先に断っておくと、このページの目的は別に映画批評ではない。
「批評できるほどの智識もなにもないもんね」
…己は静音さんとは違った意味でキツイな。
「正直者ですから」
時には歯に衣を着せるのも円滑な人間関係を歩むうえで重要だぞ。
「それをアタシに言うのは喧嘩売ってると受け取っていい?」
あっ…ごめん。
まぁ、オレが構わなければいいか。
「そうそう、男の子なんだから細かいことは気にしない、ね」
へいへい。
―――で、とにかくここでは映画の内容に関してはほとんど触れません。
そう言った趣旨ではなく、今回はそのタイトルについていくつか気づいたことを。
では、恵空さん、進行よろしく。
「はい、もうすでになんだかキャラを持て余され気味ですが…負けずに頑張ります」
いらんこと言わんでいいから。
「えっとですね…<千と千尋の神隠し>の国外版タイトルの話です」
正確にはドイツ語と英語と韓国語だな。
「はい、まずは…ドイツ語の翻訳について」
<CHIHIROs REISE INS ZAUBERLAND>
直訳すれば…<千尋の魔法の国への旅>か?
「う〜ん、個人的なフィーリングで言うなら<魔法の国の千尋>…カナ?
たぶん、翻訳者は狙ったんだと思うんだけど、ルイス・キャロル原作の名作、
<不思議の国のアリス>のドイツ語タイトルが<Alice im Wunderland>で、
言葉の響き的に近いから…ドイツ人ならタイトルを聞いたら必ず思い出すと思うし」
確かに、それはある。
「それに、両方ともある意味ではわけの分からない話であることに違いはないよネ」
なかなか危険な発言だね。苦笑
確かに<不思議の国のアリス>は夢オチの不可思議な意味のわからん話しだし…
<千と千尋の神隠し>も多分に日本的だから日本人以外には分かり難い話だもんな。
「うん、だからそう言った意味では悪い翻訳ではないんだけど……
個人的にはかなりNGだよね、このドイツ語版のタイトル」
そうなん?
「なんていうかな…<魔法の国>っていうのがね、やっぱり違うと思うんサ」
あぁ、<神隠し>の翻訳は難しいと思うよ、やっぱり。
「そうなんさねー、ほら、韓国語って90%以上日本語と同じ文法で…
今のところ唯一まともに翻訳ソフトが動く言語なんサ。
でも、その韓国語版のタイトルが―――」
<セン ゴア チヒロ ウイ ヘンバンブゥルミョン>
「…っていうのには正直ビックリだったよ〜」
いや、韓国語で言われても分かりませんがな。
というか、中途半端にカタカナだし。汗
「うっ…うるさいなあ、韓国語の発音は難しいんだもん」
そう言う事にしておこう。
「くっ…なんか理不尽に悔しい」
ははっ。
まぁ、とりあえず解説よろしく。
「えっと…さっき言ったように韓国語は日本語と90%以上文法が一緒で、
特にこの場合は熟語も含めて100%なんだケド…」
とりあえず最初の<セン>っていうのは<千>だな。
もちろん真ん中当たりの<チヒロ>も<千尋>だろうな。
「うん、さらに<ゴア>と<ウイ>はそれぞれ格助詞の<と>、<の>にあたるから…」
<千と千尋の〜>ってのは、正にまんまだな。
「ふふふ、驚くのはまだ早いんサっ!」
え?
「<ヘンバンブゥルミョン>は<ヘンバン>が<行方>で、
<ブゥルミョン>が<不明>だから…」
<千と千尋の行方不明>かいっ!
「あははっ、さすがにそれは無いよね〜」
う〜ん、さすがの韓国にも<神隠し>の概念は存在しなかったか…
「ある意味では正解なんだけどね、<行方不明>も」
しかし、なんだか日本人的語感では、それは微妙だろう。汗
「なんていうかな…<行方不明>ってさ…
実際にはどこにいるか当てることができるんだよね」
は?
どういう意味だ?
「ほら、ちょっと馬鹿みたいな言い方だけど…
生死はわかりませんが、この地球上のどこかには居ますって言えばさ」
まぁ、そりゃそうだわな。
「でも、<神隠し>ってさ、それすらも分からない…
現実問題としてそれが起こり得るか否かは議論しないケド、
その概念としては、この地球上のどこかに居るかどうかすらも分からない」
なるほどね。
「だから<行方不明>は<どこにいるか分からない>という点では正しいケド、
その先の広がりというか…端的に言って神秘性が著しく欠けて聞こえるんサ、ね」
ふ〜ん、じゃあ、やっぱり<千と千尋の神隠し>は日本語でしか無理な表現か。
「元々が日本語だから、それ以外の言葉にしろということ自体、
根本的に人間の言語と理解能力の限界の証明なわけなんだケド…」
けど?
「英語だけはナカナカ…言いえて妙」
ほう。
<Spirited Away>
おおお、いいね、この訳詞は。
「韓国語訳の場合は<物理的に行方不明>という翻訳の仕方だったケド、
この場合は<精神的に行方不明>という意味合いが前面に出てるから…
個人的に、翻訳者へぐっじょぶッ!」
少し話は戻るけど…
それを言うなら、ドイツ語でも、似たような表現は不可能なのか?
「えっとね、一応<entgeistet>って言う<魂が抜けた>みたいな言葉はあるんサ…」
なにか問題ありか。
「うん、この表現はね、ドイツ語の中の慣用句表現として
<魂が抜けるほど驚いた>っていう意味であまりにも定着しすぎちゃってるから、ネ」
単語元来の意味合いはとにかく、使用法として別の意味をすでに内包しているのか。
「イタリア語とか、個人的には中国語の翻訳がすごい気になるケド」
英語の翻訳を越えることはなさそうだな。
「一応フランス語の訳は知ってるケド、ね…」
<Le Voyage de Chihiro>
ドイツ語と発想的には同じだな。
「うん、ただ<voyage>っていう動詞は見ての通り<旅をする>なんだけど、
古典的な言い回しでは<幻覚状態>とかも意味するみたいだから…
そこら辺は、フランス語に関する語感が皆無だから、どうなんだろう?」
どうなんでしょう?
|