ひな祭り



「…ヒナマツリ?」

今日は、3月3日桃の節句

「ご存知だったのですか…?」


自分が教えた覚えのない日本の風習を知っているイギリスに、日本は首を傾げた
ひな祭りは、女の子の行事で日本にはあまり馴染みがないし、海外に知れ渡るほど、メジャーな行事でもない

「いや、コイツが」

そう言ってイギリスが指さしたのは、自分の横の何もない空間
そこには、日本には視えない座敷童子の姿があった




いつもは、イギリスが日本の家に着くなり、脛を蹴っ飛ばしたり、廊下の向こうであっかんベーをしてからかってくる座
敷童子が、今日は変だった。
障子の影から、こちらを窺っては目が合うと引っ込み、もじもじと何か言いたげだが、聞こうとすると逃げてゆき

そんな、座敷童子の様子を気にしつつも、日本と茶の間で日本茶と煎餅を摘まんでまったりしていたところへちょこん
と隣にやって来て、今日がひな祭りという女の子のお祭りだと教えられた



「…そういうわけですか」
日本にそう事情を説明すると、否定するでもなく、考え込んでしまった

「では…あり合わせの材料ですが、ちらし寿司でもこさえましょうかね」

イギリスには、それがどう繋がるのかは分からないが、座敷童子の顔が一気に綻んだので、ひな祭りには付き物だ
ということは分かった

あまりに嬉しそうに目を輝かせている座敷童子が可愛くて……その笑顔が日本の目にも映れば良いと思った





「そうと決まれば、さっそく下拵えを始めなければ」
日本も心なしか、うきうきした様子で腰を上げた
「じゃあ、俺も手伝って…」
「謹んでお断りいたします」
一緒に立ち上がりかけたイギリスだったが、その日本の一言で浮かした腰がそのまま落ちた
「イギリスさんはお客様ですから、ここでゆっくりしていて下さい」
今は日本のフォローもイギリスの心には虚しく響いた

日本が割烹着を着て、いそいそと台所を行ったり来たりしている様子を茶の間でぼんやり見ていたイギリスの背中に
衝撃がきた

「…っ!!……何だ!?」
振り返ると、座敷童子が背後に立っていた
背中を思いっきり蹴られたようだ
「…おい!!」
思わず立ち上がったイギリスを先導するように、縁側から庭に下りて裏を指差していた
「何だ?裏に何かあるのか?」
縁側に出てきたイギリスを更に導くように、そのまま庭の裏の方へ座敷童子は走っていく
「おい!……ったく」
イギリスも仕方なく、その小さな背中を追いかけた

座敷童子は庭の端にある物置も通り過ぎ、角を曲がって更に裏へと進んでいく
日本の家には何度も来ているイギリスだったが、そんな所まで入るのは初めてだった

進んで行ったイギリスの目の前に現れたのは、古い白壁の重厚な建物……所謂、土蔵というものだった

その入口の前で、座敷童子は待っていた
重厚な鉄の扉だが、閂はあるものの錠は付いていない
座敷童子に促され、イギリスは閂を外して中へ足を踏み入れた

中はあまり手入れされていないのか、埃が溜まって少し黴臭かった
昼とはいえ、窓が小さい蔵の中は薄暗くぼんやりとしか見えないが、物が所狭しと置かれているのが分かる
フランスの家のワインセラーのようだと思いながら、イギリスは座敷童子の背中を追って更に奥へと入っていった





「…よっこらしょ」
イギリスは、座敷童子に言われるまま、埃まみれの古びた紙の箱を幾つか蔵から出し、縁側まで運んだ

そのあと、箱の近くに立て掛けてあった木の板のような物も何枚か運んで、はぁっと縁側に寝転んだ
まだ肌寒さの残る陽気だが、額にはうっすらと汗が滲んでいた

そんなイギリスの様子にも容赦のない座敷童子は、上から覗き込んで続きを促していた
「分かったよ!やれば良いんだろ!?」
急かされたイギリスは、仕方なく起き上がる

箱に積もった埃を払い、蓋を開ける
すると、中には2つが対になった照明器具の様な物が入っていた

もう1つ箱を開けると、人形が出てきた
昔の日本人なのか、顔も着ている着物も見慣れないものだった


「…ひな人形ですか?」
まずは、飾る台を組み立て、それに赤い布やら金の衝立やら、人形の乗る台を置いた
男女が対になった人形を並べていると、日本が台所から顔を覗かせた
「何の騒ぎかと思いましたが…これを何処で?」
ガタガタと音を立てていたので、茶の間の様子に気が付いたらしい
「裏の蔵の中から、出してきたんだぜ」

「…そうですか……」
日本は、戦前の記憶が曖昧だ
これはどうやら、その頃の物らしく日の笑顔はどこか淋しげだった

日本と同じように淋しげな顔をしている座敷童子の頭を軽くポンポンと叩いてやる
「さ、続きを飾ろうぜ」
男女の人形とその脇の飾りを飾り付けた
そこまでは、至極順調だった


その下の段に並べる、3体の侍女の人形を箱から出した時、事件は起こった

「…!!」
3体目の人形を出そうと手にした瞬間、首がぽろりと箱の中に落ちた

イギリスは不測の事態に、声出ない
あたふたと首と胴体を合わせてみるが、戻るはずもない
座敷童子も、突然の出来事に最初は放心状態だったが、事態が飲み込めてきて……泣き出してしまった

「…ぉ、おい……泣くなよ…」
泣きたいのは、イギリスも一緒だった


茶の間の様子の変化に、日本がまた様子を見に来た
「…っどうされたんですか!?」
人形の首を持って慌てふためいているイギリスの様子に、さすがの日本も驚いた

「……いや、箱から出そうとしたら取れちまって…」
イギリスは申し訳なさそうに、頭を垂れている
「……」
イギリスから受け取った人形を、日本はしげしげと眺めている
「…これは、イギリスさんの所為ではないようです」
「え?」
「……長い間、蔵に放置されていたので、首を支える木の部分が脆くなっていたようですね」
「…そうなのか?」
心なしか、イギリスの顔にも安堵の色が窺える
しかし、事態が好転したわけでもないし、座敷童子が泣き止む気配もない


「大丈夫ですよ、知り合いの人形師の方に相談すれば直して頂けると思います」
その言葉に、座敷童子の泣き声はぴたりと止んだ
「…ほ、本当か!?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
日本は、微笑みながら言い切った
「残念ながら、今年は飾れそうにないので、三人官女が二人官女になってしまいますが…」
そういいながら、ちらりと真ん中が空いている段飾りを淋しげに見つめた
座敷童子も同じように眺めていた

「…そういえば!」
何か、思い付いたらしい日本は、またいそいそと台所へ戻っていった


「代わりといってはなんですが…」
数分後、戻ってきた日本の手にはちらし寿司で出来た人形があった
ちらし寿司を山のように盛り付け、その上に薄焼き卵の衣を着せ、頭はウズラの卵で出来ていた
「昨日、食べた中華丼の余りがあって良かったです」
そう言いながら、ぽっかり空いていた二段目の中央にそれを並べた

もちろん、違和感がない訳ではないが座敷童子は十分満足そうだった



「さて、私たちも頂きましょうか」
「そうだな」

日本は、イギリスと自分の分以外に、ひな人形が一番良く見える席に座敷童子の分を用意した
「さぁ、どうぞ。今日の主役は貴女ですよ」
もちろん、日本には視えてはいないのだが空席に向かって声を掛ける
それでも、十分喜んでいる座敷童子が、イギリスには見えている


「では、」


「いただきます」
3人の声が、重なる
日本にも、空席の筈のその場所に小さな女の子の笑顔が見えた気がした





終わり















あとがき

またまた、3月3日当日には間に合いませんでした……
今回は、やる気を出して早めに構想を練っていたのに…

最後が中々決まらなくて……若干、中途半端

今年は、同人活動をぼちぼち始めたいと思いますが…
幸先が悪くて…この先が心配です

何とか、5日遅れですがUP出来て良かったです


英日とうたっておきながら、あまりカップリング要素は入りませんでした

まぁ、ほのぼのでいい感じになったかなぁとは思っていますが…

作中の人形の首のくだりは、調べた訳でもなんでもないので…信じないで下さい!
本当に、元に戻るのかは分かりませんが……話しの流れ上、戻る方向で…



では、ここまでお付き合いください、有難うございました!

また、お会いできるよう…精進してまいります。



2010.3.8