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桜の季節に
「ナルホドく〜ん、置いてっちゃうよ〜」
「置いていってしまいますよ〜」
そんな事言うなら、少しくらい荷物を持ってくれてもいいのに…
両手いっぱいのお弁当やお菓子を抱えなおし、そう思っても……口に出す勇気はない…
「置いていくッスよ〜」
僕と同じく両手に荷物を抱え、さらにハミちゃんを肩車して平然と歩いているイトノコ刑事……
…そうめん、そんなに栄養があるのか……?
それとも、これから食べられるこのお弁当が彼を動かしているのだろうか……
「成歩堂、1つ持とう」
歩調を合わせて戻ってきてくれた、旧友の優しいけどぶっきら棒な声
「あぁ、たの……っ痛て!!」
渡そうとした荷物を落としそうになるほどの、衝撃!!
「怜侍!そんなの、成歩堂龍一に持たせておけばいいのよ!!」
容赦なく、背中を鞭の嵐が襲う
「イテッ!イテテッ!! …分かったっ!!荷物は僕が持つから、やめてくれ!!」
そう叫ぶと、嵐は収まった…
「すまない…」
御剣も狩魔冥には、頭が上がらないらしい…
申し訳なさそうに、隣を歩く
狩魔冥は集団から離れて、十歩ほど後ろから着いてきている…
来たくないなら、無理に着いてこなくても…とも思うが……
なんで、こんな事になったかというと……それは、2時間前に遡る――
「ナルホドくん、お花見に行こう!!」
「行きましょう!!」
叩き起こされるなり、凄い剣幕で……どうでもいいようなことを言われた
「何で? また、急に…」
「なんで〜? ナルホドくんお花見したくないの〜〜!?」
「まぁ、これといってしたいわけでもないけどね」
お花見って何が面白いのか、よく分からないし
「あたし、したことないんだよね。お花見!」
何だか、よく分からないが……無碍に断る理由もなく、流されるままにお弁当を準備させられ、
お菓子や飲み物を買いつつ、河川敷に向かう事になってしまった…
買出しのために、入ったスーパーで、イトノコ刑事が真剣にもやしとにらめっこしていた
「何やってるんですか?イトノコ刑事…」
「おぉ! あんたッスか…」
真剣すぎて、こっちの存在に気付いてもいなかったようだ…
「給料日なんで、ちょっと豪勢にもやしでもそうめんに入れようかと……」
給料日に豪勢にもやし……イトノコ刑事の懐が不憫でならない
僕ですら、給料日には肉の入った味噌汁くらい飲める…
「これから、お花見に行くところなんです!!」
イトノコ刑事に懐いているハミちゃんが嬉しそうに報告する
「そうだ、イトノコさんも一緒にどうですか!? お弁当もあるんですよ!」
「お弁当!! 行くッス!!!」
マヨイちゃん、イトノコ刑事のツボが良く分かってるな…
そのあと、イトノコ刑事とマヨイちゃんは凄い勢いでカゴの中に、お菓子やら飲み物やらを詰め込んでいく……
僕は、それを凄い勢いで棚に戻していったけど……結局、買い物袋3つ分買わされた
「こんなに買ってどうするんだよ!! この人数じゃ食べきれないだろう!?」
明らかに6,7人分の食料を買い込み、僕のお財布と腕は悲鳴を上げている
「そうだ!じゃあ、御剣検事も誘うといいッス! 今日は、検事もお休みのはずッスから!」
……なんで、そういう解決策を持ってくるんだ…
「お!いいねぇ! じゃあ、さっそく御剣検事に会いに行こうよ!!」
「行きましょう!!」
当初の目的を忘れそうになりながら……僕達は、御剣の家へ向かった
『ピンポーン』
「何?」
インターホンを鳴らすと、直ぐに不機嫌そうな声が返ってきた
……それも、御剣ではなく………出来れば会いたくない彼女の……
「……何でここに?」
「今日は、休日だからに決まっているでしょう?」
いや、そういう事を聞いているんじゃないんだけど……
たしか、狩魔冥は……アメリカに帰ったはずじゃなかったのか…?
「……すまない、成歩堂。今、開ける」
やっと家主が現れた
「いや、いいんだ。ちょっと、お花見でもしようと思って……誘いに来たんだ」
「……俺を、か?」
意外だったんだろう、御剣はちょっと言葉に詰まっていた
「いや、イトノコ刑事が…御剣も誘いたいって言うからさ」
「あぁ、そうか…」
納得したらしい、すこし笑った気がするのは…イトノコのことを考えたからだろうか
「しかし、今日は………」
今日? 今日は、何かの日だっけ?
言おうか言わまいか考えているのか、少し沈黙があった
「…いや、一緒に行こう」
結局、御剣と狩魔冥も一緒に来る事にしたらしい
イトノコ刑事は相変わらずの格好だったが、御剣と狩魔冥はいつもよりもラフな格好だった…
当たり前か……休みの日まであのヒラヒラした格好なわけないよな…
「しかし、狩魔冥は何で日本に来たんだ?」
「成歩堂龍一………知らないの?」
狩魔冥が御剣を見る
つられて見ると、御剣が口に指を当てて……まるで話すなと言っているようだった
「……そういうことね」
狩魔冥は、面白そうに微笑むと、僕達の後ろから着いてきた
こうして、僕達は……お花見をするため、河川敷に向かって歩き出した――
「マヨイくん、成歩堂には言わなかったのか…」
成歩堂と歩いていた御剣が、マヨイの横にきて小声で訪ねた
「だって、びっくりさせたほうが、面白いじゃないですか」
「…そうだな」
何も知らない様子の成歩堂に気付いて、咄嗟にマヨイの作戦に乗った御剣だがそれは正解だったようだ
「しかし、律儀な方だな…アメリカにいる冥の元にも手紙を送ったらしい」
一昨日、突然やって来た冥には、御剣も驚いた
「手紙をもらったからには、来ないといけないでしょ」
嬉しくなさそうな言葉は、冥の照れ隠しだ
「ナルホドくんにも来てたんですけど、隠しちゃいました」
「……では、先方も知らないのか?」
マヨイはにっこり笑う
それは、肯定を意味しているのだろう…
「でも、ビキニさんには連絡しておいたから、大丈夫ですよ!」
「……そういうことか」
つまり、当事者2人には秘密のままこの計画は進んでいたようだ
「ゴドー検事の知恵を借りたのか…」
この綿密な計画は、マヨイ一人で考えられることではないだろう
「何で、分かったんですか!?」
図星だったようだ
マヨイは意外と分かりやすい性格をしている
「マヨイくんはこのような計画を立てるような子ではないだろう」
「スーパーでイトノコさんに会ったのは予定外ですけど……それ以外はゴドー検事の計画通りです…」
つまり、御剣もゴドーの掌の上で転がされたようなものだ
「あたしが、相談したんです……何か、ナルホドくんをびっくりさせて喜ばせてあげたくて…」
「…そうか」
「それに……ゴドー検事も…何かしたかったんだと思います……あの2人に…」
「…そうかもしれないな」
ゴドー検事にとっては、自分の事件に巻き込んでしまった2人への償いなのかもしれない…
「マヨイくんは、いいのか…?」
「何がですか…?」
マヨイは何を言われているのか、分からないといった顔だ
「いや、何でもない…」
「?」
自分が口を出す事ではないと思ったのか、御剣はマヨイの側を離れ、成歩堂の隣に戻った
「やはり、1つ持とう」
「いいよ」
鞭が怖い…
「大丈夫だ、もう機嫌は直っている」
「…そうか?」
僕には分からない…狩魔冥の違いも御剣には分かるようだ
今度は、鞭の嵐は襲ってこなかった
荷物を半分渡して身軽になったせいか、辺りの様子が気になった
「マヨイちゃんたちは、どこに向かってるんだ?」
そこは、河川敷とは方向が違う……どちらかというと…刑務所に近付いているような……
「さぁ? こっちにも花見が出来る場所があるんじゃないか?」
御剣は特に気にした風でもなく、マヨイちゃんたちの後に着いて歩いている
「…そういえばお前、今日が何とかって言ってなかったか?」
さっきのインターホン越しの会話を思い出して聞いてみる
「あぁ、それなら…もう少ししたら分かるさ」
御剣は何か知っていて隠しているようだ
「着いた〜」
マヨイちゃんが腰を下ろしたのは、刑務所の真ん前の小さな小川が流れるちょっとした公園だった
公園とは言っても、柵があるわけでもなく…小川の周りの原っぱみないな場所だけど…
場所が場所だけに桜は満開でも…お花見をしている人は少ない
「ナルホドくん、さぼってないでゴザを敷く!」
「はいはい」
事務所から持ってきたゴザを敷いて、皆で食べ物を並べる
すると、刑務所の門をくぐって出てくる2つの陰が見えた
「え?」
それは、よく知っている人に似ているような…
でも……
じっとそちらを見ていると、向こうもこっちに気がついたようだ
「あっ…」
といったように聞こえた……その声は、やはり聞き覚えのある声と似ていた
思わず、駆け寄っていた
「……りゅう…ちゃん…」
そう僕を呼ぶ声が、震えている
「おかえりなさい!!」
後ろから、マヨイちゃんの声が響いた
「おかえりなさいです!」
ハミちゃんの声もする
「お勤めご苦労様」
狩魔冥だ
「…皆さん……」
どうしてここにいるのか分からないといった顔
僕も、何が何だか分からない…
でも、言うべきことは1つだ
「おかえり」
End
アトガキ
最後まで読んで頂きまして、有難うございます
祝3周年を記念いたしまして、またまた逆裁です…
そして、今回は珍しく!
主役がナルホドくんでした!!
ミツメイ好きですが、ナルアヤも意外と好きです……
そして、ちょっとサスペンス風味!?を目指してみました……
今回は、どっちつかずな話を目指しましたが……あまり、ナルマヨ要素がない……
マヨイちゃんはまだ恋愛とかより…居心地の良さを感じさせてくれる存在としてのナルホドでいいと思うので……
こんなんに…なりました……
もう少し大人になったマヨイちゃんと三角関係にでもなればいいな…とは思いますが……
ちょっとマイナーなナルアヤでしたので、3周年記念小説はもう1本UPしたいなぁとは考えております
……しかしながら、相変わらずの遅筆&スランプで…この話も1年ぶりくらいにかいたので、
気長にお待ち下さい(汗;)
構想だけは、出来上がっているので…なるべく早く皆様にお目見えできると思いますが…
それでは、ここまでお付き合い下さいまして有難うございます!!
またお会い出来る事を、お祈りしております
2009.3.5

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