初歩のレンズ講座


凸レンズで太陽の光を1点に集める

これは、学校の理科の時間に習うことであり、多くの人は実際に太陽の光を一点に集めて紙を
焦がしたりした経験があるだろう。
しかし、ここには正しい理解を妨げる幾つかの落とし穴がある。
まず、太陽からどのように光が発せられているかを考えてみよう。
思い付く考え方は3つ

1. 平行光線なのだから[1]のようになる。
2. 光は放射状に出るはずだから[2]の様になる。
3. 太陽は球であり、球面のどの部分からも発光しているので[3]の様になる。


正解は3である。

厳密には、太陽はガス体であり表面だけからではなく内部で発生した光も外に出てくるとしたら
もっと複雑になる。
1の様な誤解をしている人は、意外に多いと思う。
光線が平行になるのは、光源との距離が遠くなるためである。
これを知識として知っていても、概念的に理解していないと関連した事柄を考察したときに
それと気づけず、とんでもない間違いをしてしまうことがある。
2の考え方は、太陽がほとんど点に見えるくらいのスケールで見るなら正しいと言える。
しかし、太陽の視直径は、お月様程あるのだから点と見なす訳には行かない。

さて、レンズで光を集めるだけなら、レンズによって光が1点に集まっていると考えても
差し支えない。
しかし、「光が1点に集められる」と暗記してしまったら、もう少し先に進んで光学を
勉強しようとした時に、色々な矛盾が生じて、理解を妨げることになるかもしれない。
「光が1点に集められる」という説明を厳密に書き直すと、
「凸レンズによって非常に小さな太陽の像を結ぶ」と言い代えることができる。
それでは、どれくらいの大きさの像ができるのか計算してみよう。
レンズの焦点距離と比べると太陽はほぼ無限遠にあると考えられるので、
像の半径(mm)=焦点距離(mm)×太陽の直径(km)÷太陽と地球の距離(km)
という計算式で計算できる。 焦点距離は10cm
地球と太陽の距離が1億5千万km
太陽の直径が70万km
これらを代入して計算すると像の直径は約1mmとなる。
ほとんど1点に集められると言っていい。
しかし、それは太陽の像である。
ちなみに焦点距離が10メートルのレンズを使うと約10cmの像を得ることができる。

2つの光学系

光学機器には、大きく分けて2つの種類がある。
1つは、結像系
 写真を撮る時、レンズでフィルムに像を焼きつける。
 映画やOHPの様にスクリーンに像を投影する。
 といった用途のものだ。
もう一つは、アフォーカル系
 眼視系とも呼ばれる。
 光を収束して像を結ばせるのではなく双眼鏡や
 顕微鏡の様に目で見た時に物を拡大して見るといった用途の、
 平行光束を出力とする光学系だ。
 この両者は、相互に変換が可能であり、例えば
 一眼レフカメラは、結像系とアフォーカル系を両立している。

結像系

 先ず、光による物体認知の観点で、結像というのを考えてみよう。
 普段、目で物を見ている私たちにとって、像を結ぶというのは目の網膜に像を投影して
 物を見ているのだから何でもないことの様に思う。
 しかし、目という器官がなければ、周囲に散乱して混ざりあった光から周囲にある
 物体の存在や形を認知することは非常に難しいのである。
 例えば、チューリップの花が咲いている近くに白い紙を立てて強い光を当てると
 チューリップはどのように映るだろう。

   

 ほとんど映らないか、輪郭もぼやけて色がほんのり分かるという程度になるだろう。
 また、別の考察として、ある物体を色々な方向から見ることが出来るということは、
 その物体を見ることができるすべての方向にその物体から光が出ているということになる。
 これは光源でも、光を乱反射する一般の物体の1点に着目しても同じことが言える。

 さて、ここで最も簡単な結像光学系を考えよう。
 それは、針穴写真である。
 レンズを使わないのに像を得ることが出来ることを、不思議に思う人は案外多いと思う。
 レンズは光を集めることが出来るが、針穴には光を集める性質がなく、
 光を集めない針穴がなぜ像を結ばせることができるのだ・・・と。
 つまり、不思議だと思う人は、レンズの光を集める性質によって像を得ている
 と考えているということだ。
 もちろん、この考え方は間違いではなくその通りなのだが、それだけでは説明がつかないのだ。
 レンズは光を集めると同時に、ある1点から出た光を特定の一点に対応させる働きを
 併せ持っているということなのだ。

 針穴写真の場合は、光が直進する性質から小さな穴を通る光は穴を中心とした
 点対称の方向に進む。
 穴の反対側にスクリーンを置くと、物体の1点はスクリーン上の1点に対応する。
 レンズと同じ対応付けが出来ているということだ。
 図では示していないが、ここで出来る像は、点対称なので上下左右が
 反転した倒立像(180度回転させたものと等価)となる。
 下図は、3点から出た光が針穴を通過する様子を模式的に示している。

   

 針穴写真は、光を集めないのでピント合わせの必要がない。
 スクリーンを針穴に近付ければ小さな比較的明るい像が得られ遠ざけると
 大きく暗い像が得られる。
 また、針穴を大きくすると像は明るくなるが、当然のごとくぼやける。
 穴を小さくするとある程度までならシャープになるが、それ以上は回折現象が起きたり、
 通過する光の量が少なくなって、ただでさえ暗い像はますます暗く不鮮明になる。
 そこで、針穴よりも細く鮮明な、針穴の何倍も明るい像を得る方法がないものかと
 人は考える様になる。
 ここでレンズの登場となる訳だ。
 例えば3点から出る光をそれぞれについて以下の様な断面図で考察すると、

   

   

   

 という風に、スクリーン上の各点に集まる。
 1点から出てレンズの表面から入射する光はすべてこのようにスクリーン上の1点に
 集まるのだ。
 ここでは1点から出てレンズ上の5点を通る光線について図示した訳だが、
 レンズ表面上には無数の点があり、どの点を取ってもこれが成り立つ。
 更に、3点から出た光について別の図に図示した訳だが、例えば壁に描いてある絵を
 レンズでスクリーンに投影する場合壁の表面上にある無数の点についてこの3点と
 同じ様ことが言える。
 これらが当時に起こっていると考えると眩暈がする。
 コンピュータでシミュレーションするにしても、高速な並列処理を持つコンピュータを
 使なわない限り、1枚の絵をレンズでスクリーンに投影するだけで何時間も、
 解像度によっては何日もかかってしまうことだろう。
 レンズがなぜ光を集められるかということは、光の屈折の性質による。
 光は、光を通す媒質変化する境界面で屈折する。
 その屈折の仕方を計算式にしたのがスネルの法則である。
 その性質を利用して、光が1点に集まる様にガラス等を滑らかな曲面に磨き上げたものが
 レンズである。
 厳密には球面は理想的な曲面ではないのだが、球面がそこそこ実用になる曲面であったのは
 幸いなことだ。
 磨き易い球面でもそこそこ光を1点に集められ、複数のレンズを組み合わせることで
 理想に近いレンズを構成できるのである。

アフォーカル系

 この説明に入る前に、物が大きく見える原理を説明することにする。
 下図[1]に小さな円(左側)とこれを目で見ている様子を断面図(右側)で示す。
 また、2倍の大きさで描かれた円を見た様子を下図[2]に示す。

   

 断面図に於いて、円周の直径に当たる2点と目の主点に当たる点を結ぶと2つの円を見る時の
 違いは、その角度にあることに気付く。
 そこで、途中に何かを入れて、目に入る時の光線の角度を変えてやると実際には小さなものを
 拡大して見ることができる。上図[3]は、その説明の図である。
 実際には赤い円が描かれており、これが拡大されて青い円の様に見える。
 そうすると光の経路は、[2]と同様に黄色い経路で目に入ることになる。
 この光は、小さな円から出ているはずだから、赤い経路で示した様に進み途中で屈折して
 黄色い経路を進むはずである。
 このとき、黄色い光路を物体の方向にそのまま延長した仮想的な光路を青色で示している。
 この光路とスクリーンとの交点に像が青い円で示した様に赤い小さな円の2倍の大きさで
 見えることとなる。
 このとき、青色の円の様に実際には存在しないがそう見えている像のことを虚像と呼ぶ。
 ちなみに[1]の様に本来なら小さな円から目に向かって進む光を[3]の断面図でも
 緑で示したが、これは多分屈折して目には入らないであろう。
 同じ点から出た赤と緑の光路は屈折後平行になるため緑の光は図の様に進むはずだ。

 多くの場合、物を拡大して見る時に使われるものはレンズなのだが、
 水中眼鏡は平面ガラスで水中の物を拡大して見ることができる。
 下図は、その時の光の屈折の様子を示す。

   

望遠鏡

 大きく分けて、反射望遠鏡と屈折望遠鏡がある。
 屈折望遠鏡には、ガリレオ式とケプラー式がある。
 ここでは、ガリレオ式とケプラー式について説明する。
 ガリレオ式は、凸レンズと凹レンズによって構成され、
 ケプラー式は、2つの凸レンズで構成される。
 以下に一般的な光路図を示す。






 ここに図示されたことは、無限遠のある1点から出た光が平行光線として対物レンズから
 望遠鏡に入り、集められた後、接眼レンズでまた平行光線に戻されて出ている
 ということである。
 私は、望遠鏡の説明で一番よく見かけるこの光路図は、望遠鏡が遠くの物を拡大する原理を
 何一つ説明していないと思う。
 この図で分かることは、対物レンズの表面から入った平行光線が細く収束された平行光線に
 変換されたということだけなのである。
 言い換えると、これは無限遠の1点から出た光軸と平行に入射した光に限定した説明だ
 ということだ。
 この図は拡大率(倍率)について何も説明していないが、その代わり光束を収束することにより、
 肉眼で見るよりも多くの光を目に入れることができることを意味している。
 ただし、明るさについては、光を収束しようとすると、それに応じて倍率も高くなるので
 その分暗くなり、そんなには明るくは見えない。
 それでも肉眼で見るより明るく見える光学系は双眼鏡などに多く見られる。
 さて、ここで拡大率について考えることにする。
 拡大率を考える時には、ほぼ無限遠にある異なる点を考えなければならない。
 例えば、肉眼では1つの星に見えるが望遠鏡で見ると2つの星に別れて見える二重星などを
 思い浮かべるといいだろう。
 前述した拡大率の説明では、1点から出て目(レンズ)の主点を通る代表的な1本の光線を
 考えたが、実際には1点から出た光は結像系で説明した様に対物レンズの表面すべてに
 入射する、対物レンズの直径と同じ太さの光束と考えることができる。
 2つの光源は、ほぼ無限遠にあるので光源から出た光は、どちらもほぼ平行光線と考えることが
 出来る。2つの点から出た光束の違いはレンズに入射する時の角度が違うだけである。
 像を拡大するということは、1つの点の間隔がより離れて見えるということであり、
 これらレンズに入射する2つの光束の角度を、実際より大きくして接眼レンズから出してやれば
 2つの点は離れて見えるということになる。
 一般的な説明では、接眼レンズから出て来る光は、単一の平行光束であるかのように示される。
 異なる点から出た光は、別の角度を持った平行光束として対物レンズから同時に入射して、
 接眼レンズからそれぞれ異なる角度の平行光束として出てくる。
 従って、接眼レンズから出て来る光束はすべてが平行ではない。
 1点に由来する光線同士が平行だということだ。

 下の図は、ハイアイポイントな望遠鏡の模式図である。
 望遠鏡で見える上下に並んだ3点から来る光について個別にその光路を示し、それらの合成と、
 望遠鏡の視野内の全光束について図示した。

   

 1点から出た光が、接眼レンズから細い平行光束として出てくる。
 ちなみにこのときの光束の直径を「ヒトミ径」という。
 接眼レンズからは、「ヒトミ径」の太さの少しづつ角度が違った光束が重なりあって無数に
 出ているのである。
 光軸と平行でない光は、図の様に傾いて出てくる。
 それらの交点がアイポイントである。
 視野が広いハイ・アイポイントの接眼レンズは、出て来る光束の傾きも大きくなるので
 必然的に口径が大きくなる。
 ハイアイポイントでない古い光学系の接眼レンズ、例えばオルソピックスなどは、
 目がレンズに触れるくらいに近付けないと全視野を見渡すことができないくらい
 アイポイントが短い。当然そういうものは視野も狭い。
 黄色く図示された光路のうちアイポイントより後ろで接眼レンズを見ると接眼レンズの
 どこかに対物レンズから入って来る光が小さな円になって見える。
 この円はほとんど広がりを持たない平行光束であるため、アイポイントから離すと
 ただの小さな明るい円にしか見えない。
 そのまま接眼レンズに目を近付けて行くとアイポイントに達したところで急に視界が開ける。

 ケプラー式の望遠鏡に関しては、このようなアフォーカル系の説明の他に、
 対物レンズで出来た像を接眼レンズで拡大して見るという考え方もできる。
 対物レンズの焦点には、対物レンズによって結んだ像がその空間に出来ている。
 そこにスリガラスを置くことでその像を確認することができる。
 その焦点と接眼レンズの焦点が一致する様に接眼レンズを配置すると、
 その空中に出来た像を拡大して見ることが出来る訳だ。

 続く・・・

参考文献

誠文堂新光社 天文アマチュアのための 望遠鏡光学・屈折編
吉田正太郎著
ISBN4-416-28908-1 C0044 P2000E

オプトロニクス社 ユーザーエンジニアのための 光学入門
岸川利郎著
ISBN4-900474-30-4 C3055 P4200E

丸善株式会社 理科年表 平成2年 1990 第63冊
国立天文台編
ISBN4-621-03425-1 C3040 P1009E

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