幻想小事典
 

・アガレス (Agares)

またはアガロス、ザボエス。ブァッサーゴの別名とも言われる。
ソロモンの72の英霊の一人で、召喚されると鰐に跨った老賢者の姿で現れる。
たたずむ者を走らせ、走り去った者を呼び戻すほか、あらゆる威厳を打ち破る力を持つという。
召喚者には言語の知識を与え、地震を起こして破壊を行う。堕天する前は力天使ヴァーチューズだった。
一般的には地獄の大公で31の軍団を率いるとされているが、一部には地獄の侯爵とする説もある。
ヴァイエルという悪魔学者によると、地獄の東の領域を支配しているらしい。

・アスクレピオス (Asklepios)

ギリシャ神話の医術の神で、太陽神アポロンの子。ケンタウロスのケイロンに育てられ、人に治療や薬事の技術を伝授する。
叔母・アルテミスの願いで禁忌を破って死者を甦えらせた為、祖父にあたる全能神ゼウスが掟に従って天罰を下し、その雷光によって灰と化した。後に功績が認められて蛇遣い座に据えられる。

・アテナ(パラスアテナ)、アテネ (Athena、Athene)

ギリシャ神話のオリンポス12神の一人。戦いと知恵、そして技芸(手芸や織物など)の女神で、全能神ゼウスの子。ローマ神話ではミネルワァ(Minerva、英名では綴りが同じでミネルヴァ)で知られる。
母はティタン神族の海神オケアノスの娘メティス、またはゼウスが一人で生み出したといわれる。
それというのも、メティスが産む子が男児だった場合、己を背き神を統治する立場になるという予言に怯えたゼウスが妊娠中のメティスを呑み込んでしまったことに端を発する。
その後、彼女の出産予定日だった日が訪れるとの頭が激痛に襲われ、あまりの痛みにヘファイストスに頼んで斧で割ると、その傷口から完全武装した成人の姿でアテナが飛び出し誕生したからである。
彼女は英雄や王侯の守護神であり、市民生活の保護者でもある。戦いの女神だが、むしろ争いを好まず、護るための戦いしかしなかった……が、刃向かうものには容赦しなかったらしい。
それを物語るエピソードとしては、容姿と髪の美しさを自慢していた(ポセイドンと愛しあったためとも言われる)メドゥーサを、醜い怪物の姿へと変えたなどというもの。他に、彼女が手芸や織物の守護者として、「神々にさえ自分ほどに巧く織れる者はいない」と機織の腕前を自慢していたアラクネを諫めに行く話もある。それを聞き入れなかったアラクネが機織の勝負を言い出したためにその勝負を受けることになり、その際アラクネが織った模様が神の権威を汚すものだったので激怒し、彼女の作品をズタズタに引き裂いて彼女を打ち据えた。だが、そのショックで自害してしまった彼女を見て怒りを解き、魔法の水を使って彼女を蜘蛛として生き返らせたという話である(負けた腹いせにという説もある)。
また、伯父である海神・ポセイドンとアテナイの土地の所有権を争い、これに勝利してアテナイ市の守護者となった。それによりアクロポリスのパルテノン神殿は、彼女に捧げられたのである。
彼女は右手に『勝利の女神ニケ』、左手には『盾・イージス』を持つ姿で表され、一生を処女として過ごしたことから純潔の化身とも呼ばれる。
彼女の弟でもあるペルセウスメドゥーサ退治をする際には鏡の盾を貸し、無事に退治したは倒したメドゥーサの首をその盾・イージスに埋め込み、彼女に捧げて返した。
その後、従兄弟にあたるベレロフォンには、彼の弟である天馬・ペガサスを与えた。

・アポロン (Apollon)

ギリシャ神話のオリンポス12神の一人である太陽神で、全能神ゼウスとティタン神族のレトの子。双子の妹に狩猟と月の女神・アルテミスがいる。ローマ神話でのアポロ(Apollo、英名も同じ)でも知られているが、同じくギリシャ神話の太陽神であるヘリオスと同一視されることもあるらしい。
また、知性と道徳、秩序、律法の保護者であり、音楽(特に竪琴(リラ))、弓矢、予言、医療、家畜なども司る神(ヘルメスに譲る以前には牧畜の神も彼が務めていた)。
その姿は若く力強い、ギリシャ人が理想とする姿そのままの美青年として表わされるのが一般的であるが、まれに厳しく残酷な神として書かれることもある。弓の腕と駿足は群を抜き、運動にも長けていたため、古代オリンピックでは最初の勝利者となったとされている。
予言の神としての性格もかなり強く、デルフォイ(※アポロンの神殿)の神託は最も重要とされる。
彼の子供には、コロニスとの子・医術の神である蛇遣い座アスクレピオス。芸術の女神(ミューズ)の一人・叙事詩を司るカリオペの子(または天文学を司るウラニアの子)のオルフェウスなどがいる。
アスクレピオスが父・ゼウスによって命を奪われた時、彼は怒りが収まらずに雷を作る巨人キュプロクス達に矢の雨を降らして全滅させた事がある。それにより彼は罰を受け、ペライの王アドメトスに1年間仕えることを命じられ、結婚の世話や命を助けたりなどをした。
オルフェウスに譲ったとされる竪琴は元々彼の弟にあたるヘルメスが産まれてすぐに作った物で、彼が飼っていた牛の群を盗み出し、亀の甲羅にその(盗んだ)牛の腸の筋を張って発明したものである。翌日、彼は彼らの父・ゼウスの仕業を訴えたので牛は返される事になったが、ヘルメスの作っていた竪琴の音色が大変気に入ったため、竪琴と(返ってくるはずだった全ての)牛を交換して丸く収まった。
また、その後ヘルメスが葦笛を発明した際にはこれも気に入り、ヘルメスに牛追い用の黄金の杖(人を眠らせる事が出来る魔法の杖)を与え、さらに小石による占いの術を教えて葦笛も手に入れている。このような事があり、この二人は仲が良くなったとされている。

・ウリエル (Uriel)

四大天使の一人で、地の元素(エレメント)を司る大天使。すなわち七大天使(御前天使)の一人。
称号は『神の炎』で、シンボルはの剣、楯。太陽の運行と人の魂の守護を役職とする。
大天使(または熾天使)であるが、の剣をシンボルとしているためか、しばしばエデンの門を護る智天使と混同されるらしい。
最後の審判においては、偶像崇拝者たちを神の審判の場に引き連れていくこと。生前に善行を行った死者たちに魂を吹き込んで復活させること。悪行を行った死者たちを地獄で拷問にかけることなどをその役割としている。
その役職からか、神の意志のまま厳正に実行する恐ろしい天使といった印象が強い。
だが、エデンの園への侵入をもくろむサタンが身分の低い天使の姿で彼の元へ訪れた時には、訊ねられた事を教えながらも不信感を抱き、その行動を監視し堕天使だと看破したとミルトンの『失楽園』には書かれている。その時、サタンを阻止するべく、エデンの園の東門で野営していたガブリエル率いる守護天使の一団の元へ“一条の光芒に乗って滑るように颯爽と”訪問したらしい。
『エノク書』の記述によると、「世界とタルタロス(雷鳴と地震)を見守る」とある。すなわち、彼は宇宙の運行と地球の気象(さらに、季節、年月)を司っているという事である。
また、同じく『エノク書』で神にヴレヴェイルと呼ばれ、神のあらゆる事績を記録することに優れていると紹介されている。そして神に命じられた通りにエノクに30日の間様々なことを語り聞かせ、その後、30日の倍の間(つまり60日)をかけて(360冊の本にして)正確に書き写させた。
四大天使としては、方位は南、霊力は感受、美徳は堅忍を振り当てられ、炎の天使および、9月を暦通りに正しく運行させる職務に就いているほか、一説では熾天使セラフィムの指揮官とも言われる。
745年のローマ教会会議では、民間で加熱し過ぎた天使信仰を押さえるため、彼でさえも堕天使の汚名を着せられた。その後復権するも、天使としてではなく聖人としてであったらしい。ちなみに聖ウリエルのシンボルは、開いた手の上に乗せられた炎。 彼が「人間たちの中で暮らすために地上へ降り、ヤコブという名で呼ばれる」と語ったという記述が『ヨセフの祈り』に存在し、このことから彼は記録の中で初めて天使から人間になった者と解釈されている。

・オルトロス (Orthros)

ギリシャ神話に登場する三頭の魔犬。世界の果ての島エリュティアに棲む怪物ゲリュオンが飼う。
子牛のように大きく獅子よりも獰猛で、ゲリュオンの飼う牛の番犬をしていた。
テュポンとエキドナの子が、ベレロフォンに退治されたキマイラを除いて、ことごとくヘラクレスに敗北しているように、彼も同じくヘラクレスに退治されている。
また、母・エキドナとの間にスフィンクスなどの子供をもうけた。

・オルフェウス (Orpheus)

ギリシャ神話の神(または半神)で、太陽神アポロンと芸術の女神(ミューズ)の一人・叙事詩を司るカリオペの子。同じく芸術の女神(ミューズ)の一人・天文学を司るウラニアを母とする説や、人間のオイアグロスを父とする説もある。
父・アポロンから竪琴を譲り受け、竪琴の名手となった。竪琴に合わせて歌うその歌は、鳥獣や草木をもひきつけたという。
美しいニンフの1人、エウリュディケを妻とするが、その妻が毒蛇を踏んで死んでしまい、彼女を取り戻しに冥界へと向かう話は有名である。竪琴の音で地獄の番犬・ケルベロスを眠らし、ついには冥王ハデスやその妻・ペルセフォネの心さえ動かした。
ただし、妻を返してもらうには「地上に出るまでは後ろを振り返ってはならない」という条件があり、地上の光が見えたところで思わず振り返ってしまったので結局取り戻すことは出来なかった。
その後、妻を失って悲嘆に暮れる彼は女性を遠ざけ、それ故に女たちの恨みを買ったため、ディオニュソス(バッカス)の儀式の時に狂乱した彼女たちに八つ裂きにされ、首と竪琴をヘブロス川へ投げ込まれた。そして、死者となった彼は冥界で再びエウリュディケと再会したという。
女たちの手で川へ投げ込まれた琴は、彼の祖父にあたる全能神ゼウスの手によって天空へと上げられ琴座となった。

・ガブリエル (Gabriel)

四大天使の一人で、水の元素(エレメント)を司る大天使。すなわち七大天使(御前天使)の一人。
智天使であるという説もある(つまり大天使智天使熾天使のいずれか、またはいずれにも所属しているということになる)。
称号は『神は我が力なり』で、シンボルは百合の花。『トビト書』において神の玉座の左に位置を占めるとされているが、昔のユダヤの習慣では主人の左に座を占めるのは女性ということになっていたため、大天使の中で唯一女性だと言われている。
聖母マリアの元へ訪れた『受胎告知の天使』として有名で、このことも女性とされる理由の一つであるという。それというのも、この時代では女性の部屋に異性が訪れるということは常識では考えられないことであり、にもかかわらず次第にマリアが打ち解けて会話が出来るようになったからだとされる。
『受胎告知の天使』の他にも、『復活の天使』『慈悲の天使』『復讐の天使』『死の天使』『黙示の天使』『真理の天使』『エデンの園の統治者』などのような様々な別名がある。
『エノク書』の記述によると、「蛇と(エデンの)園とケルビムを見守る」とある。すなわち、地上の楽園の守護者だとされている。
天使長・ミカエルと並び、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教においては非常に重要な天使で、イスラム教の聖典『コーラン』ではジブリールの名で登場する。
また、モーゼを埋葬した天使の一人でもあり、最後の審判の際、最後にラッパを吹く天使とされている。ヤコブ(イスラエル)と格闘した天使の候補の一人。
シンボルである百合の花のほか、『正義と真理』を象徴する剣を持つ姿で描かれる場合もある。
四大天使としては、方位は北、霊力は想像、美徳は節制を振り当てられ、炎の天使、創造の天使、光の天使、月の天使、神秘の天使、楽園の天使、死の天使(※若者の生命を司り、黄泉の国の守護者でもある)など数々の職務に就いている。
1月を暦通りに正しく運行させる職務のほか、月曜日の主任天使(同時に副天使も兼任)でもあり、天使エンジェルス(および、一説ではその他に熾天使セラフィム)の指揮官、智天使ケルビムの支配者、第一天シャマインを支配する天使である。
『創世記』の記述には特定されていないものの、ユダヤ教ではソドムとゴモラの街を滅ぼしたのはこの天使だとしている。
神からローマを滅ぼす命を受けた時にこれを拒否し、サボタージュしたことから恩寵を失ったとされ、この間の代行をドビエルが務めたという逸話もある。

・キマイラ (Chimera)

ギリシャ神話に登場する怪物で、テュポンとエキドナの子。天馬ペガサスに跨るベレロフォンに退治された。
獅子と牡山羊と、ドラゴンの首を持つ怪物で、蛇の尻尾を持っているともいわれている。
ヘラクレスに退治されたネメアのライオンやヒュドラ魔犬オルトロス、同じくヘラクレスに黄金のリンゴを盗まれたラドン、さらにヘラクレスに捕らえられた地獄の番犬・ケルベロスは兄弟に当たる。

・ケルバロス(ケルベロス) (Cerberos、Kerberos)

ギリシャ神話に登場する、冥府への入口を護る番犬。
三つの頭を持ち、蛇の尾、または首や胴体から何匹もの蛇が頭をもたげる姿で表されるのが一般的である。
このケルベロスを生け捕りにせよとの命令を受けたヘラクレスが、「武器を使わずに捕獲する」という条件付きで冥王ハデスから許可を貰い、彼に捕らえられた。
その後、飼う者もいなかったため無事に冥界へ返されたらしい。
テュポンとエキドナの子で、ヘラクレスに退治されたネメアのライオンとヒュドラ魔犬オルトロス、同じくヘラクレスに黄金のリンゴを盗まれたラドン、ベレロフォンに退治されたキマイラは兄弟に当たる。ヘラクレスに退治されなかったのは、兄弟の中では彼と、黄金のリンゴを盗まれただけのラドンだけだと思われる。

・玄武 (げんぶ、げんむ)

中国の四神の一つで、北方を守護する水(四大元素(エレメント)では地といわれる)の四聖獣。
季節は冬、色は黒を司る。亀、もしくは亀に蛇が巻きついた姿で表される。
また、二十八宿のうち北方七宿(斗(ひきつ)・牛(いなみ)・女(うるき)・虚(とみて)・危(うるみや)・室(はつい)・壁(なまめ))の総称でもある。

・ゴルゴン(の三姉妹(−しまい) (Gorgon)

ギリシャ神話に登場する、怪物の三姉妹・ステンノー、エウリュアレー、メドゥーサのこと。
一筋一筋が無数の生きた蛇である髪、イノシシの牙のような歯、黄金の翼を持ち、その目は姿を見たものを石と化す力がある。
姉の二人は不死だったが妹のメドゥーサだけは可死であったため、ペルセウスによって倒された。
メドゥーサが死ぬ時に流した血から、天馬・ペガサスと英雄・クリュサオルが生まれた。
メドゥーサは元は大変な美少女で、海神・ポセイドンの愛を受けたためポセイドンの妻が憎み、または容姿と髪の美しさを自慢していたので(その競争に負けたともいわれる)アテナの怒りを買い、醜い姿に変えられたという。
ポルキュスとケトの子で、ケルベロスたちの母であるエキドナや、ペルセウスに三姉妹の居場所を教えたグライアイの三老婆とは姉妹に当たる。

・座天使スローンズ(単数ではソロネ) (ざてんし−(Thrones(Throne)))

偽ディオニュシオスによる天使の九階級でいう上級三隊の第3位、すなわち3番目の軍団。
『神の玉座を運ぶ尊厳と正義の天使』または『意思の支配者』とされる。
複数形のスローンズ(Thrones)がソロウンズ、またはトロウンズと発音されることがあるほか、オファニム(Ofanim)、ガルガリン(Galgalim=車輪、瞳)などという別名がある。
シンボルは“火車”。『神の玉座を運ぶ』という役目のため智天使ケルビムと混同されることもあるが、智天使は役職上の神の玉座、座天使は戦車(実戦的な役目も担う)を運ぶ者であると区別されているらしい。
また、智天使が駆る戦車の車輪(または戦車そのもの)であるという説もある。
この指揮官はヤフキエル、もしくはラファエルといわれている。

・サリエル (Sariel)

大天使の候補の一人で、すなわち七大天使(御前天使)であるとされる一人。
称号は『神の命令』で、シンボルは鍵。人間の霊魂を見守る事を役割としている。
彼もまたスリエル、サラカエル、ゼラキエル(ザラキエル)という別名を持つ。
『エノク書』の記述では「霊魂を罪に誘う人の子らの霊魂を見守る」存在だと紹介されており、すなわち霊魂が罪を犯さないように見張る天使であるとされている。
また、同じく『エノク書』によると、月の運行に関する知識を人間に与えた堕天使であるとされている。
さらに邪視(邪眼)と関係が深いとされ、彼の名が記された護符を持っているとこれから逃れる事が出来るという俗信があったようである。
これは彼が非常に神聖な力を持っているために退けるのか、あるいは彼が邪視そのものを司るのかは不明らしい。
月とも関係が深く、それによって魔術と結びつけられる事で余計に堕天使のイメージが強くなったようである。
その職務から、彼を『死の天使』の一人に数える事がしばしばあるという。

・三大天使 (−だいてんし)

『旧約聖書』にその名が出てくるミカエルガブリエル、カトリックの聖典である『トビト書』に登場するラファエルの3天使を指す。
745年のローマ教会会議では、民間で加熱し過ぎた天使信仰を押さえるために彼ら以外の天使たちは全て堕天使とされ、否定された(同じ四大天使であるウリエルでさえ堕天使の汚名を着せられている)。

・四大天使 (−だいてんし)

四大元素(エレメント)を司り、七大天使(御前天使)であることが間違いないといわれる最も有名な大天使たち。
世界中に名が知られ、ユダヤ教、キリスト教ともに共通しているミカエルガブリエルラファエルウリエルの4天使を指す。また、『旧約聖書』にその名が出てくるミカエルガブリエル、カトリックの聖典である『トビト書』に登場するラファエルの3天使を指して三大天使とすることもある。
彼らは総じて熾天使セラフィムだという説もある(ラファエル熾天使と同じ6枚の翼を持っていると明記されているらしい)。
四大の天使、方位の天使とも呼ばれる。彼らに振り当てられた元素、方位、霊力、美徳は以下の通り。

ミカエルガブリエルラファエルウリエル
元素
方位西
霊力知性想像理性感受
美徳慎重節制正義堅忍


・熾天使セラフィム(単数ではセラフ) (してんし−(Seraphim(Seraph)))

偽ディオニュシオスによる天使の九階級でいう上級三隊・第1位の軍団。「燃える」「蛇」というヘブライ語源を持ち、神に最も近いとされる。
キリスト教では三対(※6枚)の翼を持ち、一対で顔を覆い、もう一対で足を隠し、残りの一対で飛翔するとされている。さらに、互いに呼び交わしてサンクトゥス(※聖なるかな、聖なるかな……)を唱えているらしい。
古い時代では、顔の周囲を翼で覆い、その羽の1枚1枚に孔雀のような目が描かれていたようである。
この指揮官は諸説あるが、ルシフェルが堕天する前は彼が務めていたとされ、以後は、ウリエル、メタトロン、ケムエル、ナタナエル、ガブリエルなどが務めているとされる。

・朱雀 (すざく、しゅざく)

中国の四神の一つで、南方を守護する火の四聖獣。鳳凰(ほうおう)と呼ばれる場合もある。
季節は夏、色は朱を司る。神鳥の姿で表される。
また、二十八宿のうち南方七宿(井(ちちり)・鬼(たまほめ)・柳(ぬりこ)・星(ほとほり)・張(ちりこ)・翼(たすき)・軫(みつかけ))の総称でもある。

・青龍 (せいりゅう)

中国の四神の一つで、東方を守護する木(四大元素(エレメント)では水といわれる)の四聖獣。
蒼龍(そうりゅう)と呼ばれる場合もある。季節は春、色は青を司る。神龍の姿で表される。
また、二十八宿のうち東方七宿(角(すぼし)・亢(あみぼし)(とも)・房(そい)・心(なかご)・尾(あしたれ)・箕(みぼし))の総称でもある。

・ゼウス (Zeus)

ギリシャ神話のオリンポス12神の一人で、気象を支配する全能神。ローマ神話ではユピテル(Jupiter、英名では綴りが同じでジュピター)で知られる。父・クロノスを倒した後、その支配権をポセイドンハデスの三兄弟で分け合い、彼は天空の支配権を手に入れ、全ての神々の頂点に立った。
正妻は実の姉に当たるヘラだが、様々な女性と関係し、子をもうける。その度にヘラは嫉妬に狂い、女たちとその子供を迫害し、執念深く復讐した。
正妻・ヘラとの間には、戦神アレス、争いの女神エリス、青春の女神ヘベ、火の神ヘファイストス、出産の女神エイレイテュイアがいる。
また、彼の子供は有名な者だけでも、ティタン神族のレトとの間にに生まれた双子の太陽神アポロンと狩猟と月の女神アルテミス。メティス(思慮)とのアテナ。アトラスの娘であるマイヤの子のヘルメス
英雄として名を馳せた者では、テーベの将軍の妻・アルクメネの子のヘラクレス、アルゴス王女ダナエの子のペルセウスなどがいる。

・大天使アークエンジェルス (だいてんし−(Archangels))

天使の中で最も知名度が高く権力・実力共にトップを誇るが、偽ディオニュシオスによる天使の九階級でいうと下級三隊の第2位、すなわち8番目の軍団。
実際には参謀本部の性格を持ち、上級あるいは中級三隊の指揮官や指導を務める。
大天使の数は7人であるといわれることから七大天使、または神と同席する事を許されている為、御前天使とも呼ばれる。さらに最後の審判の際にラッパを吹く天使が7人であることから、この役目は七大天使のものではないかと考えられている。
旧来の階級分類ではもっとも位の高い天使の称号であった『大天使』であるが、中世に偽ディオニュシオスという人物が作ったといわれる『大天使』を8番目の階級に当てはめた階級論がキリスト教で最も支持され、彼らの地位が下がったらしい。それにより、大天使の階級には矛盾が数多く存在するようになったといわれている。また、『大天使(Archangels)』という階級と、偉大なる天使という意味の『大天使(英訳するとThe Great Angels?)』の二つがあり、両者は別物だと考える説もある。
構成している天使についても諸説があるが、ユダヤ教、キリスト教ともに共通しているミカエルガブリエルラファエルウリエルの4天使は確定とされている。他3人の候補は意見が分かれるものの、ラグエルレミエルサリエル、メタトロン、カマエル、ハニエル、サラカエルなどが有力視されている。
彼ら栄光の7人の中でも最高の実力を持つ大天使ミカエルが総司令官を務め、最高の地位にあるというのが通説である。
『エノク書』における七大天使は以下の通り。
世界とタルタロス(雷鳴と地震)を見守るウリエル
人間の霊魂を見守るラファエル
世界と光(日月星辰)に復讐するラグエル
人類の中で優秀な部分、(神の選)民を委ねられているミカエル
霊魂を罪に誘う人の子らの霊魂を見守るサラカエル(サリエル)
蛇と(エデンの)園とケルビムを見守るガブリエル
(※ギリシャ語の写本では)神が復活した者たちを司らされたレミエル

・タルタロス (Tartaros)

ギリシャ神話の奈落の神で、奈落そのものであるとされる。
主に地下の最奥にあるとされている仕置きの地として知られる。地獄とも訳される。
冥府よりも下にあり、ティタン神族がオリュンポス神族との戦いに敗れてここに幽閉され、タンタロスなどの罪人が落とされた。
四大天使の一人、大天使ウリエルがこの場所を取り仕切っているらしい。

・智天使ケルビム(単数ではケルブ) (ちてんし−(Cherubim(Cherub)))

偽ディオニュシオスによる天使の九階級でいう上級三隊・第2位の軍団。
ヘブライ語で「知識」または「仲裁する者」という意味がある。
聖書ではエデンの園の東門で『あらゆる方向に向かう炎の剣(※稲妻のことらしい)を武器として(生命の樹の)護衛を務めるとされている。
古い時代では、4枚の翼を持ち、腕や顔が4つあり、光り輝くその足元には車輪があるとされていた。それがいつの頃からか、一般にキューピッドとして知られる小さな翼を持つ赤子の姿で描かれるようになったらしい。
足元にあるとされる車輪は太陽の運行と関係があり、また神の御座を運んだり、神の戦車を駆ける役目があるという。
この指揮官はヨフィエルで、大天使ガブリエルが支配している(※おそらく指導者という意味)とされている。

・堕天使 (だてんし(Fallen Angel))

天使でありながら神に背反し天界を追放された者たちで、その成れの果てが悪魔だといわれる。
その理由は様々だが、最も有名なものは、天使の3分の1を率いて神に反逆したルシフェルが挙げられる。
彼が反逆したとされる理由は2つ伝えられており、1つは最高の権力を与えられていたために傲り、自ら神になろうとしたというもの。もう1つは神が寵愛を注ぎ、天使以上の優遇を与えようとした人間に嫉妬したというものとがある。
かくして地獄へ堕ちた彼はサタンと呼ばれ、堕天使たちを統べる君主となったのは有名な話である。
堕天した天使たちは、かつての霊質は失われて物質化した肉体を持つという。

・トール (Thor)

北欧神話の雷神。豊穣神でもある。
どんな敵でも一撃で倒し、遠くへ投げても必ず手元へ戻る魔法の槌・ミョルニルを持ち、北欧の神々、巨人たちの中でも一番強いといわれている。
その反面性格は優しく、心を込めて謝ればたいていの事は許してくれるという。
また、もともとの主神はオーディンではなく、トールだったともいわれている。

三太子 (なた、なた−たいし)

中国神話の神だが、元々はインドの神らしい。
封神演義ではとよばれ、魂魄(こんぱく)のない人造人間として描かれている。三つの顔と八本の腕を備え不老不死。さらに数々の宝貝(パオペイ)を持つ。戦闘能力は絶大で、封神演義の人物中でもトップクラス。
また西遊記にも登場するが、封神演義とは違い孫 悟空に敗れる。こちらでは三太子、あるいは太子と呼ばれる。広く知られているナタクは誤読から発生したものらしい。

・ネレイス (Nereids)

ギリシャ神話に登場する海の妖精(ニンフ)。妖精の中ではもっとも女神に近い存在とされる。
また、泉・河に住むナイアス、山・洞窟に住むオレイアスといった妖精と同じように永遠の命を持つとされる。
海の老人の一人ネレウスとオケアノス(※古い海の神)の娘ドリスの間に生まれた50人の娘たち。
その中にはポセイドンの妻であるアンフィトリテや、一つ目の巨人ポリュぺモスの妻といわれるガラテアなどがいる。

・能天使パワーズ (のうてんし−(Powers))

偽ディオニュシオスによる天使の九階級でいう中級三隊・第3位の軍団。神により最初に作られたとされる。
別名をデュナミス(Dynamis)、ポテンティアティス(Potentates)という。
彼らは地獄に落とされた堕天使の軍勢の最前線に陣取り、戦う任務を負っている。
常に悪の誘惑に身をさらされていることから、この階級の天使たちは堕天使になる事が多いらしい。
事実、彼ら能天使の間から最大の離反者が出たそうである。
司令官はカマエルだが、彼もまた堕天使であるといわれる。また、この軍団の指導者は大天使ラファエル

・ハデス (Hades)

ギリシャ神話に登場する、説によってはオリンポス12神の一人(※ヘスティアに代わって入れられる事がある)で、冥界の王。ローマ神話ではプルトン(Pluto、英名では綴りが同じでプルート)で知られる。
父・クロノスを倒した後、その支配権をゼウスポセイドンの三兄弟で分け合い、彼は地底(冥府)の支配権を手に入れた。それ以後、滅多に支配地域(冥府)からは出なかったらしい。
デメテルの愛娘・ペルセフォネが花畑で花を摘んでいる所をさらって冥府に連れて行き、后とする。

・ヒュドラ (hydra)

ギリシャ神話に登場する、潰されても次々と生えてくる複数の首を持つ海蛇。
レルネの沼に棲み、英雄・ヘラクレスに退治された。
テュポンとエキドナの子で、同じくヘラクレスに退治されたネメアのライオンと魔犬オルトロス、黄金のリンゴを盗まれたラドン、捕らえられた地獄の番犬・ケルベロスベレロフォンに退治されたキマイラは兄弟に当たる。

・白虎 (びゃっこ)

中国の四神の一つで、西方を守護する金(四大元素(エレメント)では風といわれる)の四聖獣。
季節は秋、色は白を司る。白い虎の姿で表される。
また、二十八宿のうち西方七宿(奎(とかき)・婁(たたら)・胃(こきえ)・昴(すばる)・畢(あめふり)・参(からすき)・觜(とろき))の総称でもある。

・ペガサス (Pegasus)

ギリシャ神話に登場する翼を持つ不死の白馬で、ゴルゴンの三姉妹の末妹メドゥーサ海神・ポセイドンの子。ラテン語ではペガスス(pegasus)となる。
母・メドゥーサペルセウスによって首を切られた時にその血から誕生。その直後、ペルセウスを背に乗せて飛んだ(または、ヘルメスに貰った翼の付いたサンダルでペルセウスが自ら飛んだ)ともいわれ、全能神ゼウスに献上された。
後にキマイラ退治のためにアテナから兄に当たるベレロフォンの手に渡り、彼の様々な英雄譚の手助けをする。

・ヘラクレス (Herakles)

ギリシャ神話の英雄の一人で、全能神ゼウスとテーベの将軍の妻・アルクメネの子。ローマ神話ではヘルクレス(Herclues、英名では綴りが同じでハーキュリーズ、ちなみに仏名だとエルキュール(Hercule)らしい)。
そのためゼウスの妻であるヘラの嫉妬を買い、生まれて間もない頃に揺りかごへ送り込まれた2匹の蛇を絞め殺した。
その後、立派な若者に成長し、ライオンを素手で退治する。この手柄を記念して、ライオンの皮を身にまとい、その頭を兜にした。
また、毎年テーベに貢ぎ物を要求していたオルコメノス王を倒し、その褒美としてテーベ王から王女を妻に与えられた。
だが、ヘラの嫉妬によって一時期狂気に陥り、妻と子供たちを殺害してしまう。
正気にかえって絶望したヘラクレスは、アポロンに神託をうかがった。
そしてその神託通りに、ヘラにそそのかされた従兄弟のミュケナイ王の元で12年間仕え、怪物退治などの12の功業を成し遂げた。
その主なものには、テュポンとエキドナの子のネメアのライオン、ヒュドラの退治や、同じくその兄弟であるラドンが見張っている黄金のリンゴの入手、さらに地獄の番犬・ケルベロスの捕獲などがある。
テュポンとエキドナの子は、ベレロフォンに退治されたキマイラを除いて、ことごとく彼に因縁がある。

・ペルセウス (Perseus)

ギリシャ神話の英雄の一人で、全能神ゼウスとアルゴス王女ダナエの子。
ゴルゴンの三姉妹の末妹メドゥーサを、戦いと知恵の女神・アテナ伝令神ヘルメスの協力を得て倒した。
海魔を鎮める生贄にされそうになっていたエチオピア王女アンドロメダを救い、妻とする。

・ヘルメス (Hermes)

ギリシャ神話のオリンポス12神の一人。
伝令の神で、ローマ神話ではメルクリウス(Mercurius、英名・マーキュリー(Mercury))で知られる。
全能神ゼウスとティタン神族のアトラスの娘である繁殖や成長を司る春の女神マイアの子。
産まれてすぐに揺りかごから抜け出し、兄・アポロンが飼っていた牛の群に足跡を消すための草鞋(わらじ)を履かせて盗み出し、亀の甲羅に盗んだ牛の腸の筋を張って竪琴を発明した。
この時、盗んだ牛は50頭であり、その内の2頭(または琴を作るための1頭)を殺して食べ、さらに琴に使用した亀は、通りがかったものを捕らえて甲羅を剥がし、残った肉はやはり食べたという説がある。
翌日、ヘルメスはアポロンによって彼らの父・ゼウスに訴えられ、その命令により牛を返すことになったが、彼の作った竪琴の音色をアポロンが大変気に入ったため、竪琴と牛を交換して丸く収まった。
その後、彼が葦笛を発明した際にもアポロンはこれを気に入り、彼に牛追い用の黄金の杖(ケリュケイオン)(※人を眠らせる事が出来る魔法の杖)を与え、さらに小石による占いの術を教えてこれも手に入れている。
このような事があり、この二人は仲が良くなったらしい。この一連の話の中で、彼は牧畜の神の座をアポロンから譲られたとされている。
才能が認められた彼はゼウスの使者として神々の伝令役を、また冥府の王でありゼウスの兄でもあるハデスとペルセフォネの使者として、死者の魂を冥府へ導く任務が与えられた。
さらにアポロンから譲られた牧畜を司り、商業神、旅人の守護神、泥棒の庇護者でもあるという。
伝令神としては、イオの見張りをしていた百眼の怪物アルゴスを倒したり、美の誉れを競ったヘラ、アテナ、アフロディーテの3女神をイダ山のパリスのもとへ案内するなど、数々の働きをしたことが伝えられている。
前5世紀以降では、翼のついたつばの広い帽子(ペタソス)を被り、手には黄金の杖(ケリュケイオン)を持ち、翼のある靴を履いた裸の美声年として描かれる事が多いようである。

・ベレロフォン (Bellerophone)

ギリシャ神話に登場する英雄で、海神・ポセイドンの子の一人。
戦いと知恵の女神・アテナから譲られた弟に当たる天馬・ペガサスに跨り、キマイラを始め様々な怪物を退治した。
後に、何でも出来るという錯覚を起こして神になろうと慢心し、叔父でもある全能神ゼウスの怒りに触れ、ペガサスから落馬し大地に叩きつけられた。

・ポセイドン (Poseidon)

ギリシャ神話のオリンポス12神の一人で、海の王。ローマ神話ではネプトゥヌス(Neptunus、英名・ネプチューン(Neptune))で知られる。父・クロノスを倒した後、父の支配権をゼウスハデスの三兄弟で分け合い、彼は海の支配権を手に入れた。
とはいえ、泉など水全般を司り、かつ地震の神でもある。彼のシンボルとして知られる三叉の鉾(ほこ)は、一振りすれば大海が波立ち、大地に突き立てればその大地が揺れるほどの威力を持つ。
妻はネレイスの一人であるアンフィトリテで、彼女との間に上半身が人間、下半身が魚のトリトンを始めとする子供たちをもうける。他に、美少女だった頃のメドゥーサとの間に天馬・ペガサスと英雄・クリュサオルが、彼の姉にあたるデメテルとの間には黒い鬣の馬・アリオンと、秘密の名前の女神デスポイナがいる。
また、キマイラ退治をした英雄・ベレロフォンも彼の子の一人。
姪に当たるアテナとアテナイの土地の所有権を争い、負けたことがある。

・ミカエル (Michael)

四大天使の一人で、火の元素(エレメント)を司る大天使。すなわち七大天使(御前天使)の一人。
称号は『神の如き(者)』で、シンボルは鞘から抜かれた剣、秤。神の片腕的存在で、天使軍団の最高指揮官(天使長といわれる)を務める。神が最初に作った天使とされ、太陽の化身ともいわれる。
彼は元々オリエントのカルデア人たちの神だったとされ、人々の間で人気も高い。
したがって『力天使ヴァーチューズの指導者』『大天使アークエンジェルズの指導者』『神の御前のプリンス』『慈悲の天使』『正義の天使』『聖別の天使』など、数多くの称号を持つ。
『エノク書』の記述によると、「人類の中で最優秀な部分、(すなわち神の選)民を委ねられている」とある。神の選民を委ねられているとされる天使。
最後の審判ではラッパを吹くのはもちろんのこと、人間の魂を天秤に掛け、天国行きか地獄行きかを決める役割を持つといわれる。その際には人間の弁護人になるらしい。
ガブリエルと同様に、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教においても非常に重要な天使で、イスラム教の聖典『コーラン』ではミカイールの名で登場し、キリスト教においては最も偉大な天使とされる。
また、『エノク書』に記載された平和の天使による紹介によると、彼は滅多に怒らない人物らしい。
その他、かつて天使長の任に就いていた堕天使ルシフェル(ルシファー、サタン)は彼の双子の兄であったといわれている。これにより、双子の兄ルシフェルが12枚の光り輝く翼を持っているといわれている事から、見分けがつかないほどに似ているとされる彼も同じく12枚の翼を持っているのではないかと推測される。
類い希な武勇の持ち主で、その中にはサタンとの一騎打ちも入る。その様は名だたる剣士の一騎打ちであり、両軍の兵は凄まじい殺気にその戦いを中断し、彼らのために大きく場所を空けたという。剣技は全くの互角に見えたが、彼の武器は『神の武器庫』からもたらされた“どんな硬い剣をも一刀両断にする”という名剣だったため、サタンの剣を真っ二つに切断し、再度振りかぶって右の脇腹を深く抉った。一説によれば黄金色に輝いているといわれるその剣が、後に彼自身の象徴ともなる『鞘から抜かれた剣』である。
サタンを倒した功績により、彼が熾天使に昇格したという説がある(彼が所属しているとされるのは、大天使力天使熾天使の三階級)。
四大天使としては、方位は東、霊力は知性、美徳は慎重を振り当てられ、イスラエルの守護天使、創造の天使、楽園の天使など数々の職務に就いている。
水曜日の主任天使、日曜日の副天使のほか、力天使ヴァーチューズの指揮官であり、大天使アークエンジェルズの総司令官、第四天マコノムを支配する天使。
さらに、ヤコブ(イスラエル)と格闘した天使の最有力候補は彼だとされている。
キリスト教では天使長ミカエルと天使たちを9月29日に祝う(ミカエルマス)。

・ラグエル (Raguel)

大天使の候補の一人で、すなわち七大天使(御前天使)であるとされる一人。
称号は『神の友』で、天使の善行を監視するのが役割といわれている。
ラグイル、ラスイル、ルファイル、アクラシエルなど、数多くの別名を持つ。
与えられた称号は『神は我が光である』『地球の天使』というものの他、奇妙な訳例によれば『光の世界に復讐する』というものがある。
この「光の世界」とは天使たちの世界の事であり、「復讐」というのは「監視」を行う事であるという解釈が成されているらしい。
つまり、彼は内務監査官のような役割を持っていると考えられている天使である。
一種の魔女狩りである745年のローマ教会会議では、詳細は明確にされなかったものの、オリベルとトビエルという堕天使に唆され、“聖人になりすました”という罪状がつけられている。
彼はエノクを天に運んだ天使の一人であり、大地の天使、第二天ラキアの守護者であるともいわれる。
『エノク書』の記述では、彼は「世界と光(日月星辰)に復讐する」存在だと紹介され、通説では上記の『光の世界に復讐する』と同じ解釈が成されているようである。

・ラファエル (Raphael)

四大天使の一人で、風の元素(エレメント)を司る大天使。すなわち七大天使(御前天使)の一人。
称号は『神の熱』で、シンボルは炎の剣。人々への癒しを役割としている。
天使長・ミカエルと同様、元々はオリエントのカルデア人たちの神であったとされ、当時の名はラビエルといった。
彼もミカエルガブリエルと並んでもっとも有名な3人の天使の1人である。
別名も2人と同じく様々あり、『癒しをおこなう輝ける者(※つまり『癒しの天使』)』『人間の霊魂を見守る者』『太陽の統治者』『知識を司る者』『医者』『外科医』『(エデンの園にある)生命の樹の守護者』などが挙げられる。
こうした称号にも表れている通り、彼は人類の保護者として、とりわけ医学の知識に造詣が深い。
『創世記』では何者か(天使)とレスリングをして足を痛めたヤコブの傷を癒し、『トビト書』ではその知識を生かし、失明したトビトと悪魔に憑かれたその同族の娘サラが神に嘆願した2つの問題を一挙に解決した。『トビト書』での過程で、彼はアザリアと名乗る若者に姿を変え、トビトの使いで旅に出る息子トビヤに同行し、様々な助力をした。そのことから彼は若者や旅人・巡礼者の保護者ともいわれ、杖や水筒・箱などを持ちサンダルを履いた姿で描かれることがある。
彼は熾天使としての6枚の翼を持ち、一対の翼は肩から胸にかけて王者の肩掛けのように覆い被さり、中央の一対は腰から股にかけて多彩な色に輝く羽毛で覆われ、最後の一対は空のように青い羽毛で足から踵までを隠しているらしい。性格は天使の中で最も明るく快活で、任務に関しては厳格だといわれている。彼は、公式には力天使とする説が有力のようだが、さらに智天使、主天使、能天使に属するともいわれる(全て書き出してみると、彼が所属しているとされるのは、大天使、主天使、力天使能天使智天使熾天使の六階級にも及ぶ。これは天使と権天使を除いた、大部分の階級になる)。
『エノク書』の記述によると、彼は「人間の霊魂を見守る」存在だと紹介され、さらに「人の子らのいっさいの病と傷とを司る」と記載されている。つまり、彼は『人間の守護者』であり『人間の病や傷を治す』天使だということらしい。
また、ミルトンの『失楽園』では、サタンがエデンの園に侵入するおそれがあることを伝えるために神の命を受けてエデンの園に住むアダムとエヴァ(イヴ)を訪れる様子が美しく、荘厳に描写されている。それによると、まるで不死鳥の如く颯爽と飛翔し、翼を打ち振るった時には辺り一帯に芳香が漂ったそうである。
元素を司る四大天使としては、方位は西、霊力は理性、美徳は正義を振り当てられる。
さらに、創造の天使、愛の天使のほか、日曜日の主任天使、水曜日の副天使、力天使ヴァーチューズの指揮官、能天使パワーズの指導者も務め、第二天ラキアを支配する天使だともされている。座天使スローンズの指揮官も彼(またはヤフキエル)だとされる。

・力天使ヴァーチュズ (りきてんし−(Virtues))

偽ディオニュシオスによる天使の九階級でいう中級三隊・第2位の軍団。「高潔」を意味し、「光り輝く者、輝かしき者」として知られる。
彼らは恩寵と勇気を人々に授けるために「地上の奇跡」を司る。英雄を力づけ、また善を行う者の前に出現するという。
キリスト昇天の際に出現し、付き添ったのも彼らだといわれ、さらにカイン誕生の際に産婆の役目も務めたとされる。
能天使とともに宇宙の物理法則を保つことも行うらしい。
指揮官はミカエルラファエル、バービエル、ウジエル、ペリエルとされる。

・ルシフェル(ルシファー、サタン) (Lucifel、Lucifer、Satan)

かつては天使長を務めていたほどの偉大な熾天使であった堕天使
その名は『光を掲げる者』『曙の明星』を指し、常に光り輝く12枚の翼と輝かしいほどの美しい容姿を持つ。
知力においても神に一目置かれるほどであったが、神にもっとも愛されていたが故の傲慢(または嫉妬)のため天使の3分の1を率いて神に反逆し、堕天したとされる。
傲慢によって堕天した説の場合、彼は黄金に燦然と輝く神の座に自らが座ってもおかしくはないと考え剣を取ったとされる。
また、今まで彼が一身に受けていた恩寵が注がれ、さらには天使以上の優遇がなされようとしている人間に嫉妬し、同じくそれを快く思っていない同志や自らの崇拝者を合わせて(天使の)3分の1にも及ぶ軍団を作り上げ反逆したという説がある。
反逆戦争の際に彼と直接対決をしたミカエルとは双子の兄弟であり、見分けがつかないほどに似ているとされる(※中世の画家はルシファーのほうをやや浅黒く描写している)。
両者の戦いは、相手がいかに武に優れたミカエルであってもさすがに彼が劣ることなく剣技は互角であったが、ミカエルの武器が“どんなに硬い剣をも一刀両断にする”という業物であったために破れたようである。
この時、彼の剣を一刀両断したミカエルは、さらに目にも留まらぬ速さで剣を振りかぶり、彼の右の脇腹を深く抉った。これによって彼は初めて苦痛を知り、プライドを無惨なまでに打ち砕かれたのだという。
そして彼は奈落の底である地獄へ『反逆の天使』共々真っ逆様に堕とされ、長であった彼が地獄の君主となった。その際に“輝ける者”という意味の“エル”を外し、ルシファーと名乗るようになったと伝えられている。
サタンも彼の別名であるといわれるが、サタンとは堕天使たちが地獄にあって築いた(悪魔の)支配者(※悪魔王ともいわれる)たちを指すという説もある。
反逆した説のどちらが正しいのかは分からないが、いずれにせよ地獄の君主であるルシファーは『傲慢』を司る悪魔として知られ、さらにアダムとエヴァ(イヴ)を誘惑した蛇や、ミカエルと戦った年経た蛇(※すなわち竜(ドラゴン))も彼の事だといわれている。

・レミエル (Remiel)

大天使の候補の一人で、すなわち七大天使(御前天使)であるとされる一人。
称号は『神の慈悲』で、シンボルは雷霆。復活を待つ魂の管理を役割としている。
彼もまた幾つかの別名を持つが、中でもラミエル(Ramiel)という名が広く知られているようである。
『エノク書』の記述では「神が復活した者たちを司るもの」存在だと紹介されており、終末が訪れ『最後の審判』が成されるまで、土の中で『復活』を待つ死者たちの魂を管理する天使であるとされている。
また、彼は黙示による幻視を司っており、「真の幻影を支配する」天使とされている。
さらに雷を司り、非常に堕天使である可能性が高いといわれる。
ミルトンの『失楽園』では『背徳者のリーダー』とされ、悪魔軍団の“凶暴な”有力メンバーとして紹介されている。








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