赤いブローチ






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 紫龍に変な噂が立っている。辰巳さんと通じているらしい、という噂だ。
 もちろん僕は信じない。紫龍が肯定しない限り信じない。
 だけど紫龍は、そのことを誰かに問い詰められても無視をするばかりで、決して否定しようとはしないんだ―。




 沙織さんが旅行から帰るまで、ジョセフィーヌの散歩は僕の担当になった。氷河はこの犬と相性が悪いし、星矢は寝るのが早いし、兄さんでは当てにならない。(ちなみにいわゆる二軍のみんなは、沙織さんの荷物持ちとして随行中だ。)
 紫龍は自分も分担すると言ってくれたけど、最近ずっと風邪気味で、寝たり起きたりを繰り返している人にそんなことさせられない。だから僕が1人で引き受けることにした。
 散歩と言っても屋敷の敷地内をブラブラ歩くだけだから、たいした仕事でもない。車もほとんど通らないし、よその犬と鉢合わせする心配もないから気楽なものだ。
 今夜はつい読書に夢中になり、外へ出るのが遅くなってしまった。
「ごめんね、ジョセフィーヌ。我慢させちゃったね。」
長いオシッコをした後、ジョセフィーヌは風の匂いを嗅ぐように、目を細めて左右に首を振った。そして温室の方へ向かって歩き出した。
「どこへ行くんだい、ジョセフィーヌ。そっちじゃないだろ?」
僕はいつものコースを通ろうと思った。けれどジョセフィーヌは綱をぐいぐい引っ張り、温室へと向かう。
 小さな噴水。石灯籠。広い城戸家にはまだまだ僕の知らない部分がたくさんある。歩きながら物珍しさにキョロキョロしている自分に気付き、僕は思わず笑ってしまった。
「まるで僕のほうがキミに散歩させられてるみたいだね…クス…」
 そのとき、温室の前で何かが動くのを僕は見た。目を凝らすと、それは2つの人影だった。こんな時間に誰だろう。まさか侵入者?いや違う。あれは…
「あれは…紫龍と、辰巳さん!」





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