色いろ話12 日本人の複雑な食欲色

     

  

 食欲をそそる色と言えば、赤・黄などの暖色というのは、誰もが気がつくところ。そして、忘れてはならないのが、プラス緑色ですよね。でも、それで済むのは欧米人の話。
忘れてませんか?日本人の食欲をそそるためには、赤・黄・緑に加えて白と黒がなくてはならない色なのです。
特にこの猛暑(2004年夏)では、白と黒は、食欲がおちて夏バテになりがちなのを救ってくれる色でもあるわけです。
例えば、この暑さの中では、そうめんや蕎麦に、のりやわかめ、ねぎ等の組み合わせをよく見ますよね。
白は、日本人にとって特別な色で、純真無垢なけがれのない色です。それは神の色であり、白蛇、白鳥、白鶴、白酒という言葉などにも象徴されます。また、欧米人が食品の色として考えない黒も、滋養の高い特別な色として日本の食文化を構成しています。
白は、例えば、豆腐、ねぎ、大根、れんこん、とろろいも、ご飯、餅、うどん、そうめんなど、黒は、ひじき、昆布、黒ごま、のり、わかめ、小豆、しいたけ、蕎麦など、いろいろあると思いますが、けっこう和食っぽいものが多いことに気づきますよね。そして、食欲や栄養の偏りがちな季節にも、エネルギー分やミネラルなどを多く含んでいて私たちの健康を支えてくれているわけです。

 
 例えば、欧米人の食生活はというと、肉中心で、血のしたたるようなレアな赤い肉の色が見慣れたおいしい色であり、食欲を刺激する色。
野菜類もトマトやニンジン、赤カブといった赤色野菜が優勢で、家庭で作る大量のジャムや、赤ワインといったように、食生活で占める赤の割合が非常に多い民族で、そのうえ赤は欧米人の最も好む色の一、二を争う色と言われています。
 そして、その赤をより映えさせるための補色にあたる緑、赤に続いて食欲を喚起させる暖色の黄色という色あいが食の三原色になるわけです。
 もちろん日本人にも赤、緑、黄の食の三原色はあてはまるわけですが、日本人はもともと農耕民族で、獣肉よりも魚食を伝統としている点などから、食欲色も微妙に違ってくるんですね。
最近は欧米風の食習慣の導入が目立つとはいえ、永年培われた日本的ミーム(人間の文化を伝達する自己複製子)はそうそう変わるものではないよう。
また、日本の文化的風土には、儒教や仏教の影響を受けた自然同化型の文化という一面があって、その特徴の一つに、「あいまいの美」という観念があります。それは、
日本人の美意識や感性の中心的な特徴を形成していて、食の色にもそれは大きく影響しているのです。
なので、欧米人が割合彩度の高いはっきりとした色あいを食欲色とするのに対し、日本人は煮物のような彩度の低めのあいまいな色あいも食欲色とするなど、日本人の食欲色は多彩で複雑。
 色と栄養も相関性が高いものですから、あるゆる色あいをバランス良く取り入れた、彩りのよい食事にすることによって、栄養も、視覚的・精神的満足度も高くなるはず。
是非、赤・黄・緑+白・黒の食の色をお忘れなく。