連載コラム
第27回 久しぶりにちょっとまじめな話

 耐震偽装問題は、イーホームズ藤田社長と「きっこのブログ」ががんばっておられるようでなによりですが、この一年くらいの間に、構造設計について、その存在が、専門のメディアにとどまらず、多少なりとも世間に認知されてきたことだけはよかったかなと思います。昨年来の実施設計に一区切りついたところで、数ヶ月ぶりにコラム更新いたします。

 さて、12月27日の朝日新聞ホームページに以下の記事がでていました。

『国土交通省は27日、過去5年間に建築確認された10階建て程度のマンションを全国で無作為抽出して調べたところ、221棟のうち約7%にあたる15棟で強度不足のおそれがある、と発表した。(中略)新たな強度不足の疑いが浮上したことについて、国交省は「疑問のある設計がなされ、建築確認されたことは遺憾。確定後、厳正に対処したい」としている。』

 国交省が遺憾ですなんて言っている場合ではないと思いますが、つまり、この報道が正しければ、新築マンションの所有者の7パーセントは、耐震上の問題ありのマンションを持っているということになります。これは、一般のユーザーにはかなり衝撃的な数字ではないでしょうか。つまり、最低限の設計業務を怠っている設計事務所の割合が7パーセントということです。

 弁護士、医者、会計士、建築士にはそれぞれに求められる国家資格がありますが、私の憶測では、どんな職業も、国家資格の有無にかかわらず、職業意識が高く優れた業績を残そうとしてがんばっている層が5パーセントくらいいたらかなりよい方、普通にこなしている層が90パーセントくらいで、問題ありが5パーセントくらいは必ずいると考えると、まあそんなものかなという気がします。問題がありそうな先生がいると思えば、小さなお店に知的でキレるママがいたりしますよね。アルモドバルの「バッド・エデュケーション」のようなことだって、それほど特殊なことでは無いようです。

 とはいえ、建物は、個人がつくるものではなくて、施主、意匠、構造、設備、施工者、職人、審査機関をはじめ多くの人の意識が統合されてつくられるわけだから、どこかでだれかひとりでもおかしいと気づけば、必要な是正が繰り返されてすすめられます。また、構造エンジニアは、工事で起こりうる不具合を見込んで多重の安全を見るのが鉄則です。にもかかわらず、問題になっている建物でこうした幾重ものフェイルセーフが機能しなかった原因は、建築士の能力やコンピュータソフトの問題だけに留まらず、そういう輩に委ねる事業主を含めた関係者の無意識にあると思います。権力や権威で一方通行の関係を築けば、ものづくりは破綻するわけで、実際に土に触れている職人から教わることこそ、価値のある情報ではないでしょうか。

 のんきなことと思われるかもしれませんが、資格制度や法律を少しばかりいじったくらいで問題は変らないわけで、できれば上位の5パーセントをみつけるべきだし、間違っても下位の5パーセントを避ける方法を考える必要があるのです。情報過多の時代に、価値ある情報を得ようとすれば、今も昔も変らずそれなりの努力が要ります。「7パーセントは偽装ですけど。なにか?」という国の声明があるとはいえ、馬券や宝くじとは違って、大切なものを自分で選べるかぎりにおいては、そんなに難しいことではないと思います。(二宮)

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