1995年、フランスパリ大学のRavinaらが子宮動脈塞栓術(Uterine Artery Embolization : UAE )を子宮筋腫治療に応用した報告を受け、1998年にこの治療法を開始し25年となり国内外4100名(2023年1月まで)以上の患者様に施行することができました。2014年には塞栓物質であるエンボスフィアが子宮筋腫に対して保険適用となったことを受け現在は年間約150~300例のペースでUAEを実施しております。
子宮動脈塞栓術は大腿動脈からカテーテルを挿入して、エックス線透視を用い、子宮動脈まで挿入します。私の恩師が考案した毛利型カテーテルを使用しています。カテーテルは外径が1.3mmです。さらに細いマイクロカテーテルを併用してカテーテル先端を子宮動脈水平枝から上行枝まで挿入し、そこから塞栓物質という細かい粒子を注入します。塞栓物質にはエンボスフィアを使用し、血管造影所見に応じて塞栓物質のサイズを調整します。塞栓物質は血流にのって子宮筋腫・子宮腺筋症を栄養する動脈を塞ぎます。左右の子宮動脈にこの操作を行ったらカテーテルを抜いて終了です。手技は通常30-60分程度で終了し、2時間の安静ののち24時間以内に歩行可能、48時間後には退院できるほどに回復いたします。X線透視時間も通常10分程度です。私の手技時間の平均は47分でした。
尚、エンボスフィアは痛みが少ないのがメリットです。
デスクワークは1週間後、肉体労働、激しい運動は2週間後から可能なほど回復が早く、腹腔に癒着ができにくいのが大きなメリットです。当然ですが腹部には手術の跡は残りません。またUAE後の卵巣機能に関しては45歳以上でUAEを受けた場合に5-10%の患者様に機能低下が認められるのみで、子宮全摘術後の数値と比較しても高くなく、2009年のAmerican Journal of Obstetrics & GynecologyではUAEの有効性、安全性が明確に述べられています。
適応が適切であればほとんどの子宮筋腫症例でUAE前にあった過多月経、月経痛、貧血、圧迫症状から開放されます。過多月経、月経痛は大部分がUAE後第1回目の月経時より改善されます。特に子宮腺筋症に対してUAEが奏効した場合は激烈な月経痛、過多月経から開放されUAEが治療の選択肢になり得ると考えております。これまでは子宮腺筋症に対するUAEの問題点として“UAE前に治療効果があるかないか”の判断がつきにくかったことがあげられますが、最近の研究により術前に有効な腺筋症かそうでないかの判断がつくようになってきました。従来、子宮腺筋症は手術療法、ホルモン療法以外はことごとく無効でしたのでUAEを行う価値はあると考えております。また子宮筋腫に関しましては米国では乳製品を多く摂取する女性は子宮筋腫の発現頻度が低いというデータがあります。乳製品を摂取することが筋腫の発現、成長をうながすというのは誤りです。
子宮筋腫はエストロゲン依存ということから閉経までは増大し続けると考えてください。また生活習慣で発現しやすくなると言う事もなく、体質改善といったいわゆる民間療法でも治らないことを銘記します。
UAEセンターでは1.5テスラMRI装置にて女性骨盤の画像診断を行います。UAE手技はフラットパネル搭載の最新式血管造影装置で施行しておりパルス透視、spot透視を利用し最小限の放射線被曝を心がけています。尚、術前に撮影したMRI画像はモニターに表示され患者様には懇切丁寧に説明をしております。UAEの血管撮影所見もモニターにて説明しております。UAEに要した透視時間、被曝線量も当然ですがお伝えしております。今後も更なる研鑽を積み妥協をせず患者様に優しい最高峰のUAE診療を心がけていく所存でございます。また精査の上、子宮動脈塞栓術の適応がなかった場合でも子宮全摘術はもとより、腹腔鏡下手術、子宮鏡下手術、子宮腺筋症核出術の熟練施設への紹介をさせていただいております。
子宮筋腫は子宮原発の平滑筋腫であり良性疾患とはいえ腫瘍です。決して自宅で治そうとはせず医療機関への受診をお勧めします。
日本第一例目の子宮動脈塞栓術後の正常妊娠・正常分娩を報告したのは私たちのグループであり40歳時にUAEを受けられた子宮腺筋症患者様は癒着胎盤もなく42歳で無事出産されております。核出術が困難であり他の子宮温存療法が有効でない場合はUAEの適応にしております。この場合、高いUAE後の妊娠・出産率を発表しているPisco医師らの方法に準じてエンボスフィアを塞栓物質とし筋腫周囲の血管網のみを塞栓(Partial uterine fibroid embolization)するようにさじ加減を調整しています。
UAEは個人技です。
UAEに使用される塞栓物質には比較的短期間で吸収されるもの、長期間吸収されないものに大別されます。いずれも安全なもので体内で溶けるということはありません。UAEの有効性は塞栓物質によってほとんど異ならないことが多くの報告で明らかになってきています。結局は術者の経験と技術に負うことが大きいのです。子宮筋腫の塞栓物質として現在厚生労働省の認可を受けているのはエンボスフィアのみですが私はエンボスフィアでのUAEを1500症例以上経験し、エンボスフィアがゼラチンスポンジ同様に安全性の高い優れた塞栓物質であることを確認しました。また長年の臨床経験、内外の文献からエンボスフィア、ゼラチンスポンジそれぞれの特性を熟知しており、いずれも塞栓物質として使用してベストと思われるUAEを施行しております。塞栓物質に関してはご安心ください。
子宮動脈塞栓術に関する医学公開講座を定期的に開講し、子宮筋腫・子宮腺筋症に関する最新の情報を交えて皆様にわかりやすく解説しております。質問の時間も設けておりますので聴講していただければ幸いでございます。
『確立』された治療法を『安定』供給します。
そのUAE私が引き受けましょう!
こんにちは。私がUAEに従事したのは1998年10月です。今から25年前です。この25年間はUAEを継続して行って4100例以上を経験いたしました。当時私は38歳でしたが今では治療の対象となる患者さんのほとんどが私より若い世代となり、少しはモノが言える年齢となりました。
さて子宮動脈塞栓術(UAE)はいわば『筋腫の細胞を身体の中で壊死させていく処置』であり、すでに20年以上の歴史があり欧米ではもはや最新治療ではありません。現在は年間150~300例ペースでおこなっておりUAEは私の最も得意とする分野です。もちろんUAEだけでなく血管内治療全般も継続して行っています。私はUAEの診療を経験して患者さんがいかにおなかを切る手術に抵抗があるかということを実感しています。手術がいやなのは私も同じです。子宮筋腫は良性で直接命を脅かすことはないので手術は最後の手段であるべきと思っております。
川崎市立井田病院時代は井田病院が結核病棟を有しており、手術不能な結核患者さんの喀血が多く、気管支動脈塞栓術(BAE)の症例を多数経験しました。また透析センターを有しており、透析シャントの狭窄に対する血管形成術(PTA)、下肢動脈閉塞に対するPTA、ステント挿入術を多数経験しました。川崎市立井田病院は消化器を得意としていたため、肝臓癌、転移性肝癌に対する動注塞栓術、リザーバー植え込み術も多数経験しました。また頭頚部の悪性腫瘍に対する動注療法、髄膜腫に対する術前塞栓術なども経験があります。このようにカテーテルを使った治療を画像下治療
(IVR : Interventional Radiology)といいますが、大抵の領域ならばこなします。葉山ハートセンターではUAEを多数(840症例)経験させていただきました。特記すべき事は、私自身が主治医となり初診外来から施術、術後管理、経過治療を一貫して行いえたことです。この経験からどういった子宮筋腫が動脈塞栓術に合っているのか、施術後はどのような経過をたどるのかを熟知していると自負しております。適応がもっとも大事です。診療を支えてくださった皆様に深く感謝いたします。
UAEで最も神経を使うところは、患者さんは健康な人なので健康なまま退院させなくてはならないということです。基礎疾患を持っていない人に対する画像下治療なのです。カテーテルを使った治療は一見すると低侵襲に思えますが、ひとたび合併症を起こすと重篤となります。たとえばカテーテルやガイドワイヤーで血管を破ったり、血管を突付いて動脈瘤を造ってしまった場合などです。もちろんそうならないように細心の注意を払いますが、そうなった時も同時に治療する技術も持ち合わせていなくてはなりません。UAEはその治療効果、侵襲の低さ、安全性、回復の早さから21世紀の子宮筋腫治療の大きな柱となりつつあります。
なによりも患者さんがUAEをして良かったと思うことが一番大切と考えています。このためUAE適応は厳格にしています。
MRIがあれば初診日にUAE適応を決定し、施術日も決定する方針ですのでいつUAEを受けるかをお考えの上、受診ください。
通常1ヶ月以内に施術いたします。現在UAEを希望されて受診される患者さんの60-70%が適応になっています。つまり30-40%の患者さんには適応がありません。
適応外の最も多い理由は『大きすぎる。』ことです。すなわち受診する患者さんのうち3人に一人は子宮筋腫が大きすぎるためUAEの適応外ということです。子宮筋腫が大きくならないうち、早めの受診をお勧めいたします。
UAE適応ですが具体的には
1)子宮筋腫がある
2)子宮筋腫による症状(過多月経・月経痛・圧迫症状)がある
3)2)の症状は1)によるものである。
を満たすことは最低条件です。
尚、偽閉経療法(GnRHa;リュープリン、ナサニール、スプレキュアetc、およびレルミナ)中は子宮動脈が収縮しており子宮動脈へのカテーテル挿入が難しくなるだけでなく、塞栓効果も低下することが知られていますので、偽閉経療法終了後もしくは中止後2-3ヶ月ほど経ってからUAEを行うことが望ましいと考えられています。
当院でのUAEの適応
筋腫が子宮内膜面と十分に距離がある場合であれば臍の高さまでなら適応としています。粘膜面に露出している場合は経産婦は10cm、未産婦は8cmまでならば、筋腫に感染を起こした場合でも経膣的切除が容易ため適応にしています。2010年5月から2018年10月現在まで東京UAEセンターにて実施されたUAE1591例中UAE後に感染をきたして子宮全摘となったのは1例(0.068%)でした。
治療には放射線被曝を伴います。したがって手技は早ければ早いほどよいと考えています。
子宮腺筋症の動脈塞栓術にも取り組み良好な成績を収めています。
子宮筋腫に対する動脈塞栓術に関しましては適応、手技、疼痛管理法、術後のフォロー等、全て確立しております。
UAE後は痛いといわれているようですが心配はありません。(エンボスフィアはゼラチンスポンジよりも疼痛が少ないです。)