Origin of KinemaClub
 さて、我がキネマ倶楽部は写真で分かるように、多分に猥雑で奇怪な色合いを出している。何かが棲みついている、という噂も聞いたことがある。
 自分もそう感じる事がある。何かが囁きかける。そんな時、何か変な事をしてしまう。芝居の話があれば出てみたり、映画に出ないかと誘われれば、すぐにのったりしてしまう。
 そう言えば、この囁き声はずっと昔から聞こえていた気がする。

 高校時代、学校に行かないで映画を毎日観に行ってた時や、田舎の本屋で何気なく寺山修司の『家でのすすめ』を手にした時も何か聞こえていたような気がする。と言うことは、囁き声の主は、(私は、これをキネマの怪人と呼んでいる。)店のなかではなく、私のなかに棲んでいるということになるかもしれない。思えば、自分の人生の節目節目は、この声に支配されていたのかもしれない。そして、そのことに関して、ある程度満足している。
 つまり、私は、キネマの怪人を信用しているのだ。『キネマ倶楽部』は自分にとっても納得のできる空間なのである。

 ところで、店の名前は今のところ、5つある。キネマ倶楽部、商船テナシチー、映画的珈琲空間、幻想的キネマカフェ、バック・ドア・ブルース。店の名前は、1つで十分と言えない事もないだろうが、名前が、物事と関わる動機になることもよくある。だとすれば、それは多いほうがいい。一応、お上に登録してあるのは『キネマ倶楽部』だが、全てを合わせて個々のなかでイメージしてもらえば、とも思っている。

 因みに、最近新しく加えた名前がバック・ドア・ブルースである。本来は映画のタイトルで、どんな話かも忘れてしまったがその題名は印象に残っている『人間は、その人生においていつも裏側に大きな河の流れを眺める窓をもっている。』という、誰かのことばを思い出したからかもしれない。キネマ倶楽部も表から普通に見える物事も色々な様相を呈するのを観る裏窓の、入り口になれればとも思う。  ところで、ここは飲むところ。主役はあくまでも酒。映画は脇にまわってもらっている。
Photo by 山口裕朗