月が見ている




 南の窓から月が覗く。
 満ちた形でこの時刻、ひと月ごとに監視に来る。


 初めは味方だと思っていた。
 愛しい人の姿態を照らし出す光の束。
 重ねた腕も、幾筋にも広がる髪の流れも、余すところなく見届けられる安らぎ。


 目で、指先で、唇で。
 辿るべきすべての場所を教えるように。


 月が照らす。光が溢れる。体中で受け止める。


 いつからこんなに苦しくなった?


 晒されて、映し出されて、いたたまれない。
 切り裂かれた闇の隙間に浮かぶのは、罪の意識。


 「月が見ている。」
 紫龍が困惑して漏らす言葉に、ムウはゆっくりと窓を仰ぐ。


 そう。また廻って来た。
 無情に輝く満月の、無言の責めに耐える夜。
 心の奥深くへ埋め込んだ暗い欠片と、否応なく向き合わされる夜。


 月が見ている。監視している。


 来月も、再来月も。
 同じように同じ形で。


 断罪しに来る。


 青白く研いだ刃をふたりに突き立てて。







 20040123




 規則正しいジャミール生活。就寝時刻は常に一定。
 そしてすっごく細い窓!
 (でなきゃ自然科学的に辻褄が合わないのではないかと…うう、不安…。)


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