知らないはずはないだろう




 君も私も爺っ子同士。早い朝には慣れっこ同士。
 怖いものだね、身についた習慣。
 鳥より先に目が覚める。
 「湖を見に行く約束でしょう?」
 だけどまだ少し早すぎはしない?
 水面も空も同じ色して境界線さえわからないよ、紫龍。


 そこで私が不埒な提案。
 もうちょっと明るくなるまで待とう。
 時間つぶしの楽しみだったら、幾らでもある。尽きぬほどある。
 「…………。」
 清く正しく美しく成長してきた君だから
 何と返事をすればいいのか困った顔で目をそらす。


 体を寄せ合い目覚めたときに歴然と知れるその機能。
 隠すつもりもないのだし、言い訳するようなことじゃなし。
 生理現象だけではないとわかっていても聞くんだね。
 「朝だから、ですよね?」
 君はどうなの。
 逆に聞いたら、多分あなたと同じ理由でと答えた。


 梳くまでもなく滑り落ちる。恐ろしいほど癖のない髪。
 絹の手触り、香りは茉莉花ジャスミン。
 同じシャンプー使っているのにどうしてこんなに違うのだろう。
 「昨日もあんなに…。」
 清純、清澄、清烈、清白。
 「清」の付く言葉がよく似合うね、紫龍。


 そんなつもりはないのだと無知で無邪気なふりをして。
 今更それはないでしょう。
 ゆうべ覚えたばかりのことを眠りとともに忘れたの?
 「耳に息がかかる。」
 そうだよ。わざとそうしている。
 理性の際まで追い詰められてゆく君が見たくて。


 嫌なら嫌だと言わなければ途中で止まってなどやらない。
 拒絶されたらやめるけどそうでなければ戻らない。
 先回りして思いやるほど私は優しくないのだから。
 「もっと弱くして。」
 夜は大胆。昼間は貞潔。
 じゃあ起き抜けだとどうなるの、君は。


 知らないはずはないだろう。
 いつしか本気になる過程。
 知らないはずはないだろう。
 逆行できないメカニズム。
 知らないはずはないだろう。
 君も私も合致するベクトル。
 知らないはずはないだろう。
 暴挙の果ての蜜の味。


 驚くほど素直に飛び込んで来たかと思えば、
 脱ぎ捨てやすく緩めた紐をいちいち結び直す几帳面。
 プライドに抵触しないギリギリで何度でもほどいてやる。
 「顔を見ないで。」
 後で必ず、顔が見えなきゃ不安だと言うくせに。
 だからいつも正面から抱き締めるのに。


 あとわずかで届いてしまう地点へ連れて来ておきながら、
 心にもない言葉を吐く私は大嘘つきだけど。
 どうする。明るくなったけど、すぐにでも湖へ行く?
 「早く行きたい。」
 君も嘘つき。喜んでいる潤み。
 それとも違う意味のほう?どっちだ。はっきり…。


 すらりと伸びた足は腰に。滑らかな皮膚の腕は首に。
 君は蔓草。
 ほんの少しの風にも柳のように細い葉を揺らして。
 「…早く…。」
 青い蔓草。
 急かさないで追い出さないでもっとゆっくりしていたい。







 20040716




 「起き抜けだとどうなるの」って…別作品中で既に試しているじゃないですか、ムウ様…。

 それともあの朝、最後まで到達できなかったのでしょうか?
 何か事情があって…例えば、

 a.貴鬼が起き出す気配がしたからやめた。 b.紫龍の気が変わって拒否された。 c.ダメだった。


 すすいませんすいません私本当にムウ様ファンです馬鹿になんかしてませんすみません男性蔑視?
 うわわそんなつもりありませんすみま(延々と続く)・・・・・・・


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