」から、他、「二十世紀旗手」等でも数回使用)。丁度、ぼくもブタ小屋掃除などとのたまって、昔書いたものをひっくり返しているところで、それで、ああ、これはこれは、わたくしも、「十春秋」、と呟きかけて、はたとそれは違うと、気がついた。「十」ではないのだ。ぼくの場合、まだせいぜい六だか、七だかでしかない。うぬぬ。いいんだか、悪いんだか。とにかく、まだ使えないのである。
それに比べて、小谷氏、現在齢二十五、デビュー作「嘆きの雪」は、実際には十五の時の作であるので、このねぇちゃん、どうやら既に名実共に「十春秋」である。少なくとも十五のときから、えんえんとふられる歌を書きつづけているのである。どうやら、「おのが思念の風貌、十春秋、ほとんど変わっていないことを知るに及んで、、、」がやれるようである。最新作でも、残念ながらそれは少しも変わっておらん。失恋の歌は、間違いなく氏の持ちネタである。全く、いいんだか、悪いんだか。
ねぇちゃんの詩は、内容で分けると、失恋を含めて、だいたい3つのパターンがあります。最近は、その複合みたいなものを作るようになってきているようですが。と、いう話は、下らないですか。
(2002.4.6)-1
部屋に戻って、「女の決闘」第五を写して、それももうあと、一段落ほどで終わるという頃になって、電話で呼び出された。四月の第一週の金曜にあるイベントといえば、これは決まっている。それの2次会も、もう終りかけた頃にぼくは電話で呼び出された。
ぼくは欠席していた。理由は簡単で、今のぼくはこんなで、人前でアルコールを入れると、自分が喋ることに全く責任を持てない。きっと、自分のことを棚に上げて偉そうなことを、偉そうに断定口調で喋るに決まっている。いや、普段から責任なんて全然持ってないんだけれど、それでも、結果があらかじめ想像できてしまうのに、わざわざそういうことをしに行くだけの自棄はぼくにはないし、自棄するだけの価値がそこにあるとも思っていない。それから、出席すれば、あの子に会えるのである。で、今のぼくはこんなだから。
それで、ぼくは欠席をして、おとなしく部屋に戻って、もぞもぞ「女の決闘」を写していたのだった。そこへ電話で呼び出されたのだ。電話をかけてきた子は、相当に酔っているようで、来い、来い、としきりに誘う。はじめは、もう部屋に落ち着いてしまったし、することも、ないことはなかったので、嫌がったのだが、あの子に会える、となるとやっぱり、ぼくはあの子に会いたかった。会って、声を聴いて、笑うのを眺めたかった。情けないけれども、それはまだ、ぼくには一大事であるようだった。ぼくは、ぼくが行く頃には二次会も、きっともうほとんど終わりかけの頃で、だからあの子の顔をちょっと見る、くらいで終って、ぼくはそれで、きっと大丈夫だろう、と思った。
じゃあ、行くよ。と答えて電話を切り、第五の残りを写し終えてから、部屋を出た。渋谷まで15分くらい。自転車。その間、何を考えていたかは、書かない。金曜の晩なので、そんな時間でも、人通りが結構多かった。それくらい。正確には、書けない、で、つまり、そのときのことを何にも覚えてないんだ。
着いたのは11時半くらいだった。ちょうど2次会が終ったあたりだったので、ぼくは結局参加せずに、飲み屋の入っている、109の側のビルの前で、一行が出てくるのを待った。電話をかけて来た子がぼくを見つけて、やたらと絡んでくる。今日のその子は、かなりタチの悪い飲みっぷりだったようだった。いろいろ溜まっている、ということは少し、知っている。でも、ぼくに言える言葉は、ほとんど無い。ぼくは笑ってその子の相手をしながら、あの子を探した。あの子は、店からまだ出て来ないようだった。もしかすると、来ていないのかも知れない。2次会まで残らなかったのかも知れない。それも知らずに、実はぼくは来ていた。でも、あの子の性格からして、その可能性は低い。多分、一番最後に出てくるんだろう。
絡んでくるその子やら、同期やら、先輩やら、新人やらと適当に話をしながら、ぼくはあの子が出てくるのを待った。なかなか出て来ない。ああ、居ないんだ。そうか。それもいい。少し諦め加減の心持で、ぼくは煙草を取り出して、火を点けた。それも、いい。いや、多分、それが、いい。
その煙草を吸い終わる頃にぼくはようやくあの子を見つけた。その少し前に出てきていたようだった。他の同期と何やら喋っている。どう書こう。こんな記述形式にしたのは失敗だった。おかげで、ぼくのつたない脳みそでは、こう書くしかなくなってしまった。
ぼくは息を飲んだ。悪酔いしている子が、何やらぼくの左腕で遊んでいた。よく芝居や、漫画等の演出で、雑踏の中で急に周囲が暗くなり、スポットライトが二つ、というのがあるけれど、あれに近い。見つけた瞬間から、あの子は周囲から浮かび上がった。でも、そういう演出と今は、いくつか違っていて、それは、あの子はまだぼくには気が付いていなくて、それから、ぼくはあの子を正視できなかったということだ。そう、ぼくはあの子を正視できなかった。太陽を直接長時間眺めることはできない、というのとは、いや、それとはまた少し違う。そういう物理的な要因からではなくて、なぜだか、ぼくはあの子を見てはならない気がして仕方が無かった。それで、眼を逸らした。あの子は綺麗になっていたのだ。
ぼくはチラッとあの子を見ては、綺麗だ、と思って、すぐに視線を逸して、雑談に戻ったり、駅へ流れてゆく人々を眺めたり、うつむいて、ガムや煙草の吸殻の散らかった路面を見つめたりした。そのうちに、あの子もぼくが来ていることに気がついたようで、あの子もどうやらぼくを正視できていないようだった。あの子がそういう態度を示してしまうようになったのは、少し理由があって、それは書きたくないので、書かないけれど、まあ、そんなに大した話じゃない。ぼくがこないだ、一時期、ちょっと暴れた時に、少し溢れてしまっただけだ。
ぼくもチラチラあの子を見て、あの子もチラチラこちらを見ていたのだけど、視線が合うことは無かった。どちらも意識的にそれを避けていた。眼があったら、どうしていいのかわからないのだ。恐らくうまく笑えないだろう。挨拶をするのも、それすら難しいように思えた。そして、一度眼があってしまって、その先はあまり考えたくないな。いや、実際にはいっぱい考えたのだけれど。書くのは、止しましょう。
あの子は、どうやらそれに耐え切れなくなったようで、ぼくに背を向けて、誰やらと話し始めた。もう、あの子しか見ていなかったので、誰やらというのが、誰だったか、本当に覚えていない。ぼくの方は、やっぱりチラチラとあの子を見ていた。綺麗だった。
ぼくは結局、あの子に会えなかった。あの子を見た、だけだった。笑うところも見れなかった。声も聴けなかった。ぼくは見つめる以外の何をしても、危ない気がして、何もできなかった。できることと、したいことと、してしまうであろうことと。できることは、したいことを、全く満たさなかった。全てそれらは、してしまうであろうこと、でしかなかった。それをしないためには、ぼくはあの子に近づいてはならなかった。ぼくはそうして、動けずに、あの子をただ見つめていた。そのうちに、あの子はそのまま帰ってしまった。ぼくはそのうしろ姿が人ごみに混じって消えてしまうまで目で追いかけた。見えなくなったとき、多分、少し安心していたと、そう思う。
それから、ぼくは、なんだかよくわからないまま、あの子が居なくなったあとも、そこに残っていた。最後までその場にいた、ぼくの周囲の人たちが歩き始めたので、ぼくも歩いた。どうやらカラオケに行って、どうのこうのということらしかった。ぼくはよくわからずに、それについて歩いた。乗ってきた自転車は、例の子が乗りたいと言い出したので、譲っていた。
なんだか、よくわからないけれど、そのあと、結局カラオケに行った。帰りたいとずっと思っていた。よく部屋の外へ脱け出して煙草を吸った。それで、こんなことを考えていた。
なんで、あの子が綺麗にならなくちゃならないんだろう。確か、ふられたのはぼくのほうでしたよね。ええと、それは、間違いないですよね。で、なんで、あの子が綺麗になるんですか。なんで、ぼくはこんなになってしまっているんですか。間違ってませんか、それ。ええと、確か、こういうとき、綺麗になるのはふられた方ということになっていませんでしたっけ。ええと、違いましたっけ。おかしいなぁ。それって笑えないだけと違いますか。おかしいなぁ。
しかし、ほんとに綺麗だった。馬鹿みたい。言うのではありませんでした。ええと、ええと、、、ぼくはあの子を殺したいなぁ。。。あれ、それは駄目か。ああ、駄目だ。あの子を殺して、あの子がぼくの中にしかいなくなったら、それは駄目だ。全然嬉しくない。あの子はぼくの中にいるくせに、永遠にぼくを拒絶しつづけ、それで、ぼくは毎日悶絶しなければならない。
なんだこりゃ。なんだこりゃあ。なんだこりゃあって、言ってんだよ。アホか。アホか。お前アホだろ。そうだ、アホだ。帰りたいなぁ。帰りたいなぁ。帰ったからといってどうなるわけでもないんだけど。帰りたいなぁ。あの子を知らない頃へ、帰りたい。ってやつだろうか。面白くも何ともない。
ああ、綺麗だ。綺麗だ。まだ、眼に焼き付いている。どきどきする。困ったなぁ。なんだこれ。なんだこれは。わからねぇ。なんか、納得いかねぇ。なんで。何が、なんで?わからん、わからん。全部なんで、なんで。なんで、ぼくはあの子、
もういい。。。あの子は綺麗でした。ぼくは遠くからそれを見てるだけでした。それだけ。終わり。終わり。終わり。終ってしまえ。
カラオケは、最近の煙草の吸いすぎのせいかわからないけれど、声が出なくなっていた。それでも、地声で、「イオン」を歌った。その選曲は、どうなんだ、と言われた。こうなんだ。とは、答えず。
残念なことに、カラオケで聴かされるいくつもの恋の歌は、どれも不十分だった。ミュージシャンなんて、みんなヘタクソな空想家だと、思った。
結局、そこで夜を明かした。
でも、この歌、あげる。カラオケで聴いた曲からではなくて。小谷氏。
光の穴
I LOVE YOU それは自由だね
いいのよ誰であろうと
生涯友達のままの
届かぬ鳥に恋しても
「向うに行けないのかな」
夜にあいた 光の穴
夜の空に嫁いだ月が
夜の空に光を導いた
愛するわ 密やかに 愛するわ 見上げるわ
背中を見れない見惚れてしまう 体の奥で噛みしめるわ
I LOVE YOU 畏れることはない
この世にいてもいなくても
生涯触れることのない
届かぬ夜に恋しても
あなたは夜の空になった
あなたにあいた 光の穴
時に星は見てるだけがいい
誰も捕りに行っちゃだめよ
愛するわ 密やかに 愛するわ 見上げるわ
眠った髪を優しく撫でたい 体の奥で噛みしめるわ
愛するわ 密やかに 愛するわ 閉じ込めるわ
愛するわ 密やかに 愛するわ 見上げるわ
眠った髪を優しく撫でたい 体の奥で噛みしめるわ
Music & Lyrics: Misako(一部変形)
6時に部屋に戻って、すぐに眠った。昼過ぎに起きたら、胸のあたりが熱かった。また後ろ半分がなくなっていた。それで、ああ、そうか。と思った。そして、ぼくは、後ろ半分がない、から逃れようと、横になって蒲団にもぐり、体を丸め込んだ。でも、後ろ半分がない、はやっぱりそのままついて来ていて、ぼくのうしろがない、はなくならないので、また、逃げようと、くるりと90度、もう一度、もう一度、そうしてぼくは蒲団の中で一回転して。諦めて書くことにした。