連載コラム
第29回 こどもの絵本から

 洪水で大海に流された自宅が、世界中の名所を巡っていく夢を見た少年。同じように近くを漂う友達の家。眠りから覚めると、彼女も世界中を巡りながら少年がテラスから手を振っていた夢を見たという。

 こどもの夏休みの宿題に、気に入った本をお友達に紹介する為のコメントを書くというものがあり、たまたま、手に取った一冊に「ベンの見た夢」※という絵本がありました。文章は始めと終わりの数行で、頁のほとんどは精緻なモノクロのペン画で描かれた世界中の建築に充てられています。この巧みな構成によって、ことばが消え、絵の空間に引き込まれてしまう瞬間は、あまりに心地よく、まさに絵本というメディアの可能性を教えてくれるのです。

 建築を描きたかったのだろうかと思うくらい、迫力のある構図に描かれていますが、同時に、プロットをきっちりと組み立てて、ペンの力がより生き生きと感じられるようにしてあるところが、理論の組立てとデザインの技術がうまく混ぜ合わされた知的な建築のようでもあると思います。

 私たちの考える建築の議論の根底には、こういう混ぜ方があるよねと、パートナーの二宮にも、気に入った絵本として紹介しました(笑)。こども向けの絵本とはいえ、ものづくりの感覚を刺激してくれると思いますから、ご興味があれば、本屋さんで見つけてくださいね。(菱谷)

 

※ ベンの見た夢(Ben’s Dream)C・V・オールズバーグ 河出書房新社

 

 

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