「哺乳類はエイリアン」第一稿

このお話は、日常の哲学から生まれた空想科学小説(フィクション)です。

ビッグバンより、1恒星寿命までは、宇宙空間には、惑星のようなものはない。
恒星が寿命を終えることで、水素、ヘリウム以外の重い物質がまき散らされて、
惑星が生まれるのだ。
1恒星寿命までの約100億年を第1恒星期とするなら、
この太陽系は、ビッグバンより数えて第3恒星期に当たる若い恒星系だ。
ところが、この太陽系にある漂流者達がやってきた。
話を聞くと、第2恒星期の恒星系に生きた者たちで、その恒星の終末を迎え
新たに生活するための恒星系を探しているという。
彼らは、決して一方的に侵略してくるような酷いエイリアンではなかった。
しかし、彼らが来なければ、この太陽系は、若い恒星系として、ある意味のんびりと
全く独自の進化をすることが出来るのだが、彼らが来たことで別の道を選ぶべきか、
選択を迫られることになった。
漂流者は、1恒星期早く生きたその経験を生かし、お互いの恒星系の良いところを
出し合えば、より進化した高度な活動が出来るし、この太陽系にもいずれ終末期が
訪れるので、我々の経験を生かして共に乗り切ろうと提案してきた。
しかし、一度受け入れれば、後には引き返せない。1恒星期分つまり100億年ほども
先輩なので、どれだけの悪知恵を持っているか分からない。
共に生活して、同一の生態系で生きたとしても、若い生命は、彼らに
虐げられるのではないかという懸念は払拭出来なかった。
太陽系の住人たちは、彼らを受け入れるか本当に悩み、意見も割れた。

そうそう、ここで説明しておこう
地球の元の住人は、どういう生き物だったかというと、
爬虫類、昆虫、甲殻類、魚類、両生類、ミミズのような生き物
である。で漂流者とは、哺乳類なのだ。

この2つの恒星系を比べてみると、共通点も多いものの、哺乳類だけ
やや異なる特徴を持っていることが分かる。

地球型の生き物の持つ特徴は、色を識別出来ること、また、色素ではなく構造色と
呼ばれる光の干渉を利用して体の色が作り出されたものも多い。
それから、外骨格のものがあったり、毒を持つものがあること。
また、昆虫など多彩な音を出す生き物が多いこと、発光する生き物があることも特徴だ。
生殖に関しては、雌雄がはっきりしているものも多いが、雌雄同体や
途中で性転換するものなど様々で、みな卵生である。
植物にあっては、甘く魅力的な芳香を持った果実を実らせるものが多く、
動物のために、甘くエネルギーが高い蜜を出すものも多い。
植物は、地球の豊かさを象徴するものだった。

一方、哺乳類の特徴は、大きな脳により高度な感情を持ち、集団行動ができる。
それから、最も特徴的なのが恒温動物ということであり、胎生であること。
体はウロコではなくて毛で覆われている。
それから一部に、耳が発達していて、超音波を感知出来るものもあった。
それだけ高度なのに、なぜか色が識別出来ず、毒を持つものもないのだ。

協議を重ねた結果、一旦受け入れられないという結論が出て、漂流者は
太陽系を去ることに決まった。
ところが、その頃偶発的に地球に隕石が衝突するという出来事が起き、
地球は氷河期に入り、恐竜は、厳しい時代を迎えた。
当時、恐竜として生きていた者達は、寒くて過酷な中を必死で生き、やがて滅びた。
それは、太陽の終末期にも似て、辛く過酷なものだったのだ。
漂流者は、その恐竜の終末を自分たちの経験と重ね合わせて静かに見守った。
そういう出来事があった後、いずれ地球にも訪れる太陽系の終末、
それに備えるためにも受け入れる他はないだろうという結論になった。

この漂流者は、物質的に移動してきたのか、霊的に移動してきたのか
その辺りは定かではないが、それは、ノアの箱船伝説で語られているようなものだった。
アダムとイブの話で、蛇が甘い果実を食べるように誘惑したとあるが、
太陽系の住人であった蛇が、豊富に有るから遠慮せず食べなよ、と素朴で気軽な持ちで
言った言葉が、苦しい恒星系の終末を経験した移民にとっては、食べたら堕落すると
悪魔の誘惑の様に聞こえたのだ。

恐竜が滅びた後、最初に適応した哺乳類は、ネズミ類だった。
その後お互いの恒星系の良いところを合わせて、
その頂点に立つ生き物として霊長類が創られた。
哺乳類の中でも最大級の脳を持ち、色を識別出来る目を持つことになった。
地球固有の植物に慣らせるために、敢えてビタミンCを体内で合成出来なくして
果実を食べざるを得なくしてある。
また、広大な海でも哺乳類が生活出来るように、アザラシ、クジラ、イルカ
など海洋哺乳類も作られた。

太陽系の住民は、滅びた恐竜の代わりに、鳥類を作った。
鳥類は、爬虫類を進化させたものだが、空を飛ぶことも地球型の生き物の
特徴の1つで、後にコウモリが創られるまで哺乳類が持たなかったものだ。
鳥類は、哺乳類から、小さな脳と初歩的な情緒をもらい、
地球初の恒温動物が生まれることとなった。
しかし、胎生は、なかなか受け入れられず、卵生の恒温動物としたため
卵は産んだ後、ふ化させるために暖める必要があった。
爬虫類をそのまま飛ぶために進化させても、変温動物では羽ばたきに
必要な筋力は、到底実現出来ず、滑空するにとどまっただろう。
恒温動物にすることによって、羽ばたきに必要な力を得ることが出来たのである。

この世界には、生命を作った神のような存在が有る。
それは、唯一神ではなく、複数の存在である。
ここでは、生命のアーキテクターとでも呼んでおこう。
アーキテクターは、太陽系にも哺乳類の元居た恒星系にも独自に居て
生命を創り、独自に進化させている。

しかし、地球のアーキテクターは、優れた側面を持つものの、
情報処理や、感情、社会行動などの分野で100億年遅れているのだ。
かなり劣等感を持っていたらしい。
哺乳類は、高度な感情を持つことで、より強力な欲求が創られ、それにより
より積極的に物質を操作して、この物質世界の環境を変化させる
原動力にしているという。
また、個の力は弱いので、経験や情報を共有して、共同して作業することで
大規模な仕事を行うことが出来るという。

地球のアーキテクターは、この集団行動の意味が理解出来なかった。
それは、複雑な感情によって作られているものだったからだ。
地球のアーキテクターも、真似をして社会行動をする生き物として、
昆虫をベースに蟻と蜂を作ったものの機械的な生き物になってしまった。

地球のアーキテクターがあと衝撃を受けたのが、哺乳類が持つ
性的な衝動である、それを経験した一人は、そのインパクトから
爬虫類をベースに亀を作った。
不要な時は、しぼませて格納出来る海綿体のような構造も
哺乳類独特のものだったが、その外見を真似て独自の構造で
作ったのか、亀の頭は、機械的な格納方式となっている。
これは、哺乳類に対するオマージユと言うべきものだ。

哺乳類が地球に馴染んできた頃、生命の相互乗り入れとして
様々な生き物が提案されてきた。
哺乳類側で見ると、空を飛ぶコウモリ、
変わったものとしては、くちばしと毒を持つカモノハシ。
本来、哺乳類は、その体温を保つために常に行動していなければならない
働き者なのだが、変温動物の爬虫類のように、エサが少ない時は
休眠するような機構も、哺乳類に取り入れられた。
それが、冬眠するクマなどである。

鳥類側では、脳を発達させたカラス系とオウム系。
哺乳類系の人達が、鳥として生まれて生活出来るように、
ハトは、喉から乳を出してヒナを育てるようになっている。
半消化状のものを口移しで与えられるのは、哺乳類として
生きてきた人達にとっては、受け入れられず
なかなかうまく育たなかったということだ。
鳩が平和の象徴と言われるのは、そういうことがあったからかもしれない。

哺乳類の人達が、地球型生物の何になりたいか、
最初に人気を集めたのは、蝶であった。
蝶は、優雅でひらひらと空を舞うので、女性に人気があるが
それを客観的に見て、そのように自分も空を飛べたら・・・
と思ったに違いない。空を飛ぶことは、哺乳類の一番の憧れだったのだ。
しかし、客観的に見るのとその動物になってみるのとでは、
大違いで、実際に蝶になってみると、その無機的な世界は
とても冷たく、非常にシュールな世界に映ったと言われている。
特に、長い幼虫期や身動き取れないサナギの時期に天敵に襲われ
蝶になるまでに多の虫などに食べられてしまうことなどから、
次第に、蝶になりたいという夢を抱くものも少なくなった。

そんな中、太陽系のアーキテクターの一人が、ある哺乳類のアーキテクターに
蝶をベースに蝶に似た別の昆虫をデザインしてみてはどうかと提案した。
哺乳類側のアーキテクターは、後にサタンと呼ばれるルシフェルだった。
彼は、感情の負の側面を作り出したアーキテクターで、危機感を元に
動物を行動に駆り立てたり、縄張りを守るために多を威嚇したり、
痛みによって危険行動を回避させるなどの重要な役割を設計していた。
哺乳類系のアーキテクターは、太陽系のアーキテクターとは、距離を置いて
接していたが、彼だけは、爬虫類にある種の憧れを持っていたので、太陽系の
アーキテクターと深く関わり、関係を深めて行った。
蝶を作ったアーキテクターとルシフェルは、共に生物がどう進化すべきかなど
将来の夢を共有して語り合う親友のような関係だった。
ルシフェルは、まず、蝶が天敵に教われないように、幼虫期に
毒を持たせることを提案した。また、哺乳類が馴染みやすいように
ツルツルの体ではなく、毛を生やして毛虫にすることを願った。
成虫になってからも敵に襲われないようにするため、昼間行動する
のではなく、夜行動するようにした。また、昼間休んでいる時に
敵に襲われないように、羽に目玉模様をつけて威嚇するものも創った。
一番危険なサナギ時期には、まゆを作って身を守るようにしたものもある。
蝶と比べると、いたれりつくせりなのだ。
蝶を太陽とするなら、蛾は、月のような美しさを持つ。
これが、ルシフェルの持つ美的感覚であり、その代表的な蛾が
オオミズアオであろう。

ルシフェルは、その後落天使として追放されてしまう。いや、追放と
言うよりは、むしろ自分が作り出したもので自分自身を縛ってしまったのだ。
強い力を欲したために、冷たくより強い重力場へと自分を追いやってしまったのだ。
蝶を作ったアーキテクターは、この事件で親友を失い、とても悲しんだ。
そして、彼を救い出すべく今でも方法を模索しているという。

to be continued...

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