間違っていると、1年棒に振るということになる。
とにかく、失敗の分析こそ重要なノウハウを得る鍵だ。
困るのは、着目していない要素が出来不出来に大きな影響をもたらすといった場合である。
それすらも既知の条件を正確に保っていないと発見できないだろう。
段階毎に区切って、それぞれの行程で何に着目しなければならないか、それらが
単純な傾向として説明できないかといったとこを一つ一つ分析して行く。
複数の事象が複雑に入り組んでいる場合は、独立事象をまず探さなければならない。
酵母などの試験をする場合には、それぞれの酵母に最適な条件を探す前に
標準的な培養液を定めてそれで試験して比較するなどすべきだろう。
日本産の葡萄果汁に合う酵母や醸造条件を探すことはある意味無駄かもしれない。
酵母が醗酵するのに最適な条件に果汁を合わせるのが先ではなかろうか。
とはいえ、日本のワイン醸造メーカーの有名どころは、外国産の葡萄を
ブレンドしており、こういったことにも当然気付いているだろう。

成分分析

ある程度は行うべきことだろう。
しかし、複雑すぎる混合物を全て解明するのは不可能でありその必要もないだろう。
求められる醗酵や熟成によって生成する物質が何であり、その前駆物質が何かを
調べることは必要なことだと思う。
それも、糖、アルコール、アルデヒド、エステルといった性質が似た
大まかなグループで捉えて、量が多い順に把握すべきだろう。
科学の発見の多くが偶然の産物であることを考えると、分析結果から得た
データを元に条件を特定したのでは不十分だと感じる。

酵母の呼吸

酵母は、酸素が存在する状態では、人間などと同じ様に酸素呼吸し、嫌気的条件でのみ
アルコール醗酵を行い、その効率が悪いエネルギー代謝によって呼吸するらしい。
酵母がエステル醗酵を行うかどうかは知らないが、もしエステル醗酵を行うなら
酸素呼吸させないと駄目なのではないかと思ったり、酵母が作り出す風味は
アルコール醗酵以外の代謝によるものなら、より効率がいい呼吸をさせた方が
風味が増すのではないかと、私はあらぬ推測を立てたりしている。
しかし、酵母に酸素呼吸をさせるのは、ただでさえ少ない糖を浪費することであり
そういう発想は普通しないだろう。

ポリフェノールと酸化

ワインの酸化され易さは、写真の現像に使われるヒドロキノン、ピロガロールなどに
似ていると思ったら、ワインに含まれる物質はポリフェノールという同じ系統の物質だった。
写真の現像液は、空気を断って保存しないと、すぐに劣化して褐色に変化する。
この酸化され易さと色の変化は、白ワインの劣化と非常に良く似ている。
冷蔵庫に入れても空気に触れていると酸化はかなりの速度で進む。

熟成に関して(1)

多分、日本のワイン醸造メーカーよりも外国産ワインを扱うソムリエの方が
熟成に関して詳しいのではないかと思う。
私には、梅酒などの果実リキュール作りの経験がある。
これは正に熟成のみを扱うものなのだ。
果実リキュールは、熟成させるとアルコールのトゲトゲしさが減り、口当たりが良くなること、
バラバラだった、糖、アルコール、果汁の風味が調和してまとまる印象があるのみだ。
多少酸化によって風味が変化し、色もコハク色に変わるが、あまり新しい風味が付加される
という感じはない。
ワインの熟成で、アルコールの角が取れたり、タンニンの渋みが軽減され、味が調和する
ということは、今までの経験から理解できる。
しかし、ワインは酸化によって傷むデリケートなものであり、熟成により熟成香が付加される。
だから、私にとっては熟成といっても未知の部分は大きい。
ボトル詰めされたワインは、オリ抜きが完全に行われていて酵母も存在しないはず。
熟成が他の微生物による仕業か、微生物が関与しない化学変化なのかも知りたいところだ。
酸素を断って保存すれば、熟成は全く進まないものなのかというのも現時点の私の疑問だ。

果実と化学変化

果実が熟すというのはどういう化学変化なのだろう。
果物によっては、青いうちに収穫して放置しても十分に熟して甘く美味しくなるものと、
木になった状態でないとうまく熟さないものがある。
熟していないキーウイ・フルーツとリンゴを一緒にポリ袋に入れると、キーウィが
僅かな時間で熟して柔らかくなるとか、渋柿のヘタの部分を焼酎に浸して
しばらく置くと渋か抜けるとか、そういう果実を美味しくする興味深い方法がある。
ある種の酵素が作用して果実は、熟すのであろうが、ワイン熟成もこういった化学反応に
似ているはずだ。

エステルという物質

私は、高校の化学クラブの時間に、エステルの合成を行ったことがある。
エステルは、カルボン酸とアルコールを濃硫酸を触媒にして加熱して作る。
こういった経験から、酢酸エチルの匂いなどもどういうものか覚えているが
Chateau Gruaud−Laroseには、酢酸エチル香があった。
ということは、醗酵過程で酢酸が作られているということかなどと
推測したりしている。
ワインでは、エステル化は、熟成過程で起きている化学反応だろうと思う。
実験室的製法での濃硫酸の役割は、酸としての触媒作用と、生成する水を吸収して、
「脱水結合?と加水分解の化学平衡である反応をエステル化の方向に進める」という
役割をしているというが、ワイン中での反応では果たしてどうだか・・・
ワインの熟成には空気中の酸素がどうも関与しているらしい。
また、実験室的製法での濃硫酸の使用に関して酸化剤としての作用を
無視できないのではないかと思う。
ちなみに、エステル化の反応は、酸素のアイソトープを使用した実験から
カルボン酸からOHが取れ、アルコールからHが取れて結合している
ということだ。

熟成に関して(2)

ワインのガイドブックを見ると、新樽の使用を特記していたりする。
ステンレス・タンクによる醸造がされるようになった後で樽熟成が
見直されたということだが、それも歴史的に浅いということだ。
ある本では、樽熟成は酸化熟成であると書いてあった。
なぜ、ワインボトルのキャップにコルクを使用するのか?
完全密封できるプラスチックパッキンを使用した方が合理的ではないか
と思ったりするのだが、どうも樽やコルクの使用は適度な酸素の供給という
意味に於て重要なのではないかという気がする。
単にワインらしさを演出するためにコルク栓を使う習慣が残っている
という訳ではないようだ。
樽熟成では、アルデヒドであるバニリンが生成されることもあるらしい。
単に樽の木の成分が必要なだけなら、ステンレスタンクにオークのおがくずを
入れて熟成させる方法もあるだろう。

ワインの劣化とコルク

ワインの劣化は、ビン内での雑菌の繁殖による腐敗ではないようだ。
だとすると、単純に酸化されるのが劣化だということになるが
化学変化は温度が高い程速く促進するはずなのに、ワイン保存に関しては
振動がどうとか、高い温度より温度変動が禁物とか、低い温度の方が
かえって傷むとか理屈に合わない様なことを耳にする。
しかし、よく考えるとコルク栓を使っている事実と照らし合わせれば
すべて説明がつくのだ。
振動によって、ビン内の空気(酸素)がワインに溶け込むために劣化するという
理屈ならこれは納得なのだが、その空気は酸素が消費され既に酸化作用を持たない
としたらちょっと疑問になる。そこで推測してみたのだがこういうのはどうだろう。
振動は、コルクの移動を起こさせる。外側に動いた場合、新鮮な酸素を含んだ
空気がビン内に入る。
また、温度変動は、ビン内部の僅かな空気と外気との気圧差を生み、これも
コルクを通して外気をビン内に取り込んでしまうことになる。
低い温度の方がビンの内圧が下がり、外気が入り込む危険は大きい。
熟成は温度が高い方が速く進むが、外気の過剰な流入とのトレードオフで
ワイン保存の温度が決まっている様に思う。
私は、プラスチックパッキンの小ビンに空気がほとんど入らない様にして
PAVILLON ROUGE du CHATEAU MARGAUXを
完全密封して、真夏の悪条件を常温で放置して劣化しないことを確認した。
直感的にそうだろうとは思っていた。
常温で確実に保存する方法があれば、冷却機付きのセラーなどで無駄な
エネルギーを使う必要もないのだ。
まだ推測でしかないが、厳密な酸素量のコントロール下で、比較的高温により
短期間熟成させ、以後酸素を断って完全密封すれば十分に熟成されたワインが
短期間に作れ、安定して保存できるのではないかと思う。
長いワインの歴史から考えると、そう簡単なものではないと思うが
こういう部分が案外盲点だっりする。

熟成に関して(3)

杏酒を作る際には、杏は熟していない青いものを使う。
熟すと酸味が薄くなり魅力的な果実リキュールにならないからだ。
だから、ワインの場合にも酒石酸などによる酸味が重要ではないかと思う。
カベルネ・ソーヴィニヨンが高級品種と呼ばれる理由には、
そういった側面が評価されていることは間違いない。
また、熟成によりエステル化が起きるとすれば、ある程度の濃度の
カルボン酸とアルコールが必要になると思う。
アルコール度がそこそこ高くて酸っぱいワインは、熟成によって熟成香が
出てくる可能性を多分に持っていると思う。
この仮説で考えると酸味が少ないメルロ種で、エステル香がするワインが
造られるとすればカルボン酸の酸味がないのになぜ?と疑問が起きる。
しかし、よくよく考えるとカルボン酸ではなくカルボン酸塩でも同じことだ
とすれば納得できる。
ポイヤックの濃厚なワインには、ボトルの底にオリとして酒石が沈んで
いることがよくあるが、これは酒石酸カリウムである。
これが溶け切れず出てくるのだから液中ではほとんど飽和しているのだ。
ともかく、熟成していないワインには熟成が期待できるものとそうでないもの
がある。熟成前のワインを舌で味わい前駆物質を確認して、熟成後の
ワインの姿が想像できるようにならなくては。

荒っぽい実験

そもそもデキャンターを使ってワインを空気に触れさせるというのなら
ビンに半分くらいワインを入れてキャップをしてシェイクした方が
早いのではないかと思ったりする。
そうすることで芳香成分も適度に出てくるであろうし。
この間、サントリーのシャトー・リオンを開けて飲んだら、
国産ワインはこの程度か?という印象を感じたので、どうでもいいや!と
残りを小ビンに移す際にドボトボと泡が立つ様に注いでしまった。
20日程経って、そのワインを飲んでみたのだがどうも味が良くなっている。
買ってきた時は、少し冷えていたので良さを感じなかったのかと思ったが
適温は、16〜18度と書いてあるし、味が良くなったと思った時の
液温は31度だったが、ちょっと同じワインとは思えない。
もしかしたら、小ビンに注ぐ際に適度に酸素に触れて、30度近い温度で
短期熟成したのではないかと思ったりもしている。
ワインを古い慣習にとらわれたりして過保護に扱い、必要以上にデリケートな
ものだと思い込んで本質を見失ってしまうことはありがちだ。

フューチャー・ホームページへ戻る

(C)1999 Future on netyou ALL RIGHTS RESERVED.