夏離宮






 暇つぶしに、飴の包み紙で折った鶴。
 「上手いものだ。」と褒められて、照れ臭いから苺味をもうひとつ剥いて、急いで口に入れた。包み紙をきれいに伸ばして「簡単ですよ。教えてあげます。」。
 そしたら、あなたの老いた手のほうが上手に折った。ズレのない鋭角。くちばしの先まで美しい鶴。




 葡萄棚の下で、乾いた風に吹かれて本を読む午後。
 わからない単語が出てきて辞書を引こうとしたら、隣でペンを走らせていたあなたは、書き損じた便箋の裏面に、「こうやって暗記すると良い。」と言って活用表を書いてくれた。
 誰に宛てたものだったのか。見たこともない言語で綴られた手紙。




 大理石の床に花ござを敷き、並んで横になった。
 うすい木の葉が1枚、また1枚と、窓から舞い込み枕元に積もった。
 このまま眠ってしまったら、埋もれて窒息してしまうかも…私のたわいない独り言に、あなたは皺くちゃの顔を更に皺だらけにして笑い、「それは大変。そら、吹き飛ばせ!」と。




 いつしか季節は移ろって、空の高さも雲の形も変わり、夏の間の思い出は、氷菓子のひとすくいをこぼして溶けた小さな水たまりのように、あっという間に干上がって消える。




 けれど、空に近い場所で暮らしていた日々が恋しくて、涙で枕を濡らす夜が続いた夏。
 供を連れずに訪れた静かな離宮の一室で、ふたり笑い転げながら吹かせた緑の嵐を、私は永遠に忘れまい。











 20080327







ひつじまつりおめでとうございます!お誕生日と全然関係ない文章でごめんなさい〜


雑魚寝


雑魚寝/山田わこ
ムウ×紫龍メインで小説を書いています。ムウ×シャカ×ムウ、アフロディーテやカミュの話もあります。