カフェイン






 この子は寝相が良い。眠っている間ほとんど動かない。腹の上に水を張った洗面器を置いたとしても、きっと朝までこぼれない。そんな冗談を言いたくなるほど行儀の良い寝姿だ。
 今夜は私の背中の向こうで何度も寝返りを打つ。夕食後に飲んだコーヒーが少し濃かったせいだろうか。なかなか寝つけないらしい。
 夜具を通して伝わる振動。衣擦れ。温もり。
 隣に紫龍がいる。それだけで心が満たされる。




 「ムウ…もう寝た?」
遠慮気味な声が、夢と現の間を漂う私の意識を呼び戻した。
「…起きているよ。」
体の向きを変えると、ぱっちり開いたきれいな形の目に視線がぶつかった。
「君はカフェインに強くないのだね…」
 首と枕の間に私の腕が入るのを、そうするのが当然だとでも言うように紫龍は頭を浮かせて待つ。星明かりがしなやかに広がる髪を照らし出す。
 愛しい頭の重み。体温と鼓動。
 やや間があって、紫龍は腕枕を外れ私の顎の下に顔をうずめた。自然と抱える格好になり、こんなとき母親だったら子守歌を聞かせるのかもしれないと思いながら私はその体を包んだ。
 肩から背にかけて撫でる。指で髪の毛を梳く。
 それで済むはずだった。
 けれどぎこちない唇の動きを喉頸に感じたとき、抱きたいと思った。




 寝巻の紐を外して直に触れた肌は温かく滑らかで、肩口を指先でたどると紫龍は密やかに息をついた。
「今日は何もしてくれないのかと思った…」
ようやく聞き取れるぐらいの声で漏らされた恨み言は甘美な響きで、袖を抜き上腕の内側を軽く舐め上げれば、せつなげに呼吸を乱し始めた唇から責めの言葉がこぼれ出す。
「もう…飽きられたのかと思ったっ…」
そんなはずないじゃないか。
「『おやすみ』と言って、すぐ向こうを向いてしまったから…!」
 口を塞いだ。最初から閉じられていなかったから、舌は容易に触れ合った。




 多分、どこもかしこも開け放たれていたのだと思う。私を受け入れるつもりで紫龍は既にほどけていて、小さな刺激にも全身を震わせ、わずかに揺すっただけでも艶やかな声を上げて仰け反った。
 自力では形を保てず、すぐに崩れてしまう肢体を支えてやる。しかし安定は長く続かない。次の場所へ進む前に、私はまた改めてその心もとない手を握り直す必要がある。
 「ムウ…いつもと違うっ…」
苦しげに歪めた目で紫龍はそう訴えた。
「どう違う?」
激しい感じがする、と答えがあり、辛いかと重ねて問えば、息を弾ませたまま大きくかぶりが振られた。
 いつもと違うのは私ではなくて君だと言おうとしたが、やめた。そう言い切る自信がない。
 はじめて君のほうから求めてくれた。











 20050329






 幸せを噛み締めるムウ様。喜びのムウ様。よかったねムウ様!





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