連載コラム
第34回 断面図になった牛を見ませんか?
90年代中頃のロンドンは、その後、世界の現代アートの中心的な場所になっていく兆しを感じさせるエネルギーに満ち溢れていました。トレインスポッティングやオアシスといった映画や音楽とともに、サーチやテートといった先端的なギャラリーで公開されていた若手アーティストの前衛的な作品群は抜群に面白く、週末には、イベント情報誌「タイムアウト」を手に、いろいろな展覧会を巡っていました。今でも、まだまだ、当時のいろいろな作品が、世界中の創作家にとってアイデアのソースになり続けています。
現代アートの最高峰のイベントといわれるターナー賞は、その頃から、毎年、一般の新聞やテレビでも大きく取り上げられるようになりました。映画でいえばアカデミー賞のようなもので、マドンナや小野洋子がプレゼンターをやるくらいメジャーなイベントです。そういうわけで、理屈抜きに面白いのですが、なんと今、歴代ターナー賞を一同に紹介する回顧展が、4月25日から7月13日まで六本木ヒルズ森美術館に来ています。
当時の作品はどれも90年代の現代アートを代表する地位を確立しています。デミアン・ハーストによる牛の親子を縦に真っ二つに切断してホルマリンに浮かべた作品は相変わらず衝撃的で、同時に懐かしくもあります。狂牛病まっさかりの1995年、賛否両論入り混じる超話題作だったのですが、当時の作品が共通してもっている魅力というのは、(1)言葉に固定されない (2)緊張感のある (3)抜群のユーモア だと思います。それらは、決して子供だましではないけれども、子供にもわかるほど明快です。それから、ショッキングな出来事でありながらも同時に楽しく思えるものです。ロンドンの現代アートが、もはや一部のパトロンだけでなくて、まさに大衆に支持されている訳を知ることができます。(二宮)