コヨーテ No,34 大澤 悟

支払いをして外に出ると冷たい風が吹き付ける。足元を見る。すると黒と白の体をした小動物がちょこちょこ歩き回っている。一体何者だろうか。まあいい。マズウィック・ロッジに向かって歩き出した。

ブライト・エンジェルを離れて行くに連れ暗くなっていく。明かりも無く、しかも森の中の道などでこわい。でも、月は満月だ。これは何かが起こりそうな予感がする。それにしても、何故こんなにテクノロジーが進んだ時代に月の光だけを頼りに歩かなければならないのか。

話をもどし、本当の本当に暗い。カメラのフラッシュを炊きながら歩こうとしたが面倒なのでやらなかった。仕方がない。気持ちを集中させて、目をこらして進むしかない。と思った矢先、50メートルくらい先程前方に白い動物がうろうろしているのがぼんやり見える。
馬よりは小さいが、犬よりは大きい。「も、も、も、もしかして、コ、コ、コ、コヨーテだ。」ど、ど、ど、どうしよう。イヤ,イヤ,イヤ,イヤ。死にたくない。まだ12年しか生きていないのに。食われたくない。ブライト・エンジェル・ロッジに急いで引き返して、乗せてもらいたい一心で手を挙げるが・・・ダメだ。

コヨーテはまだうろうろしている。ど、ど、ど、ど、どうしよう。動物に食われて死ぬなんて。そんなの最低の死に方だ。心臓は高まりもうパンク状態だ。必死に落ち着かせようとするが,思い通りにならない。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。

とそのとき4人のグループが車を開けて乗ったので、お父さんが交渉に当たるが・・・定員オーバーで断られてしまい、何も考えられない私達をしりめに、行ってしまった。
どうしよう。どうしよう。もうとるべき手段は無いのか? 前方を見ると・・・おっ。シャトルバスが止まっているではないか。乗ろう、乗ろう。ということで前後左右上下を十分に注意しながら、命懸けでバスの所に行き、乗った。
ふっ、よかった。食われなくて。さて、バスが動き出した。鉄道の踏み切りを渡って、右にはマズウィック・ロッジが見えるが・・・ちょ。ちょ。ちょ、ちょっと、どこへ行くの。バスはマズウィックの前を過ぎて、今は使われていない線路を渡って、同じく今は使われていない駅の前に止まった。また歩かなければならないではないか。

"命の恩人"を降りて、駅を抜け、線路を横切ると、草っぱらがあった。どうしよう。何か出てきたらいやだ。と思い、走って抜ける。そしてロビーの前を通り過ぎ、木が生い茂った道を、上からへびが落ちてこないか、横から動物がおそってこないか、などの点に十分注意しながら部屋に向かうが、どこにあるのかわからなくなってしまった。えっと、ロビーがあっちだから・・・やっぱりここだ。部屋に向かい、入る。ふっ。ため息がでる。


今日はじめて生死の境をさまよった。しかし、本当にこわかった。もう大丈夫だというのにまだ心臓は高鳴っている。でも、こんな体験は滅多にできない。きっと、良くは無いが思い出として残るだろう。永遠に。さて、時計に目をやると、もう10時30分を指している。明日はサンライズを見るため、目覚まし時計を4:45にセットし、寝た。


トップ