連載コラム
第33回 塀で囲えば平和なまち?
ピッキング対策の鍵前や警報装置、防犯ガラスや監視カメラ、警備会社の契約などなど、防犯対策には心配事も商品ラインナップも尽きない感がありますが、遂には、アメリカの「ゲーテッド・コミュニティ」に倣って、居住地全体をまるごと監視カメラつきの柵で囲ってブランド化した分譲住宅さえも開発されつつあります。これがセレブのまちのお約束になるとしたら、個人的にはとても住みたくないですね(笑)。そのうち、隣人の動向にも怯えることになって、猟銃でも持っておこうかなんてことになりそうです。
以前イスラエル人の建築家に横浜を案内した際、私の家の屋上から見えるハウスメーカーの家やマンションが建ち並ぶ風景に「退屈さ」とか「醜悪さ」を感じるだろうと自虐的な想像をしていました。ところが、彼女は、しばらく辺りを眺め回したのちに、首を横に振りながら「ピースフル」とつぶやいたのがとても印象的でした。エルサレムは、パレスチナ人とユダヤ人を完全に仕切る壁を建設して調停しようというのだから、街並みが治安や心を映す鏡というわけです。そんなわけで、安全対策が万全なブランド住宅地が無自覚に目指しているのは、エルサレムと同じことかなと感じたりするのです。
私たちは雲や鳥の見える高窓や天窓を疑いなく楽しみますが、銃弾や投石を心配するひとはあまりいないでしょう。まちにはジュースやたばこの自販機が点在していて、たまに無人支払機が重機によって強奪されることもありますが、銀行員の不覚が非難されることはなくて、「お気の毒に」と思われるくらいのんきですよね。
私が今住んでいるのは、40年以上前に開発されたとてもありふれた住宅地の一角ですが、老人会の人々が、防犯の腕章やビブスをして町内の見回りをしたり、青色灯を自家用車の屋根にはりつけて巡回してくれています。子供会との連携もあったりして、顔見知りになる機会も多く、当たり前のことでもあるけれど、改めてすばらしい活動だと思います。
蛇足ながら、菱谷から「タバコを辞めるとずいぶん社会的なコメントを書くものね。」といわれました。べつに喫煙自体が反社会的なわけじゃないでしょ!(二宮)