甘い葡萄 苦い種 誕生日






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 部屋に戻った私が見たものは、棚に置いてある箱の蓋を慌てて閉じる弟子の姿だった。
「貴鬼…どうした?」
不自然な形で両手を背に組み、後ずさりをしながら、決して視線を合わせようとしない貴鬼の目は、怯えの色を呈していた。
 それでも私はまだこの状況を把握出来ずにいた。
 私は不審に思い、下を向いたまま私の横をすり抜け部屋を出て行こうとする貴鬼の腕をつかんだ。
 バラバラと小銭が床に散らばった。
「何だ、これは…」
いつの間にか私と頭1つ分しか違わないところまで背丈が伸びた貴鬼は、観念したようにこちらに向き直ると、チッと舌打ちをした。その表情にはもう怯えなどなかった。ただ、反抗的な気配が体中から立ちのぼっていた。
「金が欲しかったんだよ!アンタがくれる小遣いじゃ足りないんだよ…!」
 呻きに近い声を聞きながら、ようやく私は気がついた。
 この子は、私の知らない貴鬼になりつつあるのだと。





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