M y Sw eet Darlin '





カタカタカタカタカタ………


会計室にはキーボードを打つ音だけが響いていた
今は王様が珍しくサボらずに働いているらしく、仕事は滞りなく進んでいた
…もちろん、このキーボードを打つ音は七条さんで…俺はというと………
ただ隣で七条さんの淹れてくれた紅茶を飲んでいるだけ……


七条さんや西園寺さんと親しくなって会計室に入り浸るようになって一週間あまり―――
俺が訪ねると七条さんはいつも通りの優しい微笑みで出迎えてくれるし、西園寺さんも何かと良くしてくれる
そして、もちろん今日も七条さんはいつも通り出迎えてくれて、紅茶の用意までしてくれた
……しかし、その後
「すみません、伊藤君…… 今日は珍しく生徒会が稼動しているようで…本日締切の書類をいくつか処理しなくては
ならないので、あまりお相手ができないんです……」
(珍しくが強調されていたように聞こえたのは…俺の気のせいだろうか……)
「いえっ! そんな……俺の方こそ、仕事の邪魔してしまって…すみません……」
「そんなことありませんよ」
七条さんは俺の言葉を即座に否定してくれる
「伊藤君がいるだけで、仕事の進み具合が格段に上昇するんですから…ね、郁?」
「…あぁ……特に、臣がな。 ………さて、私はこの書類を生徒会室に持っていってくる…啓太はゆっくりしていけ」
西園寺さんは意味ありげな笑みを浮かべながら去っていった
「おや? 伊藤君、その顔は信じていませんね」
「…いえ……そんなことは…」
「本当のことですよ…今、郁も言っていたでしょう」
もちろん、七条さんのことを疑っているわけではないのだが……
この笑顔に何回も騙されていると、疑いたくもなってくる


そんな会話を交わしてから…もう30分………


カタカタカタカタカタ………


その間、もちろん七条さんはパソコンに向かっているわけで……
俺は、邪魔にならないように…だだ、その横顔を眺めているしかなかった


”こっち向かないかなぁ”


「呼びましたか? 伊藤君?」
心の中で思ったら、いきなり七条さんの笑顔が振り向いた
「…え? えぇ?! …お、俺、声に出してました?!」
「いいえ」
七条さんは事も無げに、否定する
「伊藤君があまりにも情熱的な瞳で、ずっと見つめているので」
そう言って、にっこりと笑った七条さんの後ろに黒い羽根と尻尾が見えるのは…気のせいだろうか……
「……俺…そんなに、じっと見てました?」
自分の行いに顔を朱く染めながら、そう尋ねた
「えぇ、それはもう……僕は、恥ずかしがりやさんですから…そんなに見つめられると、照れてしまいます」
「……はぁ…」
顔色一つ変えないで、そんな事を言われても説得力がない………
「おや? 信じていませんね?」
七条さんは心外そうな顔をして、俺の手を取った
「ほら、こんなにドキドキしているのに…」
そして、俺の手を七条さんの心臓の辺りに押し付けた
……たしかに、その鼓動は………俺と同じくらい…早く脈打っていた



「……臣、さっき渡した書類は終わったのか?」



突然の声に驚いて振り返ると…西園寺さんは扉に寄り掛かったまま、呆れたような笑顔を向けていた
「…えぇ、もうとっくに」
七条さんは……俺の手を握り締めながら、にっこりと笑ってそう答えていた
「………いつまで……そうしているつもりだ…」
西園寺さんは盛大な溜息を吐きながら、七条さんに新たな書類を渡していた
そこで俺は、やっと自分の置かれている状況に気付いた
「…っすみません! ………俺っ…お、お茶でも淹れてきますっっ!!」
慌てて七条さんの手を振り払い、逃げるようにキッチンに向かった

啓太はキッチンの壁に背中を凭れさせ、呼吸を落ち着ける
……何なんだろう…七条さんに手を握られてただけなのに……どうしちゃったんだ…?
…別に何かしてたわけでもないのに……俺は、何で逃げてんだ…?!
啓太はまだ、このドキドキ感の正体が分からずに自問自答を繰り返した



「…郁は意地悪ですね」
啓太が消えてしまったキッチンの扉を名残惜しげに見つめながら、七条は不満の声を洩らした
「……意地が悪いのは、どっちだ…」
西園寺は胡散臭い微笑みを睨み返しながら溜息を吐く
「……何の事ですか…?」
七条は白々しく惚けてみせる
「…わざと、だろう………私にまで見せ付けるな……」
「…おや、ばれていましたか」
「……当たり前だ…」
西園寺は呆れたように呟く…
恋に狂った七条には何を言っても無駄だと悟った西園寺は、さっさと自分の机に戻る
「……あまり、からかって…啓太に嫌われても、私は知らないぞ…」
新たに生徒会から持ってきたらしい書類に目を通しながら嫌味を言う西園寺
しかし、そんな嫌味に負けるほど七条は弱くなかった――
「……大丈夫ですよ…伊藤くんの性格は調査済みです… 郁のように狭い心の持ち主ではありませんから…」
七条の背中に黒い羽根がみえる……
しかし、西園寺にとってその反応は新鮮だった――
自分には逆らわない七条……そんないつもの姿を脱ぎ捨てた彼は、幼馴染の西園寺からみても新鮮でとても面白い
ものだった――
そのことに本人が気が付いているかは…分からないが……当分は退屈しないなと西園寺はこっそりほくそ笑む



「お待たせしました…」
しばらくして、啓太がお茶を淹れてキッチンから戻ってくる
お盆には紅茶のポットとカップ以外に甘ったるそうなロールケーキが二切れ乗っていた
七条が買ってきたものに違いない…
「…ありがとうございます、伊藤くん」
啓太からお盆を受け取る……その顔は、ロールケーキ以上に甘ったるい笑顔を浮かべていた――
見ているだけで胸焼けがしそうな笑顔だ――
……でも、その親友の微笑ましい変化に、ふっと笑みが零れる



―――二人が恋人になるのは……もう少し、あとの話………





END





















アトガキ
 甘々……読むのは好きなんですけど……
 書くのは大変でした……;
 本当は、サイトが出来上がる頃には書き上がっているはずだったんですが……
 10ヶ月ほど遅れて出来上がりました……
 …そして、何だか…七条が偽者です……orz
 記憶が曖昧です……もう一度、ゲームせねば……
 
 読んで下さってありがとうございました…
 気に入っていただけたら幸いです





2007.1.3