連載コラム
第40回 ビル・カニンガムの究極の住まい
キッチン無し、バスルーム共同。部屋を埋め尽くすネガキャビネットと板を渡しただけの簡易なベッド。着の身着のままでクローゼットも無い。仮住まいなんかではなくて、仕事も名声も得てなお、カーネギーホールの上の小さなスタジオに住み続けてきたという。
マンハッタンの街角で、ストリートファッションを撮り続けて50年の写真家の生活を記録した映画「ビルカニンガム&ニューヨーク」を見ながら、都市に住むことを突き詰めると、ここまでシンプルに、かつ、豊かな人生を過ごすこともできるのだなと感じた。
都市に住居を設計することは、最大限要望を叶えようと、土地の狭さや予算、あるいは都市計画の要請と格闘することだ。そこでは、お風呂やキッチン、収納やリビング、趣味室やゲストルーム、庭木やガーデンファニチャーなどなどが、お決まりのように組み込まれていく。でも、メーカーの宣伝に踊らされがちな中で、それは無いほうがむしろ豊かではないかという可能性を考えてこそ、フィットする住まいが獲得できるのだと思う。
一方、都市を離れて自然の中に生活するほうがシンプルかと思えば、こんどは山小屋のように生活のための設備や工具、備蓄などが、ひと通り組み込まれていなければならなくなる。電気を得るための発電設備、薪や水や食料だって買いだめして、じつは都市に住むより、重装備が必要になる。
山や海に住めば、エコロジカルというイメージがあるけれども、皆がそっちに方向転換したら、バブル時代の別荘地のようなことになるだろう。
著名な写真家であるというだけでなくて、マンハッタンの中心に、必要にして最小のスペースを確保し、街の風景や友人と繋がることで生き続けてきた、エコロジカルな人生の手本でもある。(二宮)
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