芍薬






 あの頃私は年に数回、五老峰を訪ねていた。
 ジャミールでひとり隠遁者然と暮らす私の身の上を、老師は何かと気にかけ、恩情を施して下さった。有難いことだ。お陰で今の私がある。
 五老峰へ行くと、必ず感じる「気配」があった。咲いたばかりの花にも似た、頼りないけれど何かとても新しいエネルギー。
 しかしそれが何なのかはわからなかった。当時の私は甚だ未熟で、聖闘士ではない人間が発する気配、しかもこの世に生まれたばかりの小さな花の正体を把握する力など備えていなかったのだ。
 回を重ねるごとに、花は少しずつ大きくなっていった。
 あるとき老師は到着したばかりの私に、急に外出することになったから留守を預かって欲しいとおっしゃった。
 私達はいつも滝の前に座って話をするので、老師の住まいに案内されるのは初めてだった。
 そこで春麗に会った。
 「あ、花!」と思った。
 すまないが半日ばかり頼む、と、出掛ける前に老師は頭を下げられた。私は驚き、畏まる一方で、この少女に注がれる愛の深さを知る思いがした。
 ようやく片言を話せるぐらいの春麗はニコニコと機嫌が良く、私が動物の鳴き真似をすると声を上げて笑った。そのうち私の膝へ甘えるように縋り、本人以外には理解不能の言葉を交えながら、あれやこれやと喋り出した。
 落とさないように注意しつつ抱き上げてみた。私自身体の小さな子供だったが、春麗は、重さがないのではと錯覚するほど軽く、人間とは思えないほど柔らかかった。
 頬を寄せると、彼女の「気」がはっきりと伝わってきた。
 そう、これだ。今までここへ来るたびに感じていたものだ。
 初対面ながら、心の奥底から湧き上がるこの親しさ。ずっと前からこの子を知っていたような気がする…。
 どんな女性に成長するのだろうなどと大人びたことを考えるには至らなかった。私はあまりに幼く、更に幼い春麗を無邪気に可愛がるだけで、先のことを想像しようとは微塵も思わなかった。
 ただこのとき、どういう訳か、何の脈絡もなく1輪の花の姿が脳裏に浮かんだのを覚えている。
 薄紅色の、芍薬だった。











 20031029






 上を書いた段階では、「ムウ+春麗ほのぼの成長記」に発展させようかと考えていたんですが…


 その後だんだん、ムウ×春麗メロドラマなんてどう?と夢見るようになりました。
 ムウ様と春麗は悲恋、「いいひと」止まりの紫龍はちょっとかわいそうな役回りという設定で。
 (言うまでもないことですがウチの特別室とは全く違う次元での話です。あの部屋は、いろんな意味で別格とお考え下さい。)


 で、そんな感じでちょっと「その後」を書いてみたんですけど〜…読んでくれるかなぁ…?エヘッ。


どれ、読んでやるか。







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