連載コラム
第28回 よいアイデアを発展させること

 先日、私が指導している明治大学の設計スタジオで、作品講評会をおこないました。自分の提案の良さに気づかず、うまく説明できない学生もいれば、初期のアイデアの選択を間違えていることに気がつかないまま、評価に納得のいかない学生もいます。最終的に参考作品2点を選ぶのですが、私が一方的に選ぶわけではありません。学生に意見を出してもらって全員が納得するように理詰めで決めることが最重要なことと考えています。

 昔々、私が学生だった頃の話になりますが、ロンドンのAAスクール大学院スタジオで設計コンペがありました。スタジオの先生がテヘラン国際空港ターミナルの基本設計委託を受け、初期のアイデアを院生に募るとのこと。一等賞金50ポンドをかけて、20人ほどがプレゼンテーションをおこないました。最終的に3つの作品まで絞られたところで、議論も出尽くした感がありました。一等が決まらない状況を見かねて、建築思想家のジェフリー・キプニスが3人の学生に質問しました。

「賞金を分割するか?議論を続けるか?」

「分割したいです。」ゴードン・ハリー(スコットランド)

「分割するのに同意します。」ヒロシ・ニノミヤ(日本)

「議論を続けよう。」マーク・ウィルソン(ニュージーランド/オランダ)

キプニスは、半折りの50ポンド紙幣を、マーク・ウィルソンに向かってぽんと投げたのです。

他の参加者も私の案が一番よかったといってくれ、今でもそう思うのですが、むしろ、スマートさを装ったたったひとつの不正直が、よいアイデアを台無しにしてしまうことを知ったのです。

 私の学生は、「賞金もらえるならもっとプレゼンテーションがんばる!」とかいうので、「次の課題では、参加費ひとり千円を徴収する」と言っておきました。(二宮)

 

 

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