フィルムスキャナーの使いこなし

序文

「使いこなし」というタイトルを見ると、使い方の裏技や
エキスパートのみ知る高度なテクニックが紹介されると思うだろう。
しかし、ここでは主に使い込んだ者が語るフィルムスキャナーの現実と
理想を語ることにする。
ここでは、私が持つある旧型のフィルムスキャナーとその改良型のスキャナー
についてスキャン例をもとに、その問題点について考えることにする。
ただし、私はポジフィルムはあまり使用しないためネガフィルムのスキャン
についてしか情報を持たない。
ポジフィルムのスキャンで私が言えることは、シャープネスについてと、
ベルビアで撮影したフィルムを私のスキャナーでスキャンするとフィルム面の
細かいディフュージョンによってシャープネスを損なうことなくフィルム粒子が
隠されて、滑らかなグラデーションが得られるということくらいだ。
ポジフィルムは、ネガに比べて乳剤が厚いせいか、若干シャープネスが落ちる
傾向があることと、ラチュードが狭いのであまり使用していない。

旧型スキャナーの問題点とその回避方法

予備スキャンによる画像分析

フィルムをスキャンする場合、そのフィルムに記録された映像を
最適な形で取り込まなければならない。
多くの場合コンピュータ画像は、RGB各8ビットで表現されるため
256段階に収まるように調整する必要がある。
特にネガフィルムの場合は、ベースのオレンジ色もフィルム毎に異なるため
共通のプロファイルで処理することは出来ない。
また、露出がアンダーでたった場合も、オーバーであった場合も
出切る限りの情報をネガから取り込まなければならない。
そこで、本スキャン前にその情報を分析するために予備スキャンを行う。
ところが、旧型、改良型共にこの部分が自動になっており、撮影条件が悪い
ネガをスキャンした時に、思ったような結果が得られないことが多い。
普通の人は、ここで諦めるだろうが、何とかしてそれを救済したいと思う
ハイエンドなマニアは別の手を考える。
問題となるのは、
1. フィルター撮影、空、などのモノトーンの場合
 フィルムに黒や白がない場合は、最も明るい部分と暗い部分が
 白と黒であると認識されてカラーバランスが崩れる。
2. 露出アンダーなネガの場合
 狭い帯域を引き延ばすために、意図しない階調が引き延ばされたり
 フィルムの粒状性が目立ち過ぎたり、コントラストが自動調整され
 必要な階調が飛んでしまったりする。
 天体写真をスキャンする場合に意図しない結果になることが多い。
3. 露出オーバーなネガの場合
 特別な補正が入るらしく、ただでさえ遅いスキャンが2〜3倍の
 時間を要したりする。
 また、白く飛ばしたいと思って撮影した部分の階調を拾おうとして
 必要な部分のコントラストが落ちたりする。
この救済策として、私は、同じフィルムに適性露出で適度に色と
白と黒を含むような被写体を撮影しておき、この標準ネガで
予備スキャンをかけてから、本スキャンするネガでは予備スキャンを
行わないままスキャンして結果を得る。
若干、ガンマが狂ってカラーバランスが崩れることはあるが、
フォトショップでのカラーバランス(バリエーション)と
階調補正によってほぼ望みの画像が得られている。
露出オーバー時の取込みの遅さもなく、2〜3倍かけて補正を
かけられた結果よりも意図した画像が得られることが多い。

この種の機器では最も素直に取り込む標準設定があり、
必要に応じて補正を加えるのが普通の考え方である。
しかし、カラーネガの場合は、ベースのカラーも感光した部分の
色もフィルムによって大きく異なるため標準を設定することが難しい。
そのためこれらが全自動になってしまっているのだ。
どうせコマ毎に感光帯域がことなるのだからその都度調整して
記録されている画像をRGB各8ビットにフルレンジで収めてしまえ
という考え方なのかも知れない。
しかし、それでは意図しない結果になることも多いのだ。
私としては、この苦肉の救済策もこれがベストだという訳ではないので
このオートマチックな部分をマニュアルで操作出来るような
フィルムスキャナーを望むところである。
 何をどうやっているか分からない自動補正の特性を予測して
 無補正に近いリニアな結果が出るであろう適性露光のフィルムを
 予備スキャンさせて、そのフィルムの特性認識させるという
 不確実かつ回りくどいやり方をするしかないのだ。
少し面倒だが、スキャン前にそのフィルムの特性表を作るべきだと思う。
これを作っておけば、同じフィルムであればどのコマでも標準スキャン
が得られる。RGB各階調の分布を見てガンマ特性を見る必要が
あるならば、適性露光と思われるコマを幾つかスキャンして
そこから標準特性を導き出すのがいいだろう。
中間のガンマ特性が必要無いなら、ネガフィルムには、カメラに装着した
際にベタ感光した部分とコマ間やフィルム送りのための穴の空いた
未露光部分があるのでその2つから白と黒の値を得て、間をリニアに
スキャンするような特性表を作ればいいだろう。
ボタン一つでお手軽スキャンを期待するユーザーでなく、画質を気にする
ハイエンドユーザーなら、こういう手間は惜しまないはずだ。
一度、データを作っておけば、同じフィルムを使う限り、
その特性表が使えるのだし、意図しない自動補正を打ち消すための
試行錯誤の手間がなくなるとすればなおさらだ。

以下にスキャンした例と救済例を示す

青空と雲

 スキャナーが苦手なモノトーン
 普通にスキャンした結果(左)は望みの色にならないが、これを元にフォトショップで補正して
 望みの色(右)が得られる。

   

天体写真

 普通のスキャン(左)ではレンズの周辺減光によりバックにムラが出る(左上がフィルム中央)が、
 この差は強調したくない。また、コントラストが高すぎて
 星雲の明るい部分が飛んでしまっている。
 標準ネガによる予備スキャンでスキャンしたものを補正すると右のようになる。

   

露出オーバー

 左は予備スキャンをかけてスキャンしたもので色がくすんで補正しても上手く行かない。
 右は標準ネガによる予備スキャンによるもの。

   

改良型のスキャナー

旧型から改良された点は以下の通り
1. 断然、スキャンスピードが高速になった。(5〜10倍)
2. ホコリ、傷の補正機能がついた。
3. フォーカスが自動で取込み画像もシャープになった。
4. リアラACEもくすんだ色にならず適切にスキャン出来るようになった。
5. フィルムホルダーが良くなって、フィルムに誤って傷をつけにくくなった。
旧型の方が優れている点
1. 白黒フィルムをスキャン出来る。
2. 旧型の方が階調が豊かで自然な色再現であることが多い。
3. 改良型では、フィルムホルダーで真っ白であるはずのところに黄ばんだような
  色が出るが、何か妙な補正がかけられている?
ということである。

言うまでもなく、改良型の方がスキャンスピートが速くて圧倒的に優れている。
適性露出で標準的な被写体の場合は、ほとんど満足が行く結果が得られている。
ところが、地味ながら味わいがある作品を撮ろうとしたような作品の場合、
プリントでは意図した結果が得られても、スキャンすると派手過ぎる色調になったり、
コントラストを落そうとしても自然な階調に戻らないのだ。
商品というものは、見かけの派手さやインパクトで売れるものだから、
正に色鮮やかで高いコントラストでスキャン出来るスキャナーは、
間違いなく売れるだろう。
しかし、そういうものは、長く使っているとその派手さがわざとらしく、
嘘っぽく思えて来て、ある意味飽きてくる。
更に、自分が意図したものに仕上がらないと次第に使わなくなってくる。
といった理由で写真を撮るモチベーションが下がったように思う。
フィルムスキャンでここまで苦労するなら、画素数が足りなくても
安いデジカメに移行した方がいいのか、いや、しかし大伸ばしにしたり、
作品を撮るならまだ銀塩だというこだわりも根強い。

ともかく、改良型を使った実例を見てみよう

カビに侵されたフィルムの救済

 この補正機能は見事だ。
 フィルムの傷の検出はフィルムの未露光ベース色より白い部分を
 見ているようで、傷のない明るい部分が間違って補正されることはない。
 ちなみにこのスキャナーは白黒フィルムに対応していないが、白黒フィルムを
 スキャンした場合、ベースカラーがほぼ透明なため白い部分のほぼ全体が傷と
 判断されてしまう。
 この例では、フィルムの右上のコーナーを取っているので、フィルムの
 エッジ部分は補正されないが、内側では見事に補正されている。

   

 注)昭和40年代初期のカラーネガフィルムを使用。

浅い海底を撮ったもの

 左が改良型で、現実に存在しない色彩が出ている。
 右は、旧型でスキャンして補正したもので実際に見たものに近い仕上がり。

   

天体写真

 左が改良型。確かに鮮やかにコントラストが高く良い結果だ。
 しかし、私が欲しいのは旧型でスキャンし補正した、右の画像。
 明らかに旧型の方が細かな階調が取れている。

   

チューリップ

 改良型では、どうやっても赤がベタになってしまう。
 花びらの透明感が出したいのだ。
 上の星雲の写真もそうだが、旧型は、8ビットA/Dでこの階調が取れて、
 改良型の12ビットA/Dでこの階調が取れないということはどういうことなのだろう。

   

フイルムホルダー部分に黄ばんだ色が・・

 フィルムホルダーの部分は、本来は光を通さずスキャンすると真っ白になるはず。
 この部分に色が出るというのはとても気持ち悪い。
 コントラストを上げるために特殊な補正をかけているのではなかろうか?
 と思って調べてみた。
 ポジでスキャンしてみると、確かにフィルムホルダーの部分は、黒ではなく
 若干の色が出ている。このポジスキャン値で画面内の白色部分の赤の最低値は
 58で、フォルダー部分の赤の最大値は53あるので、この部分を最大値として
 判定したとすれば、納得が行く。
 なぜフォルダー部分にこのような値が出るかよく観察してみると、その傾向が
 出るネガについては、極端なアンダーの部分があり、その部分で散乱した光を
 拾っているようなのだ。透過型のフラットベットスキャナーもそうだが、
 フィルムなどを透過させると少なからず散乱が起きるので、光源を平行光線に
 整えていたとしても受光側にかなりの指向性がないとそれがフレアーとして
 取り込まれることになる。
 結果、フィルムホルダーの部分だけではなく、画面内のアンダーな部分に
 隣接する部分で同様の黄ばみが生じている。
 結論として、特殊な補正が行われている訳ではないが、フレアーを拾って
 コントラスト強調されたため黄ばみを生じたようだ。
 左が改良型の画像。右が旧型のもの。

   


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