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甘いヒト
「………啓太が…」
『…俺??』
その日、会計室を通りかかると西園寺さんの声が微かに聞こえた。
自分の名前が出たので思わず聞き耳を立ててしまった。
「お前も好きだろう?」
「はい、とても好きですよ。」
「では、お前に譲ってやる。 しっかりやれよ、臣」
「はい、郁」
『…………俺…を、譲る……?』
啓太は自分の耳を疑った。
しかし、西園寺の口から『譲る』という言葉が出たのは確かだった。
『……俺、もう西園寺さんに飽きられちゃったのかなぁ………』
自分の考えに涙ぐみそうになった…
「啓太、今度の土曜は空けておけ」
会計室での会話を聞いた翌日、西園寺にいきなり、そう告げられた。
『…これって、デートのお誘いだよなぁ! やっぱり、昨日のは俺の思い過ごしだったんだ♪』
と安堵したのも束の間……土曜日に部屋まで迎えに来たのは七条だった。
「では、行きましょうか。伊藤くん」
「…今日、西園寺さんは?」
「…僕がデートのお相手では、つまりませんか?」
「いえ……そういうわけじゃ…」
あまりに淋しそうな顔をする七条に嫌とは言えなかった。
「そうですか、では行きましょう。 早く行かないと混んでしまうかもしれませんから…」
「…混むって、今日はどこに行くんですか?」
「おや? 郁から聞いていませんか?」
一瞬、驚いたような素振りを見せたが、すぐいつもの(西園寺曰く、胡散臭い)笑顔にもどって
「では、ナイショです」
と言って歩き出してしまった。
そうして着いた所は、いかにも高そうなホテルだった。
しかし、七条さんはそんなの気にも留めず、どんどん進んでいく。
止まったのはレストランの前。
昼は食べないように言われていたけど……昼食をたべるにしては、2時は中途半端な時間だ。
七条さんは係の人にチケットのようなものを出している。
「ようこそいらっしゃいました。 本日は、西園寺様は如何されました?」
「彼は用事ができてしまって、それで僕達が代わりに…」
「左様でございますか。 それでは、御席の方に御案内いたします。」
そして、案内された先に待っていたのは、色とりどりの料理……………ではなく、色とりどりのケーキだった。
「………ケーキバイキング…」
「……郁が『啓太が喜ぶと思って券をもらったのはいいが…私は甘いものが苦手だ。 それを啓太が気にするのでは
ないか……』と悩んでいるうちに、期限が迫ってしまったようです」
七条さんは俺の心を見透かしたように、あの日の会話の真相を教えてくれた。
「…でも、まさか伊藤くんが丁度通りかかるとは思いませんでしたけど…」
「……気付いてたんですか?」
「いいえ。でも、…実は、伊藤くんには発信機が付けてあるんですよ」
「…………冗談…ですよね……?」
「おや? そう聞こえますか?」
「えっ! 本当なんですか!?」
啓太は思わず体を見回した。
「はい、もちろん……」
七条はまたいつもの笑みを浮かべていた。
「冗談です」
「………」
いつもの事なのに引っ掛かってしまう自分が情けない…。
「でも、良かったです。俺が譲られちゃったんじゃなくて……」
「譲ってくれなくても、欲しくなってしまいそうですよ」
急に真剣な声が聞こえてきて、啓太は驚いて七条を見た。
「えっ?」
「…いえ、ケーキの話です。 今日は来れて本当に良かったですね、伊藤くん」
「はい、とっても美味しいです!」
食べ終わって二人が店から出ると、そこに西園寺の姿があった。
「西園寺さんっ!!」
啓太は慌てて駆け寄った。
「どうした、啓太? そんなに私に会いたかったのか?」
優しく啓太を抱きとめながら、嬉しそうにそう聞く西園寺。
「伊藤くんは、郁が伊藤くんを僕に譲ってしまうと誤解していたんですよ。」
追いついた七条が横から啓太の行動の訳を説明する。
「…何だと?」
西園寺の眉間に皴が寄る。
「僕と郁の会話を聞いていたようです。 ……肝心なところを除いて」
それを聞いた西園寺は溜息を吐きながら、啓太の顔を上げさせた。
「……そんなに私の気持ちが信じられなかったのか?」
「…そ……それは………」
啓太は顔を覗き込んでくる西園寺から目を逸らす。
「…では、私がどれだけ啓太を想っているか……思い知らせてやる」
「え?」
突然、西園寺は啓太の手を取って歩き出す。
「……今夜は、眠れないと思え」
「…えぇ?!」
啓太は、そのまま最上階のスウィートルームに連行されたのだった――――甘い甘い、最愛の人の手によって……
END
アトガキ
……続きは、いつか書くかもしれませんが…
今回は、ここで終わりです……
甘々な、雰囲気が出ていれば幸いですvv
郁も大好きなんですが……どうしても臣が……出張ってしまいました……
2006.3.1
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