連載コラム
第4回 階段のデザイン(その1)木でつくる

 一般的な住宅では、木製のささら階段か箱階段が用いられている場合が多いと思います。じつは仕事を始めるまでは、どうやらふつうの階段が最も安価なのだろうと考えていました。しかしながらこれは、あくまでプレファブメーカーの場合であって、よく考えてデザインすれば、ローコストで合理的な方法が無限にあることに気がつきます。たとえば、既成の鋼材をつかった軽快な階段やカウンターからそのまま連続する階段などなど。小住宅では玄関室や廊下からつながる階段室をつくると部屋が狭くなってしまうことが往々にしてあります。そこで部屋の中にできるだけ軽快に降り立つようにしたり、腰掛けやカウンターを兼ねた家具としてデザインすれば、階段がインテリアデザインのカナメに早変わりするわけです。工夫なく階段室をつくってしまい、同じ面積ならマンションのほうが広々しているというのでは全くの邪魔者になってしまいます!!! のぼることで同じ部屋を高い視点から感じたり、昇降機能だけでなく住まうための楽しいしかけとして考えることで、ひとつの部屋を何倍にも愉しむ絶好の機会にしてはいかがでしょうか。

 構造材としては主に木、鉄、鉄筋コンクリートの3種類があります。さらに踏面の仕上げには上記のほかにガラスやFRP、コルク、カーペット、石、ゴム、タイルなども考えられます。いろいろな可能性のなかから、建物ごとにコストパフォーマンスが高くオリジナルな解答を模索しているのですが、今回は昇降以外の機能や意味をもたせることに工夫した木製の事例を少し紹介したいと思います。木は御存知のとおり素足で歩くには気持ちのよいものですね。現場での加工も容易なので様々な形が可能なのですが、おざなりにして不恰好でチープなものにならないように気をつけたいところです。

 写真1のように集成材のカウンターがそのまま階段に連続するようにすれば、存在が邪魔にならず腰掛けることもできます。壁から飛び出すようなデザインなので、ぐらつかないようにしっかり壁の中で固定することが必要でした。そこで蹴込み板を片持ち梁のようにして強度を出しています。材料は36mm厚のイースタンオーク集成材に白い染色をかけ、ウレタン塗膜で仕上げています。染色は微妙な作業なので現場で建主と作業を見守りながらおこないました。白くモダンなインテリアに合うように木の黄色っぽさを消しながらも綺麗な木目を残すのがねらいです。

 写真2では収納ボックスと飾り棚を兼ねた腰掛けを階段の2段目として考えることで、スムーズに壁際のコンクリート階段に連続させています。甲板は3枚に分かれて開閉できるようになっていて、ナラ材(36ミリ厚)に黒い染色で仕上げています。床とともに庭からの陽光をドラマチックに反射し、落着いた雰囲気の居間になっています。コンクリートの壁面に沿って上がる部分の踏板もやはりナラ材にして、統一感をもたせています。

 写真3の下側に写っているのは、まさにふつうの木の階段です。下部はクローゼットや電気の操作盤などで見えなくなるから、構造的な工夫はいらずとても簡単。集成材のささらの上に踏板と蹴込み板を載せています。ただし、仕上げは白いウレタン塗装によってお豆腐のようにプレーンな印象になっています。これは、下階からはいった光を上階のダイニングへ反射させることを意図しています。土井まさるのテレビジョッキーでお馴染みだった参加賞の白いギター。あれは相当やぼったいものではありましたが、木だからと言って木目をありがたがるだけでもやっぱり、やぼったくなることがあります。

 写真4は二宮の師事した磯崎新の軽井沢書斎の階段です。古代遺跡にあるような丸太の削り出しです。たくさんの書物をかかえて軽快に上り下りする師をまねてみましたが腰がひけてしまいました。しかし、見た目も実際も怖いですから、とても安全です。。。両陛下もご静養中に訪問された究極の木階段です。
(鉄骨編、コンクリート編につづく)

 

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