金色の風






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 処女宮は静謐。まるでどこかの寺院のように。




 石の回廊を吹き抜ける風が、金色の髪を軽やかに舞い上げる。無数の細い絹糸は、宙で柔らかくもつれ、やがて風が止むと何事もなかったようにほぐれて、元通り背中に垂れて落ち着く。
「シャカの髪はまっすぐだね。僕の髪は濡らさなければそうならないよ。」
肩で結わえた自らの毛髪に手をやりながら、ムウが羨ましげな視線を送る。
 この宮の主は風の通り道を知っていて、ムウが訪ねて行くといつも一番涼しい場所に座り、起きているのか眠っているのか目を閉じて微動だにせず、しかしよく見れば唇だけはかすかに動いて、ブツブツと何か唱えているのだった。
 処女宮は魅力的な場所だった。長い廊下の折れ目ごとに置かれた装飾性の高い甕や、骨董の家具や、その上に安置された小さな仏像は、ムウに不思議な安らぎを与える。それは遠い記憶がもたらす懐かしさなのか、未知の世界に対する憧れなのかムウにはわからないし、考えたこともない。
 「僕の髪は、乾くとだんだんモフモフに広がって…だから聖衣のマスクを着けるの大嫌い。変な跡がつくしさ。」
話し続けながら周囲をウロウロされても、シャカは気を乱すことなく静座し続けている。
「シオン様の髪も、触ると同じ感じだよ。遠い親戚だから似てるのかな。でも、もっと量が多いかな。」
 等間隔に並ぶアーチ型の窓から朝の光が降り注ぎ、石造りの床に同じ形が浮き出ていた。その上を、ムウははみ出さないようポンポンと跳び渡る。
「あーあ、僕は何歳まで生きるのかなぁ。お爺さんになったら、シオン様みたいに皺だらけになるのかなぁ。」




 庭に咲くのはインド素馨。甘い香りを漂わす。
 軒の四隅に吊り下げた風鐸。ひと揺れするたび玻璃の音。





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