医者のつく嘘(第2話)
婦長に中庭まで呼び出されお小言を食らった倫子は、いつもの元気もなくしょんぼりと項垂れている。 ソレを上から見ていた直江は婦長が去った後、倫子の元に向かった。 まだ落ち込んでいた倫子は目の前に紙袋を突き出されるまで直江に気が付かなかった。 不思議そうに直江を見やる。 「患者の家族に貰ったんだ。いらなかったら捨てればいい」 袋には蜜柑が溢れそうな程入っていた。 「そんなっ。ありがとうございます!」 河原でのこと覚えててくれたんだ。 最初はビックリしたけど本当はいいひと。なのかも! 倫子は用件は終わったとばかりに玄関へ向かう細身の後ろ姿をしばらくの間見つめていた。 家に着くなり倫子は紙袋をひっくり返した。 おいしそうに熟れているだろう蜜柑達に対する期待に胸を躍らせながら。 「って、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ…!!」 家が揺れそうな程の大声。 「だまされたぁ!!」 袋に入っていたのは3,4個の蜜柑。 ……あとは石だった。 どう考えても上げ底用のソレは河原に落ちているような丸っこい石。 しかもご丁寧に着色まで施してある。 今思うと袋は異様に細長く、上から見ると蜜柑が4つ縦にぎゅうぎゅうに押し込められる感じだ。 そう、下の石が見えないように、袋まで、特製なのである。 「あんの暇人ドクタァー!!」 イタズラに人生を掛ける男、直江庸介。 そのためには女の1人や2人簡単に切り捨てる男、直江庸介。 行け行け僕らの直江庸介。 世界は君を待っている。 |