ストラディ・ヴァリウスの謎

例えば、古代遺跡などはそのものは残っているけれど、
どうやって作ったのか分らないというものが多い。
ところが、古代遺跡でなくても成果物だけ残されて
製作技術が解明されないものがある。
ヴァイオリンの名器ストラディ・ヴァリウスが正にそれだ。
ふとしたきっかけからその謎について考えてみたくなった。

まず、世間でよく言われていることには、ニス説がある。
しかし、私はあまり信憑性がないように思う。
ニス自体は、木材より柔らかいものであり下手をすると
振動を吸収してしまうだろうから。
可能性としてあるとすれば、木材に十分に染み込んで
木の材質を変化させた場合くらいだろう。
私の考えでは、良い楽器は音に芯があり、力強く鳴るのだ
という考え方をしている。当然それは強い振動のエネルギー
の存在を裏付ける。
従って第一感では、ニスよりも弦から胴に振動を伝える
メカニズムが重要ではないかと思った。
楽器というものは、発音体があってそれを共鳴体に伝達して
増幅して鳴らすというのが、一般的な科学的解釈なのである。
私はこれが基本だと考える。
もしも、ニスが有効であるなら、ニスよりも漆の方が
効果があるかもしれない。表面だけ固いもので被われた
木材というものは、果たしてどういう特性を示すものなのか。
漆塗りのヴァイオリンで蒔絵が施してあるようなものが
作られれば、もしも音響的に悪くないなら趣がある。

私は、電子音楽に興味があり、新しい音源として
「共振モデル」を使った新しいタイプのミュージック・
シンセサイザーが作れないものかと考えている。
まあ、他の仕事が忙しいのと、自分の数学の能力では
伝達関数の計算もままならないので今のところ無理だが。
そういった背景もあり、ある程度音響には興味があって
幾らかの考え方を持っている。
こういう謎解きを音響学者に任せると、的外れな実験をして
自分達の専門知識を売り込もうと、手前味噌的な結論を
出しがちになる。
そういう意味では、素人の方が発想が柔軟かもしれない。
ヴァイオリンを作るのに、今世の中にあるものの中で
何がそれに近いのかというのも一つだと思う。
スピーカー・ボックスなども、周波数特性を考慮して設計
されるであろうし、他の楽器を参考にするのもいいだろう。
また、ストラディ・ヴァリウスのようなものを作るのであれば
インパルス応答の周波数解析などによって周波数特性を
調べながら作るのが一般的な方法になるだろう。

私は回想を巡らすうちに、NHKの番組「プロジェクトX」に
ヤマハの国産ピアノの開発のドラマがあったことを思い出した。
ヤマハが、シュタインウエイを目標に、国産ピアノを開発
したのだが、最初はうまく響かなかったということだ。
ヴァイオリンも同じではないかと思う。
その番組を見て発想したのが、「胴が一体となって強く響く」
ということであった。
一体となって響くということは、板を組み合わせて作られた
箱が丈夫であり、板間の振動の伝達に損失がないことである。
そしてまた更に「テンション」という発想が思い浮かんだ。
弦は、ピンと張らないと音が出ないが、もしかしたら胴の方も
ピンと張っていなければ響かないのではないか。
三味線の猫の皮なども同じだ。
例えば、ヴァイオリンの胴の側面は、曲面に加工した板を
填めこんでいるが、曲面に加工しないで平面のまま無理矢理
曲げてその形に押し込んでしまうとどうだろう。
すると胴にも張力が働いて響き方が変わる様に思う。
見かけはどちらも同じ形に仕上がるが、特性は大きく異なる筈だ。

以上が私の発想なのだが、誰かこの発想を試してはもらえないだろうか。

Date: 2005.1.31

私が考える良いヴァイオリン

良いヴァイオリンに関しては、響きの観点で既に書いたが、より
本質的な意味での説明をしておきたい。
NHKの番組他で、何本かの異なるストラディ・ヴァリウスの音を聞くことが
出来た。今まで聴いたのは、「デュランティ」「ソイル」「カテドラル」
「Xナチェス」「ロチェスター」「ギブソン」「レオナルド・ダ・ヴィンチ」
「エンプレス」。同じ作り手でもかなり個性は違うと思った。
私が他のヴァイオリンと聴きくらべる時のチェックポイントは、
ノイズとも取れるような、タコ糸で弦を引っ掻いたような鋭い振動。
特にヴィブラートをかけたときにそれが現れるかどうか。
また、蚊の鳴くような高音のピアニッシモが表現出来るか。
そういった辺りだろう。
多分、ピュアーでスマートな音を奏でるなら、ストラディ・ヴァリウスより
今作られている他のヴァイオリンの方が良い音を出しているかもしれない。
良い楽器とは、聞き手の心を根底から揺さぶるものだと思う。
響きというよりは、感動に通じる振動であろう。
最近の映画で重低音の響きでハッとさせられることがあるが、そういう振動。
演奏家にとってみれば、自分の気持ちがストレートに音として表現出来ること。
滅茶苦茶に凄い力を入れると、それが強く説得力のある美しい振動として
表現出来るような楽器だと嬉しい。そういう意味で効率が良くロスがないこと。
共振が合っていないと弓を弾いてから音が鳴るまでにラグ・タイムが
生じることがあると思うが、そういうラグがないこと。
表現に幅があるということは、下手な人が弾くと、耐えられないくらいの
雑音が生み出せる楽器であるということも一つの要素だと思う。
音は、やわらかくも決して曇ってはいけない。
やはり、強い音はメチャクチャ強く、弱い音は繊細に響かなければ。
学者は、名器の音を分析して、その音色の周波数分布を比較するかもしれない。
しかし、そうやって近付けた音は、やはり表面的な真似に過ぎない。
だから、もっと正統的な作り方で目指さなければならないと思う。
・ダイナミックレンジ
 大きい音はより大きく、小さい音はより小さく繊細に出せること。
 当然、全音域、音程に関して個別に評価すること。
・応答性
 ラグ・タイムがなく反応が速い楽器であること
この辺りが基本だろうと思う。
良いものは、偶然から生まれたり、失敗から生まれたりする。
しかし、それらは、基本的な作り方から決して離れたところにはないと思う。
そして足りないと思った時、はじめて素材を変えてみる。
その他・・・
・良い響きを出す板の厚さを研究しようと、胴の内側を削ってしまうと、
 板の厚さだけでなく、胴の容積も変えてしまうことに気付かない。
・ヴァイオリンは、なぜあのような形をしているのだろうか、
 もっと良い形があるのではないか・・・
・ヴァイオリンは、肩と顎で挟んで固定するが、この部分を固定しても
 胴が損失なく響く構造になっていなければならない。
・共鳴は、弦から空気で伝わってくるものも大きいのではないか。
 音叉の共鳴箱などもそうだが・・・
・ヴァイオリンの最終調整はどこで行うのか?
 インテグラル記号みたいな部分は装飾なのか?
 あの記号のどこをどう削るかで響きを調整出来ないか?
Date: 2005.5.6

やはり、強い共振特性を持っているのか

NHKスペシャル「至高のバイオリン ストラディヴァリウスの謎」を見て、
音を放射する方向に指向性があるというのは興味深いと思った。
しかしながら、指向性の正体までは分かっていないので解析には、もう少しかかるだろう。
上側、前方向ということは、何となく胴内の空気そのものが振動してf字孔から
外に出ている感じがする。あるいは、胴内で音が複雑な反射を繰り返しているかもしれない。
同じ実験で、穴を塞いで、演奏するとどういう音になるのか気になる。

やはり楽器を共振させなければならないのだと思う。
日常生活で、家の上空をプロペラ機やヘリコプターが飛んでいるとき、
その振動でテーブルが揺れる事がある。
相当遠い場所で発生した音波振動が、テーブルを揺らしてしまうのは驚くべきことだ。
このような振動が起きないと、芯のある音にならないのではないか。
恐らく、共振は、振動体の周波数特性に合わせてフィードバックが起きて
振動が増幅されるということだ。周波数よりむしろ位相が問題になるのかもしれない。
どの周波数にピークを持たせればいいかは、名器の胴をコツンと叩いた時の
インパルス応答で分かる。
ただ、共振を起させるにしても、木箱がどれくらいの鋭さのQを持つのか。
急激なQは、音程による音量変化を起こし楽器として望ましくない。

最近は、色々な分野で、バイオミメティクスが盛んだが、ヴァイオリンも
そういった応用で進化させられるのではないかと思う。
よく、コオロギがヴァイオリンを弾いているイラストを見かけるのだが
案外、発音原理は同じではないかと思う。
コオロギは、羽をすりあわせた摩擦で音を出し、羽で作られる空間で共鳴させている。
あんな小さな体で、薄い羽で、あんなに大きな音を出している。
で、Webを検索して、こんな論文を見つけた。

スズムシの発音メカニズム(翅の振動モード解析に基づく検討)

これを見ると、羽が2つの胴に分かれていて、それぞれが同時に同位相で振動し
全体として一つの振動を起すということが書かれていた。
もしかすると、弦と胴の共振ではなく、2つの共鳴箱の共振のように
ヴァイオリンの胴のくびれによって分けられた部屋同士が独立して振動でき、
共鳴させるような構造なのではないか。
これは、番組内で言っていたバランス上のツボ
・表板は、駒の位置で重さが2分される。
・容積は、魂柱の位置で2分される。
というCTスキャンによる解析とも一致する。
これを窪田博和氏のように、重さや容積ではなく、音響特性で合わせると・・・。
音源が2つということになると、ミュージックシンセサイザーで2つの
VCOを持つのと同じだから、ピッチを微妙にずらしてやることで
音に厚みを持たせる事が出来るようになるのではないか。
ヴァイオリンは、本当に鳴く虫をモデルに設計されたのかもしれない。
Date: 2013.11.11

フルートを吹いていて、似た様な心当たりがある。
良い音が出ているとき、何か口の中が響いている感じがするのだ。
フルートも無響音室で演奏すると、音量的にもかなり厳しいらしいが、
楽器と口の空洞が同じ周波数特性を持ち共鳴すると強い音が出るだろうと思う。
Date: 2013.11.24

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