アクリティルの監獄で囚人達に殴られるだけ殴られ
血の流れ出る右のこめかみを、ひとりの男の
ザラついた舌で舐めあげられて、僕の体は鳥肌が立った。
全身は打撲にいたんで、いまにも意識をなくしそうなほど
朦朧としているというのに・・・
こんなやりかたが好みなのか?
・・・こいつ、頭おかしいんじゃないか・・?・・・
トム、待っていて。すぐに君のもとへ戻るからね。
水と食糧をたくさん抱えて・・・。
傷を負ってしまった君を僕がきっと、助けるからね。
この監獄に6年もいるという男の背は高く
痩せてはいたが、力だけはあるようだ。
他の奴等より、確かに少し、話は通じるらしい・・・
クリンゴンのように、額に皺の、ある男・・・。
僕の知っているクリンゴンは、情熱的で気高く、勇敢で美しい。
ヴォイジャーの機関主任、ベラナ・トレスのように・・・。
だけどこの男のそれは、まるで違う。
醜悪な気配を漂わせ、僕の体だけを執拗に求める、獣・・・。
「俺の言う事を聞いていれば『親友』を助けてやれるだけの
水と食糧を、わけてやってもいいんだ・・・。」
・・・そんな約束・・・信用できるもんか・・・!!
命を繋ぐだけならば、堕ちるところまで堕ちたとしても
生きる方法はいくらでもあるのだろう。
たとえそれが、望むものとは違う形であったとしても・・・
そして・・・今の僕には、こうするほかに生き延びる道はない・・・。
僕の体は腐った欲望の餌食となり、嫌悪以外は何も感じなかったから
それは「受け入れる」行為ではなく・・・
打撲の痛みさえ一瞬、忘れさせるほどの、醜いだけの、繋がり・・。
最初に交わした約束よりも、かなり少ない量にはなったけど
僕がいつでも彼の言いなりになることを条件に
どうにかトムの口に運んでやれるだけの
水と食糧を持って・・・僕は親友のもとへ、戻った。
★。、::。.::・'゜☆。.::・'゜★。、::。.::・'゜
やがてヴォイジャーが僕達を助けに来て
傷がすっかり回復した今も、僕の心の奥は・・・
あのことを思うと、闇に閉ざされたままだ・・・。
「ハリー、おまえのおかげで戻ってこられたんだ・・・」
何度もそう言ってくれるけど、
トム・・・君は知らないんだよ・・・!!
僕がどうやって、君を助けたのか・・・
それを言ったら、君はどう思うかな。
僕を、軽蔑する・・・?もう2度と、君と話したり、遊んだり・・・
なにもかも、消えてしまうかもしれない・・・よね・・?
「ハリー、なにをそんなに・・・いつまでも落ち込んでさ・・・」
ふーっと、大きく溜息をついて、トムは僕を見た。
「今夜あたり、サンドリーヌでディナーは、どう?・・・
それから・・・ビリヤードでも・・・?」
軽い上目使いで僕を見ながら、無理に微笑もうとしてる・・・。
「・・・。・・・。」
僕は・・・首を横に振った。これ以上、トムにばかり
気を使わせるわけには・・・いかない・・・。
「トム・・・話しておきたいことが・・・あるんだ・・・」
「なんだい・・・?なんだか、深刻だね・・?」
★。、::。.::・'゜☆。.::・'゜★。、::。.::・'゜
僕はね・・・あの・・・男に・・・犯されたんだよ・・・。
君に何度か、水や食糧を、運んだだろ・・・
あれは・・・僕が、あいつに抱かれて・・・
それで手に入れたものなんだよ・・・
それは・・・汚らわしいだけの行為で・・・ごめんよ、トム。
だけど、それしかなかった・・・それしか、なかったんだよ・・・。
ごめん・・ごめんよ・・・そんな汚い物で・・・
僕は・・・君を・・・ごめんよ・・・。
★。、::。.::・'゜☆。.::・'゜★。、::。.::・'゜
そこまで言うと僕はもう、トムの顔をまともに見ることができなかった。
トムはその瞳に落胆の色を湛えたまま、僕を見ていた・・・
だけど・・・
「ハリー・・・かわいそう・・・に・・・」
トムは僕を、ぎゅっと抱きしめて、それから優しく髪を撫でた。
流れ落ちる涙がトムの制服の胸を濡らす・・・
「トム・・・僕を・・軽蔑するだろう・・?いいんだ・・・
・・もう、やさしくしてくれなくっても、いいんだよ・・?」
僕はトムから離れようと、両手で軽く彼の体を押した。
「・・・?!・・何を言ってるんだよ?ハリー!僕は・・・!」
トムは僕の肩を強くつかみ・・・驚きで大きく見開いたその瞳と
・・・視線が合った・・・次の瞬間。
トムの唇は、僕の嗚咽を塞いだ・・・。
僕達にとって、初めての・・・
・・・長い、長い、くちづけの後、トムは言った。
「ハリー・・・君がたくさんの犠牲をはらって助けてくれた僕を・・・
全部、君にあげる。これからはずっと、僕が!・・・君を守る・・・。」
「トム。。。でも僕はもう・・・」
「ハリー、なんにも言わないで・・・」
トムは人差し指で、僕の唇を軽く押さえて
「君の心の傷が癒えたら・・・お願いがあるんだ、ハリー。
僕の・・・恋人になってくれる・・・?」
「・・・うん・・・。」
僕の頬には よろこびの涙がこぼれて、止らない。
「ああ・・・ハリー・・・約束だよ・・?」
トムはその涙にさえ、くちづけを繰り返す・・・。
たやすく守られるとわかる、優しい約束の言の葉は
恋しい人の唇から、甘いメロディのように、流れて溢れて
やがて僕の心を満たしてゆく・・・。
トム・・・トム・・・僕達は生きてゆく。
抱きしめあって、これからの永遠を。