秋の透き通った風が二人の間を静かに擦り抜けていく。 「ん・・・」 それを塞ぐ様に、雲雀は獄寺の唇に己の唇を重ね合わせた。お互いに慣れた吸いつき。感じるのはやや 低い二人の体温と、雲雀の唇から流れる血。 「ぁ…な、ぁ…恭、弥…―やっぱり、おま、えその…」 「うるさい」 「ひぁ…ッ…」 その傷は誰がつけたのか―そう尋ねようとする獄寺を、雲雀はしつこいよ、不機嫌そうに食い止める。 強く上唇の先を吸引されて、獄寺は雲雀の背中を握る手に力が入った。 「…そんな誰とか、後でいいだろう?」 「ん・・・だ、って」 「さっきも言ったけど、喧嘩とか、…いつもなんだから。僕も、隼人も…」 ぬめり、と獄寺の口の中にやや先の細い舌が侵入する。ざらついたその舌は獄寺の柔らかい頬肉や、小 粒の犬歯をやさしく撫でていく。獄寺の弱い部分を知り尽くした行為。獄寺の頭が朦朧と甘く、溶けて 始める。そうなればもう、雲雀恭弥に『何故』等と問う力は無くなってしまうのだ。 「…隼人はキスが好きだね…。」 「ぁぁっ…ん、ちゅ…ぅ」 舌の先端を軽く噛まれた。同時に出来た隙間から、お互いに瞳がかちりと合わさる。雲雀の、やや釣り 上った双眸に恍惚とした自分が二人も映っていて、獄寺は白いうなじを桃色に染めてうつむいた。 「…いまさら、恥ずかしがる必要もないだろ」 そこもかわいいのだけれど―とは決して口には出さないが。 代わりに、既に熱くなっている中心へそっと手を這わせて。 「ひぅ…ッ」 「体は、素直な癖に」 形の凝ったデザインのズボン。しかしチャックの部分は他のズボンと共通だ。真ん中に走る銀色の線を 下におろしてやれば膨らんだボクサーパンツが少しだけ顔を出す。チャックの上にあった銀色のややご ついボタンを外すと細い腰が更にあらわになった。 そこでふと、雲雀が手を止めた。 「…隼人、今日はベルトしてないわけ…?」 下着とズボンを引き下ろしながら、雲雀が眉を寄せて尋ねる。 「え…?ぁっ…・・」 その質問に、顔を強張らせてしまったのは獄寺の若さ故の甘さか。 (ついさっきまで、山本といたから…!) そう、雲雀の家を訪ねる数刻まで山本武と一緒に居たから。ただ一緒に居ただけではない。情事を交わ してきたから。 雲雀からの電話で急いできたのだ。きっとベルトは山本の自室に置いてあるに違いない。 克明過ぎる記憶と、明確過ぎる見解に獄寺の頭が真っ白に引いていく。いつもおしゃれの為にベルトを かかさなかった。無い事を不自然だと気付かれてもおかしくないのだ。 「…電話を掛けた時、男といたんだ?」 「…っ・・・」 「そいつと、ヤッてたから?」 「きょ、や…」 「山本と、ヤッてたから?」 固有名詞まで出てきて。特定された人物。はっきりと言われた名前に、獄寺の唇が小さく戦慄く。どう すればいいかわからずに、何も言えないまま更に瞳をうつむかせる。 サラサラと落ちてくる銀の髪の毛。雲雀は無言で思い切り根本から掴むと引っ張り上げる。 「隼人」 無理矢理に、重力とは反対の方向へと引っ張った。強制的に雲雀と対面する獄寺の顔。表情が、泣きそ うに歪んでる。逃げ場などない、という風に。 鋭利な刃物の様に尖った痩せた顎。雲雀は顔をあげるとその顎に、思い切り噛み付く。 「痛っ…・・!」 「答えて、隼人。」 「……」 「僕が質問しているのに、答えないわけ?」 口を離した顎には、罪を訴えるがごとくの雲雀の歯跡。 「きょう、や…」 獄寺は心の痛さに、それ以上何も言えなくて。 雲雀は眉間の皺を一際濃くすると、獄寺を軟い草の生えた地面に押し倒す。雲雀から落ちるように押し 倒された獄寺。普段ならば、洋服が汚れると悪態をつくはずなのに。今日はもう、そんな事を言える術 もない。雲雀のまっすぐにくる裂情に流されるだけだ。 いつの間にか出されたトンファー。獄寺の着ていた黒いロンTの下に差し入れられ、そのまま力任せに 中央から半分に引き裂かれる。 それでも、何もできなかった。 「答えないなんて、いい度胸だね隼人」 潤んだその、孤高の風紀委員の瞳が あまりにも悲しそうだったから。 next