声が聞こえたんだ。
ずっと遠くから、消え入りそうな声が。
そのくせ切実で、強く強く俺を呼ぶ声が。
「…………うるさい」
「ねぇ、あなたに頼みたいことがあるの」
意識がはっきりしたら、眠りを妨げた奴を切り裂いてやろうと思った。
だけど視界に飛び込んで来た女が、あんまり真っ直ぐ見つめてくるから――……
「……なんだよ」
聞くだけ聞いてやろうと思った。
「私の……私の子供と、その子孫達を、あなたの力で守って」
「…守るって、何からだよ」
「迫り来る全てのものから」
「嫌だね。なんで俺がそんな面倒くさいこと……」
「お願い」
それが何を意味するかは知らなかったけれど、そいつの唇が俺に重ねられた瞬間。
冷たかった全身に熱が宿り、暖かい何かが駆け抜けた。
思考の波が押し寄せ、知らなくて良いモノまで知ってしまいそうで恐怖を感じた。
恐怖を感じること自体が俺にとっては恐怖だった。
今までの自分が、全て土台から崩れてしまいそうで……
「…っ、何を……」
「阿古屋の一族として、そなたに私の力の全てを与える。我が命に従い、我が子孫をその命に代えて守れ」
「貴様っ!!」
「我が名は阿古屋玲子、ここに契約を交わす!」
「一馬」、それが俺に与えられた名前。