#1

「どうしてすぐにドアを開けてくれないんです?2100時ジャストだったのに!」
「ああ・・・すまなかったな・・・」
「自分で命令しておいて、ヒドイですよ!」
僕はわざと膨れっ面をしてチャコティを睨む。

上陸任務中に起こった出来事で、途中でおあずけになってしまった
ふたりの時間・・・その次の機会を持つべくチャコティは僕に囁いたのだ。
『2100時ジャストに、私の部屋へ出頭!』
ってね・・・だから僕は・・・期待と不安の入り混じる抑えきれない胸の高鳴りを
すぐにでも受けとめてほしくって・・・部屋のドアを叩いたのに。

「僕、上官の命令には忠実なんですよね。」
こうなったら ちょっとイジワルな言い方したって構わないよね?
チャコティは僕の目を見つめることもせずに、フードレプリケータから取り出したコーヒーを、黙って差し出す。

「ハリー、あれから私は・・・考えていたんだ。」
「何をです?」
「・・・そう怒るなよ。」
チャコティは僕の頬を、手の甲を使って撫で上げる・・・

「上陸中には・・・その・・・思わず気持ちを顕わにしてしまったが・・・
艦の中で恋愛関係を結ぶのは・・・副長としては・・・どうなんだろうか・・・」
「・・・?!・・・どうゆうことですか、それ?」

任務中の恋愛に関しては否定的な意見がある事も、僕は知っている。
特に上級士官の場合、恋愛感情を持つ相手と組んだ任務の際に、
支障をきたす恐れを懸念する声が多数、あるという事実。

だけどそれは通常の状態でのことで、こんな宇宙の果てで・・・
現にヴォイジャーの中で恋愛関係にあるクルー同士なんて たくさんいるじゃないか。
ああ、だけど艦長と副長は別なのかもしれないな・・・
もしチャコティが『立場』を優先して、僕との関係に踏み出す事を恐れるならば
僕達はこれ以上、進まないほうが正解なのかもしれない・・・。

例え様のない、重苦しい時間が流れる部屋で、僕はショックを隠せなかった。
「・・・わかりました・・・チャコティ・・・副長。
だけど・・・少しでも僕を・・・想ってくださっているのなら・・・
暫くの間、僕に元気がなくても・・・許してくださいね・・・」
溢れ出しそうな涙を堪えて震える声で・・・微笑んで見せるなんて、できなかった。

チャコティは何も言わず、ただ頷いた・・・そのとき。
たった今まで穏やかだった艦が、大きく揺さぶられ、瞬間、非常警報が鳴り響いた。

僕達は部屋を飛び出しターボリフトへ乗り込んだ。ブリッジまで数秒たらず・・・の、はずだった・・・。
ガクン、と再び艦が揺れ、リフトの動きが停止した。

なんだってこんなことに・・・僕は壁のコンソールに手を伸ばしたが・・・
「・・・だめです、副長。ここからでは、これ以上の修復は・・・」
「そうか・・・」
チャコティはリフトの扉をこじ開けるべく制服の上着を脱いだ。
「・・・手伝います。」
僕も上着を脱ぎ、コミュニケーターをアンダーシャツに直に着け直した。

「キムよりブリッジ!ターボリフトが停止しました。これよりチューブを伝ってブリッジへ向います。」
コミュニケーターから返ってきたのはベラナ・トレスの声だった。
「了解!とにかく急いで!ヴィディア艦から攻撃を受けてるの!ドクターがペルと連絡をとってくれてるわ・・・」

「・・・ペル・・?」
「ダナラ・ペルよ!ヴィディア艦の!彼女と連絡が取れるまでは自分達でなんとかしなきゃならないのよ!急いで!」
ああ、前にドクターが助けたヴィディア人の彼女か・・・彼女なら確かに助けになってくれるだろう。
僕達は顔を見合わせ頷くと、チューブへと滑り込んだ。

#2

チャコティの後を追うように、狭いチューブの中を低い姿勢で移動しながら僕は不快な暑さを感じていた。
脱いだ上着はリフトの中に置いてきてしまったので滴り落ちる汗の雫がチューブの床を濡らす。
「・・・なんだか・・・暑くないですか?調整機能が・・・故障ですかね・・?」
「・・・ああ・・・異常だな・・・だがあと少しで抜けるぞ・・・」

あと少し、というところで、またもや艦内に爆音が響き通路内にバチバチと火花が走った。
音がおさまるのを待って振り返ると、たった今、僕達が移動してきた通路の屋根側がひしゃげたように潰れていた。
「・・・間一髪、でしたね・・・副長・・・」
と、言いかけた僕の目にうつったのは・・・

チャコティの前に続いていた通路の屋根が、後側と同様に潰れている異様な光景だった。
「・・・閉じ込められたみたいだぞ・・・ハリー・・・」
僕は慌てて胸のコミュニケーターを叩くが、応答がない。・・・かわりに
壁のコンソールパネルから、かなりの雑音とともにベラナの声が聞こえてきた。

「・・・ハリー?・・・聞こえる?チャコティ・・・一緒なの?!」
コミュニケーターで通信はできなくても、僕達の現在位置を確認することは出来たようだ。
「・・・ああ・・・一緒だよ!だけど、今の爆発で閉じ込められたみたいだ。」
「さっき、ペルと連絡が取れたの。攻撃は止めてもらえそうだけど!修復に時間がかかるわ!
暫くそのままで待機してて。必ず助けに行くから!」

「・・・了解・・・艦内温度の調整機能を早く修復してくれよ!暑くてたまらないんだ!」
「・・・あのね・・・先に・・・それから・・・」

何か優先して修復する箇所があるみたいだけど・・・耳を塞ぎたくなるよな雑音と共に
コンソールパネルから発せられていた唯一の繋がりは、途切れてしまった。
「・・・待つしか・・・ないみたいですね・・・副長・・・?」
「・・・ああ・・・」

チャコティは床に座りなおすと、トリコーダーを開いた。
「・・・ハリー、現在気温が・・・摂氏40℃。調整機能の修復に時間がかかるとすれば、
今より上がるだろうな・・・覚悟しておいたほうがいい・・・」
「よ・・・40℃?!」

はっきりと数値にしてしまうと、余計に暑さを感じてくる・・・
湿度は今は さほど高くはないが、時間の問題だろう・・・
上陸任務じゃあるまいし、補給の為の食糧や水なんか持っていない・・・
何時間後に救出されるかわからないけど、なんとか自力で耐えなきゃならないのか・・・

「こんな事になるなら・・・さっき、副長が勧めてくれたコーヒーを飲んでおくべきでした。」
チャコティは横目で僕を見て、唇の端を引き上げ、僅かばかりの笑顔を作る。

「・・・コミュニケーターの機能を復活させれば、転送してもらえるかもしれないぞ。」
トリコーダーをコミュニケーターに向けて何度か修理を試みたものの
時間が経つに連れ肝心のトリコーダー自体がイカレてきたらしい。

バチン、と小さく音をたてて、僕達のトリコーダーは光ひとつも発しなくなった。

#3

どのくらいの時間が流れたのだろうか。チャコティと僕は並んで座りほとんど話もせず
ただじっと、救出に備えて今ある体力の温存に努めていた。
本当は話したいことなら たくさんあった・・・いや、話しておくべき事が。

「・・・こうしてると、思い出しちゃいますね。」
「・・・う・・ん?・・・何をだ?」
「あの・・・洞窟での・・・ことですよ。」
僕にしては随分と思い切った発言だった。さっきフラレたばかりだっていうのに蒸し返すかのように。

「・・・でも副長・・・あのとき・・・僕に言ってくれた気持ちに・・・嘘はないんですよね・・・」
「・・・ああ・・・だが・・・不用意な発言でかえってハリーを傷つけた・・・」
「・・・そんな・・・不用意だったなんて・・・言わないで・・・ください・・・」

どうしてそんなことを言うの・・・今の言葉のほうが、よっぽど僕を傷つけてるよ、副長。
そう思ったら・・・泣くまいとすればするほど僕の目からは涙が溢れてくる。
「・・・ハリー・・・本当に・・・すまない・・・」
ふいに僕の髪を撫でたチャコティの手のひらを、払いのけるように僕は座る位置をずらした・・・
その瞬間、僕の胸の奥底から、もう絶えがたい感情が吹き出した・・・。

「そんなに・・・大事ですか?・・・艦隊での立場が・・・」
「・・なにを・・言い出すんだ、ハリー?」
「・・・僕への気持ちよりも、大事なんですか?だけど・・・地球に戻れば・・・副長だって・・・
元はマキのクルーじゃないか!それなのに・・・大切なのが自分の気持ちよりも立場だなんて・・・」

そこまで一気に言ってしまってから、僕はチャコティの目を見つめた・・・
哀しそうな瞳の色が、薄暗い通路内で僕を見つめ返していた・・・。
「・・・笑っちゃいますよ・・・軍法会議だって・・・避けられないかもしれないんですよ?!」
チャコティの手のひらが僕に向って伸びてきたように・・・感じた次の瞬間、頬に痛みが走った。

「・・・言いすぎだぞ・・・少尉・・・」
「・・・ずるいですよ副長!・・・部下に本音を言い当てられたら・・・殴るんですか?」
「・・・私は・・・マキであったからこそ・・・ここでは本音だけでは行動できない・・・
なぜ・・・わかってくれないんだ?!それともそんなこと、艦隊のボウヤの知ったことじゃないんだろうけどな?」
「そんな言い方・・・やっぱり・・・ずるいですよ副長は・・・」

暫くの沈黙のあと、打たれた頬を押えるふりで涙を隠す僕の左手を、チャコティの手のひらが、そっと包んだ。
「・・・そこまで・・・おまえがそこまで・・・言うのなら・・・私はもう・・・」
・・・包んだ手を力任せに引き寄せて、乱暴に重なる唇から押し出されたチャコティの舌先が
荒い吐息を伴って僕の涙をすくい取るように舐めあげた。

「・・・副長・・・?!なんで・・・?!」
「・・・ハリー・・・すまなかった・・・そこまで言わせるまで・・・私は・・・
本当は・・・私にも・・・さらけ出せる場所が・・・欲しいんだ・・・」
「・・・そんな・・・あんまり・・・勝手すぎますよ!今更・・・こーゆうの、職権乱用って言うんじゃないですか?!」
「・・・そう言われても・・・構わない・・・もう・・・構わないさ。」
言いあいながら唇をキスで塞がれて、僕は自分の体が暑く、熱く反応しはじめているのを知る。

#4

チャコティに促されるまま服を脱ぎ、肌を顕わにしてゆく自分。だけど僕はまだ・・・男の恋人をもった経験がなかった。
硬く反応した自身が下着を押し上げて、チャコティの手を待っている。
同じように反応したチャコティを、抱き合う形で腿に感じる。

・・・男同士だと・・・やっぱり僕が・・・これを・・・受け入れるんだろうな・・・
と、やけに冷静な自分が顔を出した瞬間、今まで感じたことのない例え様のない恐怖心が芽生えた。
「・・・副長・・・待って・・・待ってください・・」
「・・・待たない・・・」

確かに、器用なまでに足先で下着を脱がされ、反応しきった熱い塊を口元で弄ぶチャコティの
頭を押さえつけるような動きをしてしまうクセに『待ってください』は、ないよな・・・
だけど指先で強く根元を掴んでは放すのと同時に、吸い込まれそうな先端に感じる唇の粘膜に与えられる
止め処もない快感に、僕は我慢のきかない子供みたいに泣きじゃくりながら果てた。

「・・・待って・・・って・・言ったのに・・・」
「待たない、って言っただろ・・・ハリー、私を・・・受け入れてくれる・・・な?」
・・・小さく頷いてはみたけれど、やっぱり怖くて閉じる脚に力が入ってしまう。
「・・・ハリー、脚・・・開いて・・・」
「・・・だって・・・」

躊躇する僕の手を、自分の股間へと導くチャコティの言いなりに、僕はチャコティに触れた・・・
「・・・!!・・・無理だよ・・・ぉ・・・こんな・・・」
「ハリー、力、抜いて・・・大丈夫だから・・・任せて。」
「・・・本当?」

「上官の命令には忠実なんだろ?・・・少尉、力を抜いて、脚を開きなさい・・・」
上目遣いで僕を見て、こんなときに・・・やっぱりチャコティはずるいよ。
震えながら僕は、副長の命令通りに脚を開いた・・・そしてゆっくりと彼が僕の中へ入ってくるのを・・・

「・・・ん・・・ぁ・・・っ・・・やだ、やっぱり・・・無理です・・・ぅ・・・」
「・・・おとなしくして・・・力を・・・抜けって・・・」
チャコティはそう言うけど、僕には耐えられない!力任せにチャコティの胸を押して
僕から離れてもらおうとしたけれど、その願いは叶わなかった。
暴れた事で一気に奥まで貫かれた僕の、高く上げられていた腰は、急に感覚を無くしたように床に勢いよく落ちた。

その拍子に、体液で滑ったのかチャコティが僕の中から音をたてて抜けた。
「・・・や・・・やだ・・・もぉ・・・死んじゃうよ・・・ぉ・・・」
それでもチャコティは執拗に、僕のお腹に自分を擦るように充てて動くのを止めてはくれない。
「ご・・・ごめんなさ・・・ふくちょ・・・僕・・・」

「ハリー・・・もしかして・・・初めて・・・なのか・・?」
「僕・・・男の恋人って・・・いたことがないんです・・・だからもう少しだけ・・・待ってくだ・・・」
「そうか・・・それは悪かったな・・・だが私は・・・もう待たない。」

チャコティは感覚を無くしたはずの僕の腰を再び抱き上げ、肩の上まで両脚を持ち上げると
なんの躊躇いもなく今度は一息に奥深くまで自分を埋めた。
「・・・く・・・っ・・・」
苦しい・・・と、言葉にならない・・・唇だけが喘ぐように短い息を吐き出す。

二人の、息遣いと湿った肌の擦れあう音が、閉ざされたせまい空間を満たしていた・・・
快感と呼ぶには程遠い、これが僕の待ち望んでいたチャコティとの触れ合いなら辛すぎる。
だけど痛みは次第に愛しさが癒すものだと、そんな甘い夢を描きながら耐える苦しさに
僕の涙は恐怖心のそれからは次第に遠ざかり始めていた・・・ああ、僕はこの人を、愛している・・・

「ハリー?!チャコティ?!無事?!」
突然、脱ぎ散らかした服の下で壊れたはずのコミュニケーターから、雑音まじりの声が聞こえ
僕達は はっ、と現実に引き戻された。

「・・・この回線は一方通行なの!位置を特定したら転送するから!準備して待ってて!」
チャコティはその瞬間、舌打ちをしたように・・・僕には見えた。
体を離すと痛みは一気に引いて、僕は全身を支配していた塊が抜け出ていった感覚を知る。
「・・・準備して・・・って言ってました・・・よね・・・?」
「・・・あぁ・・・そうだな・・・」

無理に息を整えながら僕達は散らかった服を拾い上げる。
・・・この時間に、続きがあるとしたら、今度はもっと上手に僕は・・・

やがてコミュニケーターからは、一方的な転送の合図。
「ハリーから行くわよ!いい?」
僕が体を低くして転送を待つ準備に入ろうとした、その一瞬の隙にチャコティが僕の腰を抱き寄せて囁いた。

「ハリー・・・次の機会が・・・楽しみだな。」

(終)